この研究は、ロシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Fisheries

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ロシアでは、国民1人あたりの魚介類の消費量を年28キログラムに引き上げることが政策目標とされています。この値は保健省の推奨に基づくもので、国内消費の拡大とあわせて、輸出収入を2030年までに85億ドルへ伸ばすことも目標に掲げられています。

著者は、こうした目標を背景に、魚の消費水準がどのような要因に左右されるのかを経済的な観点から整理しました。ロシアと、その貿易相手国であるノルウェー、日本、中国の消費動向を比較し、資源量、気候、制裁、価格といった要因が消費にどのように関わるかを、統計、業界団体の報告、既存の研究をもとに論じています。

各国で見られる消費の伸び悩み

論文によると、業界団体のデータでは、ロシアの1人あたり魚消費量は2025年に24キログラムでした。2024年より2.4%、2023年より10.9%少なく、目標の28キログラムには届いていません。

消費の減少はロシアだけの現象ではないと著者は指摘しています。ノルウェーでは過去10年で消費量が18%減って1人あたり29.7キログラムとなり、2023年の調査では、10人中4人が経済的な理由で魚の購入をやめ、85%が魚の価格を非常に高いと感じていたと紹介されています。日本では2014年から2024年にかけて1人あたりの消費量が21%減り、原魚換算で年39.8キログラム、食べられる部分の重さで年21.3キログラムになったとされます。

一方、中国の1人あたり消費量は2026年に41.65キログラムと大きな規模を保っています。ただし中国では、環境・気候の要因、世界的な物流の混乱、季節による需要の変動、投機的な取引によって価格が大きく変動しています。その結果、市場は、富裕層・中間層向けの高級な輸入品や天然魚と、一般向けの安価な基本的な魚種とに二分されていると論文は述べています。

消費を左右する供給側の要因

ロシアの漁獲量はここ4〜5年、約500万トンで推移しており、2025年の魚の自給率は123%と高い水準にあります。それでも消費が伸びない背景として、著者は供給側のいくつかの制約を挙げています。

一つ目は気候変動です。論文が紹介する国際研究では、温暖化によって魚がより早く成熟し、より小さくなる方向へ適応が進むと予測されています。約3000種の生活史で検証されたモデルによれば、世界の気温が産業革命前より2度上昇すると、世界の漁獲量は22%減るとされます。バレンツ海でも、水温の高い状態が続き、暖かい海に特徴的な種が増える一方で北極性の種が減るといった変化が報告されています。

二つ目は制裁の影響です。北東大西洋の漁業委員会に加盟する国々の港で、給油や補給などのサービスを受けられなくなり、漁獲から積み替え、市場への輸送までの流れが機能しにくくなっています。その結果、輸送距離が延び、燃料費などのコストが増え、競争力が下がっていると論文は述べています。

三つ目は資源管理のための漁獲枠の削減です。2026年のバレンツ海のタラの総漁獲可能量は28万5000トンと前年比16%減り、ロシアの割当は12万827トンと過去5年で最も少なくなりました。2026年1月1日から7月19日までのタラの漁獲量は前年より10.7%減っています。年初からの卸売価格は、極東の太平洋タラが38.3%上昇して1キログラムあたり560ルーブル、北西部の大西洋タラが34.7%上昇して660ルーブルに達しました。

価格と消費者の変化、そして提言

大都市の売り場には冷蔵魚、加工品、調理済み食品など多様な商品が並んでいます。それでも著者は、価格の高さが多くの成人をニシン、ハドック、スケトウダラといった安価な冷凍魚へ向かわせていると指摘します。タラが特に親しまれてきたムルマンスク州やアルハンゲリスク州では、タラの値上がりにより消費が減ると見込んでいます。また、魚の消費水準と家計の購買力の間には密接な関係があるとする研究も紹介されています。

一方で、若い世代には前向きな変化も見られます。切り身や半調理品のように手軽に調理できる商品の需要が高まっており、魚の半調理品の販売は重量で9%、金額で24%伸びたとされます。骨が苦手という心理的な壁を取り除く切り身も売れ行きを伸ばしています。ノルウェーの研究からは、子どもの頃に魚を食べる習慣があった人ほど、大人になっても食べ続ける傾向があることが紹介されています。

国内消費の拡大と輸出収入の増加は、互いに逆向きに働きやすい目標だと著者は位置づけています。そのうえで、輸出の制限は適切でないとする市場関係者の見方を紹介しています。実践的な提言としては、長期的な販売施策を含む価格面での手に取りやすさの向上、健康上の利点よりも味や食体験を前面に出す販売促進、魚を使った子ども向け食品の育成、消費拡大に向けた行動計画の見直しが挙げられています。

この研究が示すのは、魚の消費を増やすには需要を喚起するだけでは足りないということです。資源量、気候、国際関係、価格といった複数の要因が絡み合うなかで、著者は国内外の経験から、漁獲、生産、価格、消費者への伝え方を一体的に扱う取り組みによって消費の拡大は可能だと結論づけています。

著者:Sergey S. Vopilovskiy(Luzin Institute for Economic Studies – Subdivision of the Federal Research Centre «Kola Science Centre of the Russian Academy of Sciences»)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sergey S. Vopilovskiy. Dependence of fish consumption levels on the course of key factors. Fisheries 2026-09-24. DOI: 10.36038/0131-6184-2026-4-29-36. 原著ライセンス:CC BY.