この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Bioresources and bioprocessing
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
アーモンドの加工では大量の殻が副産物として生じます。研究チームによれば、この殻はセルロース約26〜38%、ヘミセルロース約23〜28%、リグニン約21〜29%という組成を持ち、有用な物質の原料となりうるにもかかわらず、現在は主に燃焼や炭の製造、補強材といった付加価値の低い用途に使われています。
殻は木質で硬く、微生物や酵素で分解しにくいため、これまでの研究では薬品を使う処理を二段階で行う必要があり、工程が複雑になること、また糖化に使うセルラーゼ(セルロースを分解する酵素)の費用が大きな負担になることが課題だったと著者らは整理しています。
そこで著者らは、水だけを使う熱水処理と菌類による発酵を組み合わせ、酵素を外から加えずに二種類の有用物質を同時に得る簡素な工程をつくることを目的としました。狙った産物は、ヘミセルロース由来のキシロオリゴ糖(XOS:キシロースが数個つながった糖で、腸内の有用な微生物を増やすプレバイオティクスとして知られる高付加価値成分)と、セルロース由来のセロビオン酸(CBA:セロビオースが酸化した化合物で、食品・医薬・化学分野で用途がある)です。
何を調べ、どう進めたか
研究チームはまずカリフォルニア産のアーモンド殻を粉砕し、水とエタノールで可溶性の成分を除いた試料を用意しました。これを水とともに密閉容器に入れて加熱する熱水処理にかけ、温度170〜190℃、時間10〜30分の範囲で条件を統計的な手法(応答曲面法)によって検討しました。熱水処理では水そのものの働きでヘミセルロースが溶け出しやすく、腐食性の薬品を持ち込まずに済む点が利点とされています。
次に、処理後に残った固形分をそのまま、遺伝子改変された繊維分解性の菌類 Thermothelomyces heterothallica TH-11 の培養に供し、外から酵素を加えずにセロビオン酸ができるかを調べました。比較のため、未処理の殻、熱水処理した殻、参照物質である微結晶セルロース(アビセル)について、市販の酵素を使った糖化も行っています。得られた液のキシロオリゴ糖は鎖の長さごとの分布も分析されました。
主な報告結果
熱水処理では、180℃・20分で最も高いXOS濃度(21.0 g/L)が得られました。ただし時間を延ばすと単糖のキシロースが増えてしまうため、著者らは180℃・8分を実用上の最適条件として選んでいます。この条件ならXOS量はほぼ同程度を保ちつつ、キシロースの生成を大きく抑えられるという判断です。装置を大型化した加圧反応器でも実施され、XOS濃度は17.2〜17.4 g/Lで、小型管型反応器の18.1 g/Lよりやや低い値でした。著者らはこれを、大型装置では目標温度に達するまでの時間が長く、結果として処理がより厳しくなったためと説明しています。結論部では、キシランからXOSへの変換効率は約69%に達したと報告されています。
鎖の長さの分析では、キシロース3個・4個からなる短鎖のものが主成分で、2個から10個までの範囲に分布していました。
酵素による糖化の比較では違いが明確でした。アビセルは4日で約90%が分解された一方、未処理の殻は酵素量を増やしても9.8%しか糖化されませんでした。熱水処理した殻は同じ高い酵素量で46.6%まで改善し、未処理比で4.75倍でした。
菌類による発酵では、セロビオースが2日目にピークを迎えたのち減少し、代わりにセロビオン酸が増えて約31.8 mMに達しました。セルロースの変換率は約56.4%、消費されたセルロースを基準としたCBAの収率は約89.0%と報告されています。この56.4%という変換率は、市販酵素を多く加えた場合の46.6%を上回りました。著者らはその理由として、菌が培養環境に応じて必要な酵素をその場で作り出せること、またセロビオースがセロビオン酸へ変わることで酵素の働きを妨げる作用が和らぐことを挙げています。
一方で著者らは限界も示しています。熱水処理はヘミセルロースをよく溶かしますが、リグニンの除去はアルカリ処理ほど進まず、残ったリグニンが物理的な障壁となったり酵素を無駄に吸着したりして、セルロースの利用が十分でないと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、水だけを使う一段階の処理と菌類の発酵を組み合わせることで、低価値な用途にとどまっていたアーモンドの殻から、プレバイオティクスとして知られるキシロオリゴ糖と工業用途のあるセロビオン酸を、外から酵素を加えずに併産できることを実験で示したものです。著者らは、キシランからXOSへの変換は高い水準に達した一方、セルロースの変換率はまだ低く、相当量のセルロースが活用されずに残っていると自ら指摘しています。それでも、二つの産物を同時に得られたという結果は、農産加工の副産物を無駄なく使う仕組みを考えるうえでの一つの足がかりとなる報告だと位置づけられています。
著者:Sharma S(Department of Biological and Agricultural Engineering, University of California, Davis, One Shields Avenue, Davis, CA, 95616, USA.)、Shapouri H(Department of Biological and Agricultural Engineering, University of California, Davis, One Shields Avenue, Davis, CA, 95616, USA.)、Pournaki SK(Department of Food Science & Technology, University of California, Davis, One Shields Avenue, Davis, CA, 95616, USA.)、Barile D(Department of Food Science & Technology, University of California, Davis, One Shields Avenue, Davis, CA, 95616, USA.)、Kasuga T(Department of Plant Pathology, University of California, Davis, One Shields Avenue, Davis, CA, 95616, USA.)、Fan Z(Department of Biological and Agricultural Engineering, University of California, Davis, One Shields Avenue, Davis, CA, 95616, USA. [email protected].)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sharma S, Shapouri H, Pournaki SK, et al. Integrated hydrothermal and microbial valorization of almond shells into xylooligosaccharides and cellobionic acid. Bioresources and bioprocessing 2026-09-26. DOI: 10.1186/s40643-026-01125-1. 原著ライセンス:CC BY.