著者の所属・活動拠点の国は、香港、中国です。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
「食品ロスを減らそう」という呼びかけは、世界中で見聞きするようになりました。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の中にも、2030年までに小売・消費段階での一人当たり食品廃棄量を半減させるという目標(SDGターゲット12.3)が掲げられています。家庭から出る食品ロス、いわゆる「家庭系食品廃棄」は、この目標達成の大きな壁の一つとされています。
これまでにも、家庭系食品廃棄に関する研究がどれだけ増えてきたか、どんなテーマが扱われてきたかを整理した文献レビューは数多く存在してきました。しかし今回紹介する研究は、少し違う角度から問いを立てています。「論文の数」や「研究のトレンド」を数えるだけでなく、「誰の問題が、誰の文脈で、誰の解決策として優先されてきたのか」という視点です。研究の世界にも地理的・テーマ的な偏りがあるのではないか、という問いかけは、食に関心のある読者にとっても興味深いテーマではないでしょうか。
研究でわかったこと
この研究では、2011年から2025年にかけて発表された家庭系食品廃棄に関する論文616本を対象に、Web of Science、CNKI、SciELO、AJOLという複数の学術データベースから収集し、CiteSpaceという文献解析ツールを用いて分析が行われました。あわせてScopusによるクロスチェックも行われています。
分析の結果、大きく3つの点が明らかになったと報告されています。
1つ目は、世界規模で見た研究成果の地理的・テーマ的な偏りです。中国という顕著な例外を除くと、いわゆる「グローバルサウス」(南半球を中心とした低・中所得国)からの論文数は少なく、研究者間のつながりを示すネットワークの中でも周辺的な位置にとどまっていたとされています。また、2025年より前は、低所得国の研究者が自国の研究を主導する例はほとんど見られなかったとのことです。さらに、高所得国の研究では人々の行動要因に焦点が当てられる一方、低所得国の研究では食料安全保障やインフラの整備が優先的なテーマとされていました。北側(グローバルノース)と南側(グローバルサウス)の研究クラスター同士を直接つなぐキーワードのつながりは、わずか2本しか確認されなかったと報告されています。
2つ目は、研究分野そのものの分断です。「人々の行動を変えることで食品ロスを減らそうとするアプローチ」と、「廃棄物処理などの後工程で対応しようとするエンジニアリング的アプローチ」との間で、共有されるつながりや重なりは全体の1%未満にとどまっていたとされています。
3つ目は、研究で長らく使われてきた理論的枠組みの変化です。「計画的行動理論」と呼ばれる、人の行動を予測するための理論は、この分野で長く主流とされてきましたが、その論文全体に占める割合は2021年に30.4%でピークを迎えたのち、2025年には20.9%まで低下したと報告されています。研究者たちは、この理論を補うかたちで、感情に関わる要因や、それぞれの地域・文脈に応じた変数を組み込みつつあるとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
著者らはこれらの結果から、地理的な不平等、テーマの偏り、分野間の分断を、この研究領域が抱える構造的な課題として指摘しています。そのうえで、食品ロス研究は工学的・短期的な行動アプローチから、より大きな文脈を踏まえた介入や、長期的なライフスタイルに着目したアプローチへと変化してきたとまとめています。
この研究は、あくまで既存の文献を対象にしたスコーピングレビューであり、家庭系食品廃棄そのものの原因や対策の効果を直接検証したものではありません。また、対象としたデータベースや期間、分析手法によって見えてくる傾向は変わりうるため、一つの研究として結論が確定したわけではない点には留意が必要です。著者らは、より公平な国際協力や、地域の文脈に即した理論づくり、そして情報の少ない地域における基礎データへの投資が、SDGターゲット12.3の達成に向けて重要だと述べています。
まとめ
今回紹介した研究では、2011年から2025年までの家庭系食品廃棄に関する論文616本を分析した結果、研究の地理的・テーマ的な偏りや、行動科学と廃棄物管理という分野間の分断が明らかになったと報告されています。また、これまで主流だった行動理論への依存が近年弱まりつつあることも示唆されています。食品ロス問題は世界共通の課題として語られがちですが、その「研究のされ方」自体にも目を向けることの大切さを示す一つの手がかりといえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):家庭系食品廃棄研究における地理的・テーマ的不均衡(2011~2025年):サイトスペースを用いたスコーピングレビュー(フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ・2026年07月)
著者:Tonglu Li(Department of Geography, The University of Hong Kong, Pokfulam, Hong Kong SAR, China)、Tonglu Li(Zhejiang Collaborative Innovation Center for Land and Marine Spatial Utilization and Governance Research, Ningbo University, Ningbo, China)、Renfeng Ma(Zhejiang Collaborative Innovation Center for Land and Marine Spatial Utilization and Governance Research, Ningbo University, Ningbo, China)、Renfeng Ma(School of Geography and Remote Sensing, Ningbo University, Ningbo, China)、Guanmin Qiao(Zhejiang Collaborative Innovation Center for Land and Marine Spatial Utilization and Governance Research, Ningbo University, Ningbo, China)、Guanmin Qiao(School of Geography and Remote Sensing, Ningbo University, Ningbo, China)