日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Functional Foods in Health and Disease

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

血液中の脂質バランスが崩れる脂質異常症は、動脈硬化や心血管疾患と結びつく代謝の乱れとして知られています。著者らによれば、脂質異常症では肝臓や血管壁で慢性的に弱い炎症が続き、コレステロールの蓄積だけでなく免疫のはたらきの乱れも伴います。そのため、代謝と免疫の両方に作用しうる食品由来の成分に関心が集まっているといいます。

研究チームが着目したのは、クコの実(枸杞子)に含まれる多糖類と、クコの実を主要成分とする七種の生薬からなる配合物「LLA」に由来する多糖類です。多糖類とは、糖がたくさんつながった大きな分子のことで、植物由来のものには脂質を下げるはたらきや免疫を調整するはたらきが報告されてきました。ただし著者らは、これらが脂質異常症の状態で脂質代謝と免疫調節にどう関わるかは十分に分かっていないと述べています。そこで本研究は、高脂肪食を与えたApoE欠損マウス(動脈硬化を起こしやすいよう遺伝子を改変したマウス)を用い、これらの多糖類の作用と、PPARγという代謝調節に関わるタンパク質との関連を調べることを目的としました。

どのように調べたか

著者らはまず、クコの実の熱水抽出物とLLA抽出物のそれぞれからエタノールで多糖類を沈殿させ、タンパク質を除去し、透析で低分子成分を取り除いたうえで凍結乾燥し、クコ多糖類(LCP)とLLA由来多糖類(MCP)を得ました。乾燥生薬100グラムあたりに回収された糖の量は、LCPで約0.44グラム、MCPで約1.5グラムと報告されています。

動物実験では、通常の餌を与えたC57BL/6マウスを正常群とし、高脂肪食を与えたApoE欠損マウスを5群(各群8匹)に分けました。ApoE欠損マウスには、水のみ、クコ抽出物、LLA抽出物、MCP、LCPのいずれかを飲み水に加えて8週間与えています。多糖類はおよそ1日あたり体重1キログラムにつき100ミリグラムとなるよう、事前に測った飲水量と体重から濃度を決めたとされています。その後、血液と肝臓の脂質、脾臓の細胞を刺激したときの増殖反応、肝臓の抗酸化の指標、そしてPPARα、PPARγ、NFATc1、NFATc2、CTLA-4といったタンパク質の肝臓での発現量が調べられました。

報告された主な結果

水のみを与えたApoE欠損マウスでは、正常マウスに比べて血漿と肝臓の総コレステロールが有意に高く、血漿のHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)は有意に低下していました。この状態に対し、LCPとMCPを投与すると血漿の総コレステロールが有意に低下したと報告されています。また要旨では、クコ多糖類が血漿HDLコレステロールを高めたとされ、本文の結果ではLCP投与で増加する傾向がみられたと記述されています。中性脂肪については群間に有意な差はみられませんでした。

免疫については、脾臓の細胞をさまざまな刺激で反応させる方法が用いられました。B細胞を刺激するLPS、T細胞を刺激する抗CD3抗体では群間に有意な差はありませんでしたが、同じくT細胞を刺激するコンカナバリンA(ConA)による増殖反応は、水のみのApoE欠損マウスで低下しており、クコ多糖類の投与によって有意に高まったと報告されています。著者らは、これは免疫全体を一律に活性化するというより、T細胞活性化の一部の経路に選択的に働く可能性を示すと考察しています。

タンパク質の発現では、水のみのApoE欠損マウスで低下していた肝臓のPPARγが、クコ抽出物またはクコ多糖類の投与で有意に増加し、LLA抽出物では増加傾向がみられました。一方、肝臓のPPARα、抗酸化の指標であるSOD活性とグルタチオン量、そしてNFATc1、NFATc2、CTLA-4の発現には有意な変化がありませんでした。

この報告が示すこと

著者らは、クコおよびLLA由来の多糖類がApoE欠損マウスの脂質異常を改善し、T細胞の反応性を部分的に回復させたとまとめています。同時に、その効果は肝臓のPPARγ発現の増加と関連していたと述べています。ただし論文では、本研究がPPARγの活性や発現を直接操作していないため、PPARγがこれらの効果を引き起こしたという因果関係は確立できないと明確に断られています。肝臓のPPARγとT細胞の反応性との関係も間接的なものにとどまり、抗酸化の指標やNFAT–CTLA-4に関わるシグナルには変化がなかったことから、これらの経路だけでは観察された効果を説明できないとされています。

著者らはまた、本研究を機能性食品開発の初期の前臨床段階に位置づけ、ヒトでの有効性や安全性、実際の食品としての形などは未検討であるとしています。つまりこの報告は、動物モデルにおいて代謝と免疫という二つの側面が同時に動いたことを同一の実験条件下で比較して示し、その背景にPPARγを介した代謝調節という視点を提示した段階のものだといえます。

著者:Jian-Rong Zhou(Department of Presymptomatic Medical Pharmacology , Faculty of Pharmaceutical Sciences , Sojo University , Kumamoto 860-0082 , Japan;)、Nana Teshima(Department of Presymptomatic Medical Pharmacology , Faculty of Pharmaceutical Sciences , Sojo University , Kumamoto 860-0082 , Japan;)、Yuriko Hayakawa(Department of Presymptomatic Medical Pharmacology , Faculty of Pharmaceutical Sciences , Sojo University , Kumamoto 860-0082 , Japan;)、Jun Fang(Department of Presymptomatic Medical Pharmacology , Faculty of Pharmaceutical Sciences , Sojo University , 4-22-1 Ikeda , Nishi-ku , Kumamoto 860-0082 , Japan)、Kiyoshi Kunika(International Institute of Kampo Medicine , Tokyo 1001-0047 , Japan)、Kazumi Yokomizo(Department of Presymptomatic Medical Pharmacology , Faculty of Pharmaceutical Sciences , Sojo University , Kumamoto 860-0082 , Japan;)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jian-Rong Zhou, Nana Teshima, Yuriko Hayakawa, et al. Lycium- and Lycium-rich herbal formula-derived polysaccharides improve dyslipidemia and immune function, associated with PPARγ-related immunometabolic regulation in ApoE⁻/⁻ mice. Functional Foods in Health and Disease 2026-09-23. DOI: 10.31989/ffhd.v16i9.2105. 原著ライセンス:CC BY.