ヤギ肉は世界的に見ると牛肉や豚肉に次いで多くの地域で食べられている食肉のひとつですが、「どんな牧草を食べさせて育てたか」によって肉の味わいがどう変わるのかは、意外と詳しく調べられていません。牧草の種類は家畜の栄養状態だけでなく、脂肪の質や香り成分にも影響すると考えられており、飼育方法と肉質の関係を科学的に明らかにすることは、より美味しく、栄養価の面でも興味深い食肉を選ぶ手がかりになります。今回紹介する研究では、バミューダグラスとペレニアルライグラスという2種類の牧草でヤギを飼育し、できあがった肉の成分や食感、香り、味にどのような違いが生じるのかを比較しています。
この研究では、まず肉の基本的な成分(一般成分)とやわらかさの指標となるせん断力(肉を切るのに必要な力)が調べられました。その結果、バミューダグラスを与えたグループのほうが脂肪含量が有意に高く、せん断力は有意に低い、つまりより柔らかい肉であることが示されました。
次に脂肪酸の組成を分析したところ、バミューダグラス飼育群では、体内で作れないため食事から摂る必要がある必須脂肪酸であるリノール酸やα-リノレン酸の濃度が高いことが確認されました。ただし同時に、飽和脂肪酸の量も増加していたと報告されています。
香りの分析では、バミューダグラス飼育群の肉においてメタンチオールや2-メチルヘプタナールといった揮発性成分がより強く検出され、クリーミーさやフルーティーさを感じさせる香気成分の発現が高いことが示されました。さらに味の分析では、同じグループでうま味の強さが高く、酸味と塩味は低いという結果が得られ、これはオレイン酸やリノール酸の含量の高さと関連していたとされています。
これらの結果から、研究チームはバミューダグラスでの飼育がヤギ肉の栄養面と感覚的な特性(やわらかさ、香りの複雑さ、風味)の両方を高める可能性があり、消費者の好みにも影響しうると述べています。
読むうえでの注意点
この研究は特定の2種類の牧草・特定の飼育条件のもとで得られた結果であり、他の牧草の種類や飼育環境、ヤギの品種などが異なれば結果も変わりうる点には留意が必要です。また、脂肪含有量や飽和脂肪酸量の増加といった変化も報告されており、良い面・注意すべき面の両方が含まれていることも押さえておきたいポイントです。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点にご留意ください。
まとめ
今回紹介した研究では、バミューダグラスで飼育したヤギ肉が、ペレニアルライグラス飼育の肉と比べて、やわらかさ・必須脂肪酸含量・香りの複雑さ・うま味の強さといった点で優れた特性を示したことが報告されました。牧草という身近な飼料の違いが、私たちが口にする肉の質にまで影響しうるという点は、食の奥深さを感じさせる興味深い知見と言えるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:異なる牧草飼育方式によるヤギ肉の品質特性評価(アニマルズ・2026年07月)