日本掲載:本論文はJ-STAGEに掲載されています。

掲載誌:日本小児アレルギー学会誌

ライセンス: 著作権表示のみ

ナッツ類のアレルギーというと、じんましんや口の周りの腫れ、重い場合は呼吸困難といった症状を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし今回、日本小児アレルギー学会誌に掲載予定の症例報告では、クルミアレルギーが関わったとみられる重い急性膵炎(すい炎)を発症した4歳女児の経過がまとめられています。食物アレルギーが膵臓の炎症という形で現れることがあるという、あまり知られていない可能性を示す報告です。

群馬大学大学院医学系研究科小児科学の研究グループによって報告されたこの症例では、患児にはスギ花粉症の既往があり、過去1年以内にもクルミを食べたあとに唇の周りに膨疹(盛り上がった発疹)が出たことがありました。今回はクルミ、カシューナッツ、アーモンド、ピーナッツが入ったミックスナッツを食べた直後に同様に唇周囲の膨疹が出現し、その後1時間ほどで強い腹痛、16時間ほどで嘔吐と発熱が現れています。

検査と治療の経過でわかったこと

受診後の血液検査では、膵臓の炎症の指標となる血清アミラーゼが1,320 U/Lと大きく上昇していました。造影CT検査では膵臓の腫れと膵臓周囲への液体の貯留が確認され、重症度を判定する予後因子は4点、CT Gradeは3と評価されたことから、重症急性膵炎と診断されています。治療としては絶飲食、点滴による輸液管理、抗菌薬投与が行われましたが、その後も腹水が増えて膵液瘻(膵液が漏れ出す状態)が疑われたため、腹腔内にたまった液体を体外に出すドレナージという処置が追加されました。発症から27日目に行われた腹部MRI検査では、膵臓が萎縮している所見も確認されています。

原因を調べるための特異的IgE抗体検査では、クルミに対する抗体がクルミ全体で4.20 UA/mL、クルミの主要アレルゲン成分であるJug r 1に対して4.48 UA/mLと、いずれも陽性の結果でした。これらの検査結果と、ミックスナッツ摂取後に症状が出たという経過を踏まえ、著者らはクルミアレルギーが今回の膵炎発症の誘因になったと考えられるとしています。

この報告の位置づけと読むうえでの注意

著者らは、食物アレルギーがきっかけとなって膵炎を起こした例はこれまでにも報告があるものの、その多くは軽症であったと述べています。一方で今回の症例は、腹腔ドレナージという外科的な処置が必要になり、膵臓の萎縮という後遺症も残った重症例であった点が特徴です。著者らは、食物アレルギーが急性膵炎の原因となる可能性を診療の際に念頭に置く必要があると結論づけています。

ただしこれは1人の患者についての症例報告であり、クルミアレルギーのある人が一般的に重い膵炎を起こしやすいことを示すものではありません。因果関係の証明には限界があり、今回のような重症化がどの程度の頻度で起こりうるのかも、この報告だけからは分かりません。ナッツアレルギーがある方の食事管理や受診の目安について不安がある場合は、自己判断せず医療機関に相談することが望まれます。

まとめ

今回の症例報告は、クルミを含むミックスナッツの摂取後に口唇周囲の膨疹に続いて重い腹痛や嘔吐、発熱が生じ、検査の結果、重症急性膵炎と診断された4歳女児の経過を紹介するものです。特異的IgE抗体検査でクルミとその主要アレルゲン成分に対する陽性が確認されたことから、著者らはクルミアレルギーが膵炎の誘因となった可能性を指摘しています。一つの症例報告であり結論が確定したものではありませんが、食物アレルギーが消化器系の重い症状につながる可能性があることを示す事例として参考になる報告といえます。

原著論文の著者・所属:Saki Matsuno(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Takuya Nishizawa(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Hisako Yagi(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Yusuke Otani(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Naoya Arakawa(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Satoshi Yamada(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Yutaka Nishida(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Takashi Ishige(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)、Takumi Takizawa(Department of Pediatrics, Gunma University Graduate School of Medicine)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Saki Matsuno, Takuya Nishizawa, Hisako Yagi, et al. クルミアレルギーが関与した重症急性膵炎の1例. 日本小児アレルギー学会誌 (2026). DOI: 10.3388/jspaci.40.225.