この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

畑と厨房、二つの由来をまとめて見る

すぐに食べられる状態で提供される食品には、性質の異なる化学的なハザード(健康に悪影響を及ぼしうる要因)が入り込む可能性があります。一つは作物を育てる段階で使われる農薬などの残留物、もう一つは揚げるなどの調理の過程で食品や油に生じる化学的な変化です。両者は別々の経路で生じますが、最終的には同じ食品の中に共存し、食べる人の口に入ります。それにもかかわらず、これまでは別々に評価されることが一般的でした。

研究チームはこの点に注目し、メキシコの大学キャンパスで提供されているトウモロコシ由来の食品を対象に、農業由来と調理由来のハザードを一つの研究の中で併せて評価しました。メキシコではトルティーヤやトルティーヤチップスが日常の食事に欠かせず、キャンパスでも、揚げたチップスをソースで煮込む「チラキレス」や、トルティーヤで具材を包むタコスがよく食べられています。なお著者らは、この研究は二つのハザードの間の相互作用を調べたものではなく、同じ食品の中に並存するリスクの源をそれぞれ評価したものだと位置づけています。

何をどのように調べたか

2024年6月、プエブラ自治大学のキャンパス内にある食堂や売店から、トルティーヤ10検体とトルティーヤチップス10検体を集めました。農業由来のハザードの指標としては、世界で最も広く使われている除草剤であるグリホサートを取り上げました。液体クロマトグラフィーと呼ばれる成分分離の手法(HPLC-DAD)を使い、グリホサートの有無と量を調べています。ただしこの手法では、成分の特定を主に分析装置から出てくるまでの時間に頼っていました。このため著者らは、今回の測定をあくまで一次的な「スクリーニング」と位置づけています。確実な同定と定量には、より選択性の高い質量分析法(LC–MS/MS)などによる確認が必要だとしています。

検出された濃度をもとに、食事からの摂取量も見積もりました。最も高かった濃度の食品を、トウモロコシ食品の平均的な一日摂取量とされる0.5キログラム分食べ続けると仮定した、高めに見積もる控えめなシナリオです。この摂取量を、生涯毎日摂取しても健康への悪影響がないとされる量(許容一日摂取量)と比べ、その比を「ハザード比(HQ)」として示しました。

調理由来のハザードの指標としては、揚げ油を調べました。揚げる前と後の油を6組採取し、赤外線を当てて分子の状態を調べる赤外分光法(FTIR)でヨウ素価を推定しています。ヨウ素価は油に含まれる脂肪酸の不飽和度を表す値です。加熱による劣化が進むと、一般にこの値は下がります。

主な結果

グリホサートを示すシグナルは、トルティーヤ10検体中8検体、チップス10検体中10検体で見つかりました。全体では20検体中18検体(90%)にあたります。スクリーニング段階での濃度は1キログラムあたり0.107〜1.994ミリグラムでした。これらは、メキシコがトウモロコシ穀粒に定める残留基準値(同0.1ミリグラム)を上回る一方、国際的な食品規格であるコーデックス委員会のトウモロコシの基準値(同5ミリグラム)は下回っていました。ただし、トルティーヤやチップスといった加工品に固有の基準値はありません。そのためこれらの基準値は参考として比較に用いたものであり、製品が基準に適合しているかを直接判定したものではないと、論文は断っています。

摂取量の見積もりでは、HQは女性で0.0573、男性で0.0511でした。いずれも1を下回っており、想定したシナリオのもとでは、推定摂取量が許容一日摂取量より低いことになります。一方で著者らは、HQが1未満であることはリスクがまったくないことを意味しないと強調しています。そのうえで、検出頻度の高さと国内基準値を上回る検体の多さから、特にトウモロコシ食品を多く食べる人々を念頭に、監視を続ける必要があると述べています。

揚げ油では、揚げた後にヨウ素価が有意に低下しました。平均の低下幅は5.00で、95%信頼区間は1.30〜8.71、p値は0.0178でした。これは加熱によって脂肪酸の不飽和度が下がった、あるいは構造が変化したことを示すと著者らは解釈しています。ただし、この方法では特定の酸化生成物を見分けたり量を測ったりすることはできません。そのため、有害とされるアルデヒド類などが生じていたかどうかは、今回の結果からは直接判断できないとしています。

この研究が示すこと

この研究は、身近な調理済みのトウモロコシ食品が、畑で使われた除草剤の残留と、揚げ調理に伴う油の変化という、異なる段階に由来する化学的ハザードの交わる場所になりうることを示しました。測定は一大学の限られた検体によるスクリーニングで、グリホサートの確認分析は今後の課題として残されています。それでも、食品の安全性を作物の生産から調理、消費までひと続きの流れとして捉える見方は、大学のような集団で食事をとる場での食品安全の見守りに役立ちうると、著者らは述べています。

著者:Wendy Jannette Ascencio-López(Posgrado en Ciencias Ambientales, Instituto de Ciencias, Benemérita Universidad Autónoma de Puebla, Ciudad Universitaria)、María Teresa Zayas-Pérez(Instituto de Ciencias, Benemérita Universidad Autónoma de Puebla, Ciudad Universitaria)、T. Alexandra Ferreira(Universidad del Valle de México)、Ricardo Munguía-Pérez(Instituto de Ciencias, Benemérita Universidad Autónoma de Puebla, Ciudad Universitaria)、Guadalupe Virginia Nevárez‐Moorillón(Facultad de Ciencias Químicas, Universidad Autónoma de Chihuahua, Ciudad Universitaria)、Teresa Soledad Cid-Pérez(Facultad de Ciencias Químicas, Benemérita Universidad Autónoma de Puebla, Ciudad Universitaria)、Raúl Ávila-Sosa(Facultad de Ciencias Químicas, Benemérita Universidad Autónoma de Puebla, Ciudad Universitaria)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wendy Jannette Ascencio-López, María Teresa Zayas-Pérez, T. Alexandra Ferreira, et al. Integrated assessment of agricultural and processing-related chemical hazards across the food chain: glyphosate occurrence and lipid changes in ready-to-eat corn-based foods. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-11. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1960698. 原著ライセンス:CC BY.