この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Dairy Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
常温で保存できるヨーグルト(常温ヨーグルト)は、発酵させたあとにもう一度加熱処理(二次殺菌)を行うことで作られます。この工程のおかげで冷蔵しなくても長期間保存できるようになりますが、一方で製品の食感が粒っぽくなったり、ざらついたりすることがあり、品質上の課題として知られています。この「ざらつき」の原因は、加熱によって乳タンパク質が凝集(かたまりを作ること)することにあると考えられていますが、その詳しいメカニズムはこれまではっきりしていませんでした。メカニズムが分からなければ、対策も打ちにくいままです。今回紹介する研究は、この二次殺菌時に乳タンパク質がどのように凝集していくのか、そのプロセスと凝集粒子の構造的な特徴を明らかにしようとしたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、発酵乳を55℃から85℃までのさまざまな温度で25秒間加熱する二次殺菌を行い、タンパク質の構造変化や凝集の程度を、円偏光二色性分光法(タンパク質の立体構造を調べる手法)、表面疎水性の測定、タンパク質濃度の測定などを組み合わせて分析しました。さらに、できあがった凝集粒子を標準ふるいを使ってサイズ別に分け、電気泳動や化学的な結合力の解析、走査型電子顕微鏡による観察を行うことで、粒子の組成や分子同士の結合の仕方、形の特徴を調べました。
その結果、発酵乳が酸性(pHおよそ4.50)になっている条件下で、ホエー(乳清)タンパク質の立体構造がほどけ、本来内側に隠れている疎水性(水になじみにくい)の部分が表面に露出することが、粒子凝集の主な引き金になっていることが示されました。また、二次殺菌の温度を上げるほど、より大きな凝集体ができやすくなることも分かりました。
興味深いのは、凝集が大きくなっていく仕組みが温度によって切り替わるとされた点です。65℃より低い温度では、κ-カゼイン、ラクトフェリン、血清アルブミン(BSA)、免疫グロブリンG(IgG)、β-ラクトグロブリン(β-LG)、α-ラクトアルブミン(α-LA)といった複数のタンパク質が、ジスルフィド結合(硫黄原子同士がつながる強い結合)を介して複合体を作ることで凝集が進むと考えられました。一方、65℃を超えると、そうした初期にできた複合体が「橋渡し役」のような働きをし、凝集体同士がくっつき合うことで、さらに大きな塊へと成長していく過程が優勢になると報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、常温ヨーグルトの食感を左右するタンパク質凝集の仕組みを、実験室レベルの分析によって段階的に解明しようとしたものです。研究チームは、二次殺菌の際にタンパク質の構造をできるだけ保ち、疎水性の相互作用や粒子同士の結合を抑えることが、製品の品質向上につながる可能性があるとしています。そのうえで、殺菌条件(温度など)の調整や、アニオン性多糖類のような従来から使われている安定剤を工夫してタンパク質を保護することが、有望な対策となりうると述べられています。ただし、これは一つの研究で得られた知見であり、実際の製造工程や製品全体への効果を確定づけるものではない点には注意が必要です。
まとめ
常温ヨーグルトのざらつきという身近な品質課題の背景には、酸性環境でのホエータンパク質の構造変化と、温度によって異なる凝集の進み方が関わっていることが、この研究であらためて示されました。今後、こうした知見をもとにした殺菌条件や安定剤の工夫が進めば、より滑らかな食感の常温ヨーグルト開発に役立つ可能性があると考えられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):培養後加熱した発酵乳におけるタンパク質構造変化と凝集挙動に対する温度処理の影響(ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス・2026年08月)
著者:Fei Gao(College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Dongdong Li(Beijing Advanced Innovation Center for Food Nutrition and Human Health, Department of Nutrition and Health, China Agricultural University, Beijing 100190, China; Inner Mongolia Mengniu Dairy (Group) Co. Ltd., Hohhot 011500, China; Corresponding authors)、XueYing Mao(College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Pengjie Wang(Beijing Advanced Innovation Center for Food Nutrition and Human Health, Department of Nutrition and Health, China Agricultural University, Beijing 100190, China)、Ran Wang(Beijing Advanced Innovation Center for Food Nutrition and Human Health, Department of Nutrition and Health, China Agricultural University, Beijing 100190, China)、Sijia Song(Beijing Advanced Innovation Center for Food Nutrition and Human Health, Department of Nutrition and Health, China Agricultural University, Beijing 100190, China)、Chong Chen(Beijing Advanced Innovation Center for Food Nutrition and Human Health, Department of Nutrition and Health, China Agricultural University, Beijing 100190, China)、Hairan Ma(Inner Mongolia Mengniu Dairy (Group) Co. Ltd., Hohhot 011500, China; Corresponding authors)、Hongliang Li(Inner Mongolia Mengniu Dairy (Group) Co. Ltd., Hohhot 011500, China; Corresponding authors)