クレアチンというと、筋トレをする人が使うサプリメントのイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし実は、肉や魚、卵といった日常の食品にも自然に含まれている成分です。近年、この食事から摂るクレアチンの量が、気分の落ち込みなど「うつ病」の状態と関連しているのではないかという研究が注目を集めています。今回紹介するのは、その関連が本当に再現できるのかを、より新しいデータを使って確かめ直した研究です。
きっかけとなった先行研究
2020年に発表されたBakianらの研究では、2005年から2012年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用い、成人22,692人を対象に食事性クレアチン摂取量とうつ病の関連が調べられました。その結果、摂取量が最も多いグループ(上位4分の1)は、最も少ないグループ(下位4分の1)と比べて、現在のうつ病の調整オッズ比が0.68(95%信頼区間0.52〜0.88)だったと報告されています。オッズ比が1より小さいということは、摂取量が多いグループの方がうつ病に該当する割合が低い傾向にあったことを意味します。特に女性や20〜39歳の年齢層でこの傾向が強かったとされています。
ただし、この結果がより新しい時期のデータでも同じように見られるのかを調べた研究はまだ少なく、また「食事性クレアチン」をどのように計算するか(例えば魚介類を含めるかどうか)によって結果が変わるかどうかも、これまで検討されていませんでした。今回の研究は、この2点を確かめることを目的としています。
研究でわかったこと
研究チームは、2013〜2014年、2015〜2016年、2017年〜2020年3月(新型コロナウイルスの流行前まで)のNHANESデータを組み合わせ、PHQ-9という質問票による評価と食事調査の両方が揃っている20歳以上の成人、合計14,664人を分析対象としました。うつ病の判定は、PHQ-9スコアが10以上であることを基準としています。食事性クレアチンの量は、USDAの食品データベースをもとに、Bakianらの研究と同じ計算式を用いて推定されました。
今回の研究の特徴は、クレアチンの「食品源」の定義を4パターン用意し、結果がどう変わるかを比較した点です。定義Aは肉・鶏肉・卵のみ(魚介類を含まない)、定義Bはそこに魚介類の一部(30%)を加えたもので、Bakianらの元の定義に最も近いとされています。定義Cは魚介類と豆類以外の植物性食品を組み合わせたもの、定義Dは魚介類の割合をさらに高めた(50%)シナリオです。年齢や性別、人種・民族、所得、教育、BMI、喫煙、運動習慣、医療へのアクセス、抗うつ薬・抗不安薬の使用などの要因を統計的に調整した上で分析が行われました。
結果として、摂取量が最も多いグループと最も少ないグループを比べた調整オッズ比は、定義Bで0.72(95%信頼区間0.54〜0.95)、定義Cで0.65(0.46〜0.91)、定義Dで0.67(0.50〜0.91)となり、いずれも摂取量が多いほどうつ病の割合が低い傾向が統計的に意味のある形で示されました。一方、魚介類を含めない定義Aでは0.81(0.60〜1.07)となり、信頼区間が1をまたいでいたため、統計的にはっきりした関連とは言えない結果でした。またBakianらの結果に近い定義Bを使った場合、今回のオッズ比0.72は元の研究の0.68と近い値でしたが、関連のやや弱まった形になっています。なお、20〜39歳の若い年齢層に限定した分析(4,607人)でもオッズ比0.60〜0.72と同じ方向の傾向が見られましたが、対象人数が少なく統計的に確実な結果とまでは言えなかったとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究の重要なポイントは、「クレアチンをどの食品からの摂取と定義するか」によって、関連の強さや統計的な有意さが変わったという点です。魚介類を計算に含めた定義(B・C・D)では摂取量とうつ病の関連が見られた一方、肉・鶏肉・卵のみに限定した定義Aでは、その関連ははっきりしない結果になりました。研究チームは、今後の研究ではこの定義の違いを明示することが重要だと述べています。
また、この研究はあくまで、ある一時点での食事状況とうつ病の状態を横断的に調べたものであり、「クレアチンを多く摂ればうつ病になりにくくなる」という因果関係を証明したものではない点に注意が必要です。年齢層別の分析も対象人数が限られており、結果の解釈には慎重さが求められます。一つの研究結果であり、この関連について結論が確定したわけではないことを念頭に置いて読むとよいでしょう。
まとめ
今回の研究では、より新しい時期のNHANESデータを用いても、食事性クレアチン摂取量とうつ病の関連がおおむね再現される一方で、その結果の強さはクレアチン源に魚介類を含めるかどうかという定義の違いに左右されることが示されました。食事とメンタルヘルスの関係はまだ研究途上のテーマであり、今後さらに異なる集団やデザインでの検証が期待される分野といえます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:米国成人における食事性クレアチン摂取量とうつ病:Bakian 2020のマルチサイクルNHANES再現・感度分析(インターナショナル・ジャーナル・オブ・メディカル・スチューデンツ)