この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:LWT

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:菌を殺さずに腐敗を起こす力を弱められるか

魚などの水産物は良質なたんぱく質源ですが、傷みやすいことが課題です。中でも、シュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)という細菌は、水産物の腐敗を主導する「特定腐敗菌」として知られています。この菌は冷蔵温度の4℃でも活発に代謝を続け、食品に触れる表面にバイオフィルム(菌が集まって作る膜状の集団)を形成して、品質劣化や交差汚染の原因になります。

レスベラトロールは、イタドリ、ピーナッツ、ブドウ、ブルーベリーなどの植物に含まれるポリフェノールです。高濃度では抗菌作用を示し、菌の増殖を止めない程度の低い濃度でも、バイオフィルム形成や菌どうしの情報伝達(クオラムセンシング)、付着、運動性を妨げうることが報告されてきました。ただし、水産物の腐敗菌の「腐敗させる力」にどう影響するかは十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、腐敗したティラピアから以前に分離された菌株JR-6を用い、低濃度のレスベラトロールがこの菌の腐敗に関わる性質にどのような影響を与えるのかを系統的に調べました。

調べたこと:増殖を妨げない濃度での変化と、その持続性

著者らはまず、菌の目に見える増殖を抑える最小濃度(最小発育阻止濃度)を調べ、JR-6に対しては1ミリリットルあたり64マイクログラムであることを確認しました。そのうえで、増殖にほとんど影響しない8マイクログラム(その8分の1)を「低濃度」として選びました。この濃度では、菌の細胞膜が傷ついている様子も観察されませんでした。

この低濃度でも、バイオフィルムの量は約49%抑えられ、ムチン(粘膜の成分)を塗った表面への付着菌数はおよそ10分の1に減りました。さらに研究チームは、レスベラトロールを含む培地で菌を30世代にわたって植え継ぎ、効果が続くかどうかを確かめました。バイオフィルム形成、付着、菌どうしの凝集の一部は世代を重ねると部分的に回復しましたが、付着性、細胞表面の疎水性(水をはじく性質)、遊泳運動能は元の株より低い状態が概ね保たれました。たんぱく質を分解する酵素(細胞外プロテアーゼ)の産生能の低下は、植え継ぎを重ねても目立った弱まりがなかったと報告されています。

電子顕微鏡による観察では、レスベラトロールにさらされた菌の鞭毛(泳ぐための毛のような構造)が短く、切れたように見えることも示されました。

魚の切り身での結果:菌の数は同程度でも腐敗の指標が低く

次に研究チームは、表面を消毒したパンガシウス(ナマズの仲間)の切り身に、元の株、レスベラトロールなしで植え継いだ株、レスベラトロール入りで植え継いだ株をそれぞれ付着させ、4℃で9日間保存しました。この実験では切り身にレスベラトロールを直接加えたのではなく、事前にレスベラトロールにさらして植え継いだ菌を使っている点が特徴です。

保存中の生菌数は、菌を付けたどのグループでも9日目に大きな差はありませんでした。一方、魚の鮮度の指標として使われる揮発性塩基窒素(腐敗が進むと増えるアンモニアなどの量)は、元の株やレスベラトロールなしで植え継いだ株を付けた切り身で9日目に100グラムあたり30ミリグラム(窒素量)を超えたのに対し、レスベラトロール入りで植え継いだ株を付けた切り身では有意に低い値にとどまりました。菌の数あたりの揮発性塩基窒素の生成量も、6日目と9日目に低くなっていました。

においの成分の分析でも、レスベラトロール入りで植え継いだ株を付けた切り身は、菌を付けていない切り身に近い成分の傾向を示しました。腐敗臭に関係する1-プロパノール、3-メチル-1-ブタノール、ジメチルジスルフィドの3成分の推定量は、元の株を付けた場合より有意に低かったと報告されています。

遺伝子レベルの変化と、研究が示すこと

遺伝子の働き方を網羅的に調べた解析では、76個の遺伝子で発現量の変化が見られ、アミノ酸や窒素の代謝、エネルギー産生(酸化的リン酸化)、鞭毛の組み立て、バイオフィルム形成、外部環境を感知する仕組み(二成分制御系)などに関わるものが含まれていました。30世代植え継いだ株では、ヒスチジン代謝、窒素代謝、酸化的リン酸化、二成分制御系、クオラムセンシングに関わる遺伝子の発現低下が別の方法でも確認されています。コンピューター上の分子ドッキング(分子どうしの結合の予測計算)では、レスベラトロールがこれらの遺伝子に対応するたんぱく質と、水素結合などを介して相互作用しうることが予測されました。

著者らは、低濃度のレスベラトロールが菌を殺すのではなく、複数の標的を通じて腐敗に関わる性質を弱めている可能性を示したと位置づけています。この研究は、菌の増殖そのものではなく「腐敗させる力」に着目して植物由来成分の作用を捉えたものであり、レスベラトロールを水産物の天然保存料として評価するための基礎的な知見を提供しています。

著者:Hongniu Zhou(Institute of Food Science and Technology, College of Biological Science and Engineering, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Qingyun Wang(Institute of Food Science and Technology, College of Biological Science and Engineering, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Li Ni(Institute of Food Science and Technology, College of Biological Science and Engineering, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Wen Zhang(Institute of Food Science and Technology, College of Biological Science and Engineering, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hongniu Zhou, Qingyun Wang, Li Ni, et al. Low-concentration resveratrol attenuates the spoilage potential of Shewanella putrefaciens in fish fillets. LWT 2026-09-29. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119877. 原著ライセンス:CC BY.