ボクシングや柔道、レスリング、総合格闘技(MMA)など、体重階級制の格闘技では、試合前に体重を絞り込む「減量」が当たり前のように行われています。計量ぎりぎりまで体重を落とし、計量が終わった直後から一気に体重を戻す——そんな光景を目にしたことがある人もいるかもしれません。この「急速減量(Rapid Weight Loss, RWL)」、いわゆる「体重カット」は、選手の健康やパフォーマンスにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。今回紹介する論文は、こうした急速減量に関するこれまでの研究や声明を整理し、全体像をまとめたスコーピングレビュー(範囲を広くとって既存研究を地図のように整理する文献レビュー)です。
研究でわかったこと
この研究では、Joanna Briggs Instituteという研究機関が定めた方法論と、スコーピングレビュー向けの報告基準(PRISMA-ScR)に沿って、ボクシング、総合格闘技、レスリング、柔道、テコンドー、ブラジリアン柔術、キックボクシング、ムエタイ、サンボなど、体重階級のあるさまざまな格闘技を対象とした査読済み研究やコンセンサス声明(専門家間の合意声明)が集められ、内容が整理されました。
その結果、急速減量は格闘技全般で非常に広く行われている実態が示されました。具体的な方法としては、脱水、エネルギー(食事)制限、暑熱環境への曝露、食事や体内の水分の操作などが挙げられています。
健康面への急性リスクとしては、脱水、電解質バランスの乱れ、腎臓への負担や急性腎障害、体温調節機能の低下、内分泌系の乱れ、エネルギー不足の状態(低エネルギー可用性)、睡眠の乱れ、疲労、気分の変化、摂食に関する問題、さらには脳震盪の症状と重なるような症状まで、多岐にわたる懸念が報告されています。
一方で、計量後に急いで体重を戻すこと(リウォーター)が実際の試合結果の良さと関係しているかどうかについては、これまでの研究結果が一致しておらず、はっきりした結論は出ていないとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、新たに実験や調査を行ったものではなく、既存の研究や声明を集めて整理・要約した「スコーピングレビュー」です。そのため、個々の研究の質のばらつきや、対象とした格闘技・年代・性別の違いなどが結果に影響している可能性があります。また、体重の急速な回復と競技成績との関係については「結論が出ていない」とされており、今後さらなる検証が必要な分野だといえます。あくまで一つのレビュー研究であり、これによって急速減量の是非が最終的に決着したわけではない点には留意が必要です。
まとめ
この研究では、格闘技における急速減量が非常に広く行われている一方で、脱水や腎臓への負担、内分泌系の乱れ、低エネルギー可用性など、さまざまな健康リスクと結びついている可能性が指摘されました。著者らは、安全な体重管理のためには、直前の急激な減量ではなく、長期的な体重計画を重視し、極端な脱水や過度な温熱・薬理学的手法を避けることが望ましいと結論づけています。減量が「当たり前の慣習」になっている競技文化のあり方を、あらためて考えさせられる内容です。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:格闘技における急速減量:健康リスク、パフォーマンスのトレードオフ、エビデンスに基づく体重管理――スコーピングレビュー(クオリティ・イン・スポーツ・2026年08月)