著者の所属・活動拠点の国は、バングラデシュです。

掲載誌:Journal of the Bangladesh Agricultural University

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ニンジンは世界で広く栽培される栄養豊かな根菜ですが、収穫後は水分が抜けたり、柔らかくなったり、微生物によって腐敗したりしやすい作物です。論文によると、バングラデシュでは生産されたニンジンのおよそ32%が、取り扱いの不備や収穫後の損失によって失われているとされています。

この課題に対し、バングラデシュ農業大学の研究チームは「MA包装(modified atmosphere packaging)」に注目しました。MA包装とは、袋の中の酸素や二酸化炭素などの気体の割合を外気とは違う状態に保ち、青果物の呼吸や微生物の増殖を抑えて日持ちを延ばす方法です。ただし、ニンジンの品種ごとにどのような包装が適しているかは、これまで明確になっていませんでした。そこで著者らは、包装の種類と品種の組み合わせが、保存中の見た目・成分・病害の発生、そして日持ちにどう影響するかを調べました。

どのように調べたか

実験は2025年3月から5月にかけて、大学の研究室で行われました。用いたのは「Shidur」「Improved Kuroda」「Orange King」の3品種です。包装は、袋に入れない「対照(無包装)」、直径50マイクロメートルほどの小さな穴を約20個あけたポリエチレン袋「穴あき袋」、穴のない「密閉袋」の3通りで、品種と包装を組み合わせた9通りを比較しました。袋にはそろった大きさのニンジンを10本ずつ入れ、25℃前後の室温で保存しました。

保存中は2日おきに、表面の色、新鮮さ、硬さ、重量の減り方、糖度の目安となる可溶性固形分などを記録しました。あわせて、乾物(水分を除いた部分)の割合、糖の組成、酸味の指標である滴定酸度も測定しました。さらに、病気の症状が出た根の割合(発病率)と、病斑が根の表面に占める割合(重症度)を調べ、約半数の根に傷みや腐敗が見られた時点を日持ちの終わりとしました。

主な結果

最も良い成績を示したのは、Shidurを穴あき袋に入れた組み合わせでした。この組み合わせは保存中も濃いオレンジ色を比較的よく保ち、病気の重症度も最も低く抑えられました。乾物の割合は19.13%で全組み合わせの中で最も高く、還元糖も3.43%と最も高い値でした。日持ちは最長の17.4日に達し、最も短かった無包装のImproved Kurodaの7.67日を大きく上回りました。

穴あき袋は、品種を問わず新鮮さの維持にも効果を示しました。保存16日目でも穴あき袋のニンジンは「良い」の評価を保ちましたが、無包装のものは最低評価に達していました。硬さについても穴あき袋で軟化が遅れ、保存12日目ではImproved Kurodaを穴あき袋に入れた組み合わせが最も硬さを保っていました。

無包装のニンジンは傷みが速く進みました。保存16日目には重量が最大で58.66%減り、可溶性固形分は保存12日目に最大13.87%まで上昇しました。発病率は保存14日目に全品種で100%に達しています。

一方、密閉袋は水分の保持に優れ、保存16日目の重量減少は2〜4%程度にとどまりました。しかし、新鮮さや病害の抑制という点では穴あき袋に及ばず、とくにImproved KurodaとOrange Kingでは病気の重症度が高くなりました。著者らは、袋の中に水分がこもりすぎることや、酸素が不足した状態が、品質低下の一因になりうると論じています。

研究が示すこと

この研究は、ニンジンの保存では「袋に入れるかどうか」だけでなく、「どのような袋を使い、どの品種と組み合わせるか」が品質と日持ちを左右することを示しています。水分をただ閉じ込めるのではなく、適度に空気が通る状態を保つことが、室温での保存で特に重要だというのが著者らの結論です。

なお、著者ら自身が述べているとおり、今回の結果は室温での保存と3品種に限られたものです。また、袋の中での呼吸量やエチレン(熟成を促す植物ホルモン)の発生量は測定しておらず、品質が保たれた仕組みについては十分に分かっていません。それでも、身近なポリエチレン袋に小さな穴をあけるという簡便な工夫が、収穫後の損失を減らす手がかりになりうることを、具体的なデータで示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Anik Kumar Saha(Department of Horticulture, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh-2202)、Md. Harun Ar Rashid(Department of Horticulture, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh-2202)、Muhammad Javidul Haque Bhuiyan(Department of Biochemistry and Molecular Biology, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh-2202)、Md. Golam Rabbani(Department of Horticulture, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh-2202)、Monira Mamotaj(Department of Horticulture, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh-2202)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anik Kumar Saha, Md. Harun Ar Rashid, Muhammad Javidul Haque Bhuiyan, et al. Enhancing Shelf Life and Quality of Carrots as Influenced by Modified Atmosphere Packaging (MAP). Journal of the Bangladesh Agricultural University 2026-09-29. DOI: 10.3329/jbau.v24i3.93887. 原著ライセンス:CC BY.