メイン州はロブスターをはじめとする水産物の産地として知られ、水産業は州の経済にとって重要な位置を占めています。その一方で、メイン州は食料不安(十分な食べ物を安定して得られない状態)の割合が高いことでも知られています。魚介類は栄養価の高い食品の一つとされていますが、地元で豊富に獲れるはずの水産物が、食料支援を必要とする人々にどれだけ届いているのかは、実はあまりよくわかっていませんでした。今回紹介する論文は、この「地元の水産物」と「食料支援」という二つのテーマがどうつながっているのかを、現場の声から丁寧に掘り起こした研究です。
研究チームは、南部メイン州で食料支援プログラム(フードバンクやフードパントリーなど、食料不安のある人に食べ物を届ける仕組み)を運営する16の団体に半構造化インタビューを実施しました。目的は、これらのプログラムが水産物をどのように調達し、活用し、配布しているのか、そしてどのような経路や障壁があるのかを明らかにすることです。分析にあたっては「多様な経済(diverse economies)」という考え方や「社会的インフラ」に関する研究の視点を取り入れ、南部メイン州の食システムの中で水産物へのアクセスを可能にしている経済的な仕組みを整理しました。
調査でわかったこと
配布されていた水産物の産地を見ると、49%は産地が不明、38%は米国内産、7%はメイン州内産、4%は海外産という内訳でした。地元メイン州産の水産物の割合は決して大きくない、という結果が示されています。
水産物が食料支援の現場に届く経路は、主に二つのルートに整理されました。一つは米国農務省(USDA)が運営する「緊急食料支援プログラム(TEFAP)」で、これは米国内産の水産物をさまざまな形態で流通させていました。もう一つはメイン・コースト漁業者協会(Maine Coast Fishermen's Association)による「フィッシャーマン・フィーディング・メイナーズ」というプログラムで、こちらは地元で獲れた冷凍の底魚(グラウンドフィッシュ)を地域内で流通させていました。
一方で、水産物へのアクセスを難しくする要因として、安定した資金の確保、製品のコスト、そして製品の形態や包装の問題が挙げられました。逆に、こうした障壁を乗り越えてアクセスを可能にしている要因としては、多様な関係者どうしのパートナーシップや協働によって築かれた強い「社会的インフラ」、そして設備や知識を共有し合う仕組みがあることが示されています。さらに、水産物へのアクセスは、通常の市場取引だけでなく、非市場的な取引や、州・連邦からの助成金といった非市場的な資金調達など、多様な経済的関係によって支えられていることが報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、南部メイン州という特定の地域で、16件のインタビューという限られた事例をもとに行われたものです。そのため、得られた知見がメイン州の他地域や他の国・地域の食料支援の仕組みにそのまま当てはまるとは限りません。また、この研究は水産物の消費が健康にどのような影響を与えるかを直接検証したものではなく、あくまで食料支援プログラムを通じた水産物の流通経路や、それを可能にする仕組みに焦点を当てた調査です。
研究チームは、慈善的な食料支援の仕組みを、通常の営利的な食料システムの「周辺」にあるものとしてではなく、両者が切り離せない形で結びついているものとして捉え直す必要があると論じています。今後、水産物へのアクセスを確かなものにしていくためには、こうした多様な関係者や経済的なつながりを含めて食のシステム全体を考えていく必要がある、という視点が示されています。
まとめ
この研究は、水産業が盛んなメイン州において、食料支援プログラムが水産物をどのように調達・流通させているのか、その経路と課題を現場のインタビューから描き出したものです。地元の水産物が食料不安のある人々に届く背景には、行政のプログラムだけでなく、漁業者団体との協働や助成金など多様な仕組みが関わっていることが示唆されています。一つの地域を対象とした研究であり、結論が確定したわけではありませんが、水産物と食料支援の関係を考えるうえで興味深い視点を提供してくれる研究だといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:社会的インフラと多様な経済がメイン州南部の食料支援プログラムを通じた水産食品アクセスを可能にする(フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ・2026年07月)