日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
脳卒中のあとには、飲み込む力が弱まる「嚥下障害」がよく起こります。嚥下障害があると、食べ物や飲み物が気管に入って起こる誤嚥性肺炎の危険が高まり、食事量が減って脱水や低栄養にもつながりやすくなります。そこで病院では、食べ物のかたさや粘り、まとまりやすさを調整した「嚥下調整食」がよく処方されます。
ただし、論文によると、嚥下調整食は全量を食べれば必要なエネルギーやたんぱく質をとれるよう設計されていても、実際には意識の状態、疲れ、食欲の低下、認知機能の低下、味の好みなどのために、かなりの量が残されることがあります。これまでの嚥下評価の尺度は、口から食べられるかどうかや食事の段階を示すものが中心で、実際にどれだけ食べたかを直接数値にするものではありませんでした。
研究チームは、嚥下調整食を「処方されたか」だけでなく「実際にどれだけ食べたか」に注目しました。そして、その摂取率が脳卒中後の退院時と発症90日後の生活機能と関連しているかを調べました。
どのように調べたか
対象は、2012年から2017年に一つの医療機関に入院した、脳梗塞または脳出血の患者406人です。いずれも、嚥下障害が疑われるか確認されて、入院中に嚥下調整食を処方されていました。過去の診療記録をさかのぼって分析する後ろ向きの観察研究です。年齢の中央値は81歳でした。入院時の神経症状の重さを示す指標から見ると、中等症から重症の患者が中心でした。
この施設の嚥下調整食は、ゼリー食、ペースト食、ムース食、しっとりとした刻み食の4段階でした。入院時の簡易な水飲みテストの結果で最初の段階が選ばれ、その後は、むせなどの様子に応じて段階が上げ下げされました。看護師が毎食、主食と副食それぞれについて、食べた量を0(まったく食べない)から10(完食)の目安で記録していました。研究チームはこの記録をもとに、嚥下調整食の期間全体を通じた平均的な摂取率を患者ごとに算出しました。全体の摂取率の中央値は約78%でした。
生活機能の評価には「修正ランキンスケール(mRS)」を使いました。これは0(症状なし)から6(死亡)までの7段階で、数字が大きいほど障害が重いことを表します。分析では、年齢、性別、入院時の脳卒中の重さ、発症前の生活機能、脳卒中の種類、入院時の栄養状態の指標を考慮に入れ、摂取率が10%高くなるごとの関連の強さを推定しました。
主な結果
上記の要因を考慮した分析で、嚥下調整食の摂取率が10%高いごとに、mRSでより重い段階にいるオッズ(起こりやすさを表す比の一種)が、退院時で0.85倍、90日後で0.88倍と低くなっていました。つまり、よく食べていた患者ほど、生活機能の状態が良い傾向が見られました。
補助的な分析として、「日常生活がおおむね自立している状態(mRS 0〜2)」に入るかどうかも調べました。退院時には、摂取率が10%高いごとにそのオッズが1.31倍となる関連が見られました。一方、90日後は同じ方向の傾向はあったものの、統計的に意味のある差には達しませんでした。高血圧や糖尿病などの持病を追加で考慮しても、主な結果はほぼ変わりませんでした。
食事の段階別に見た探索的な分析では、結果は一貫しませんでした。退院時に統計的に意味のある関連が見られたのは刻み食だけで、90日後はどの段階でも関連は見られませんでした。著者らは、食事の段階はそもそも患者の飲み込みの状態や全身状態に応じて選ばれているため、この結果を特定の食事が優れている証拠と解釈すべきではないとしています。また、主食と副食の摂取率は互いに非常に強く連動していたため、どちらがより重要かは区別できませんでした。
この研究が示すこと
この研究は、嚥下調整食を実際にどれだけ食べられたかが、脳卒中後の生活機能と関連していることを示しました。ただし観察研究であるため、たくさん食べたことが回復を良くしたのか、それとも回復しやすい状態の患者がたくさん食べられたのかは区別できません。著者らは、摂取率は栄養の量だけでなく、飲み込む力、全身の状態、回復の度合いを反映した総合的な指標として捉えるべきだとしています。
そのうえで著者らは、日々の看護記録から得られる摂取率を見守ることが、栄養や嚥下についてより丁寧な評価が必要な患者を見つける手がかりになりうると述べています。安全な食形態を処方するだけでなく、実際に食べられているかにも目を向けることの大切さが、この研究から伝わってきます。
原著論文の著者・所属:Rie Motoyama(Department of Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita 564-8565, Osaka, Japan)、Tomotaka Tanaka(Department of Neurology, Faculty of Medicine, Shimane University, Izumo 693-0021, Shimane, Japan; Department of Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita 564-8565, Osaka, Japan)、Kazuki Fukuma(Department of Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita 564-8565, Osaka, Japan)、Shinsaku Nakazawa(Department of Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita 564-8565, Osaka, Japan)、Tetsuya Chiba(Department of Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita 564-8565, Osaka, Japan)、Shuichi Tonomura(Department of Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita 564-8565, Osaka, Japan)、Masafumi Ihara(Department of Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita 564-8565, Osaka, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rie Motoyama, Tomotaka Tanaka, Kazuki Fukuma, et al. Association Between Texture-Modified Diet Intake Rate and Functional Outcomes After Acute Stroke: A Retrospective Observational Study. Nutrients 2026-09-22. DOI: 10.3390/nu18193114. 原著ライセンス:CC BY.