日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Journal of Food Bioactives

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

抹茶の特徴と総説の目的

抹茶は、日光を遮って育てた茶葉を蒸して乾燥させ、揉まずに細かく挽いた粉末の緑茶です。主に日本で生産され、茶道に欠かせないほか、菓子やラテなどの風味付けにも使われています。著者らは今回の総説で、抹茶が記憶や注意といった認知機能に与える影響について、ヒトを対象とした試験の結果と、その背景として考えられる仕組みを整理しました。

論文によると、日光を遮る栽培(被覆栽培)によって茶葉の光合成が抑えられ、うま味のもとになるアミノ酸のL-テアニン、カフェイン、葉緑素などが多く蓄えられます。日光に当たるとテアニンは分解されてしまうため、遮光が不十分な場合や窒素の供給が少ない場合には、テアニンが少なく、カテキンの一種であるEGCG(エピガロカテキンガレート)が多い抹茶になるといいます。また抹茶は茶葉そのものを粉にして飲むため、通常の緑茶を淹れて飲むよりも、緑茶に含まれる成分をはるかに多く摂取することになります。テアニン、EGCG、カフェインの3成分は、いずれも認知機能に関わる可能性がこれまでに指摘されてきました。

ヒトを対象とした5つの比較試験

著者らは、抹茶と、抹茶を含まない比較用の食品(プラセボ)を無作為に割り付けて比べた試験を中心に取り上げています。最初の試験では、健康な若年成人23人が、抹茶4グラム(2杯分程度)を飲み物またはスナックバーの形で1回摂取しました。多くの課題ではプラセボとの差はほとんどありませんでしたが、基本的な注意力や、刺激に素早く反応して体を動かす速さを測る課題で統計的に意味のある改善が報告されました。飲み物のほうがスナックバーより良い結果を示し、食品の形態が影響する可能性も示されています。

認知症や軽度認知障害の診断を受けていない地域在住の高齢者を対象に、抹茶1.5グラムを1日2回、12週間摂取してもらった試験(最後まで検査を受けたのは54人)では、全体として認知機能検査の得点にプラセボとの差は見られませんでした。ただし、女性に限って分析すると、認知機能のスクリーニング検査であるMoCAの得点、特に言語に関する領域で改善が見られました。男性では変化がなく、著者らは男性参加者が少なかったことが影響した可能性に触れています。

軽いストレス下での効果を調べた試験もあります。健康な25〜34歳の42人が抹茶2グラムを毎日2週間摂取した試験では、30分間ひたすら一桁の足し算をする課題で軽いストレスを与えた後に検査を行いました。疲労感や集中力の自己評価には差がなかった一方、抹茶群では注意機能を測るストループ課題の反応が速く、表情から感情を読み取る検査で肯定的な感情の正答が増えました。また、認知機能の衰えを自覚する50〜69歳の51人を、抹茶、抹茶と同量のカフェイン、プラセボの3群に分けて12週間比べた試験では、カフェインの効果は反応時間などへの一時的なものにとどまったのに対し、抹茶はカフェイン単独よりも作業成績を高め、継続摂取の効果もストレス下で抹茶のほうが良かったと報告されています。

最も長い試験では、主観的な認知機能の低下を訴える人や軽度認知障害のある60〜85歳の99人が、抹茶2グラムまたはプラセボを12か月間毎日摂取しました。主要な評価項目とされた認知機能検査(MoCA-J)と日常生活動作の評価では、プラセボとの差は見られませんでした。一方で、顔の表情から感情を読み取る力(社会的認知)が改善し、睡眠の質の評価にも改善が見られました。著者らは、主要評価項目に用いた検査が、診断向けで、ごく初期のわずかな変化をとらえにくい可能性を挙げています。なお、これらの試験の多くは参加者数が少なく、期間も比較的短いことが限界として示されています。

考えられる仕組みと成分のバランス

著者らは、抹茶が認知機能に影響する仕組みの候補として、ストレスの軽減、睡眠の質の改善、ビタミンKの供給、腸内細菌叢の変化、体内の酸化ストレスの低下、脳内の神経伝達物質アセチルコリンに関わる働きの強化、大脳皮質の毛細血管網の形成促進を挙げています。

中でも詳しく紹介されているのがストレス軽減です。マウスに縄張り争いのストレスを与える実験では、ストレスで肥大する副腎の大きさを指標とし、抹茶に多いテアニンと、2番目に多いアミノ酸であるアルギニンに、量に応じてストレスを抑える働きが見られました。ただし、カフェインやEGCGが多いとテアニンの効果は打ち消され、カフェインとEGCGの合計がテアニンとアルギニンの合計に対して(分子数の比で)2倍未満であることが必要とされました。この条件に合う抹茶を選んで健康な学生に1日3グラム、15日間摂取してもらった試験では、条件に合わない抹茶と比べて不安の度合いや、ストレスの指標となる唾液中の酵素の活性が低下しました。同様の効果は、条件に合う抹茶を使ったクッキーでも報告されています。

睡眠については、抹茶を4週間摂取した試験で、脳波で測った寝つきや睡眠時間などに有意な差はなかったものの、起床直後の睡眠時間への満足度が高まったと紹介されています。ビタミンKについては、先の高齢者の試験で、普段の食事からのビタミンK摂取が少ない女性ほど、抹茶摂取後のMoCA得点の伸びが大きいという関連が見られ、抹茶がビタミンKの不足を補っている可能性が論じられています。

この総説が示すこと

著者らは、抹茶の摂取がストレスの有無や摂取期間、年齢層の違いを問わず認知機能を高める可能性を示す研究があると整理しています。ただし、紹介された試験の結果は一様ではなく、主要な検査では差が出ず、特定の課題や一部の参加者で改善が見られたものも含まれています。

また著者らは、抹茶の効果はテアニンを多く含み、カフェインとEGCGの割合が低いといった成分のバランスに左右されると考えられ、世界で販売されている抹茶製品のすべてがこの条件を満たしているわけではないため、品質管理が重要だと指摘しています。同じ「抹茶」でも、育て方や中身によって期待できる働きが異なりうることを示した点が、この総説の大きなメッセージといえます。

著者:Klaus W. Lange(University of Regensburg, Regensburg, Bavaria, Germany; Nara Institute of Science and Technology, Ikoma, Nara, Japan; Japan Society for Culture, Science and Technology, Germany)、Yukiko NAKAMURA(University of Regensburg, Regensburg, Bavaria, Germany; Nara Institute of Science and Technology, Ikoma, Nara, Japan; Japan Society for Culture, Science and Technology, Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Klaus W. Lange, Yukiko NAKAMURA. Matcha (Japanese ground green tea) and cognitive function. Journal of Food Bioactives 2026-10-09. DOI: 10.26599/jfb.2026.95035451. 原著ライセンス:CC BY.