この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Functional Foods
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ラクダミルクは中東や北アフリカなどで古くから飲用されてきた乳製品で、近年は健康との関わりについて研究が進められています。今回紹介するのは、ラクダミルク(CM)と、それを発酵させた発酵ラクダミルク(FCM)が、2型糖尿病モデルのラットにどのような影響を与えるかを調べた研究です。糖尿病は血糖コントロールの乱れだけでなく、腸内細菌叢とも関係があることが近年注目されており、この研究では腸内細菌叢の変化やそれに関連する体内の仕組みにも焦点が当てられています。
この研究では、高脂肪食とストレプトゾトシン(STZ)という薬剤の投与によって2型糖尿病を再現したラットを用い、CMまたはFCMを与えた場合の変化が調べられました。その結果、CMとFCMを投与したグループでは、空腹時血糖値がモデル群(糖尿病を再現したのみのグループ)と比べてそれぞれ79.6%、70.8%まで低下したと報告されています[p<0.01]。また、インスリン抵抗性の指標(HOMA-IR)や、炎症に関わる物質(炎症性サイトカイン)の値も有意に低下したとされています[p<0.01]。
さらに腸内細菌叢の解析では、CMとFCMの投与によって腸内環境のバランスが整えられる方向の変化が見られたとしています。具体的には、肥満や代謝異常との関連が指摘されることのあるFirmicutes門とBacteroidetes門の比率(F/B比)が低下し、有用とされる細菌の割合が増加したことが確認されています。特にFCMを投与したグループでは、AkkermansiaやBlautia、Clostridia UCG-014、Ruminococcusといった菌の割合が顕著に増加した点が特徴的だったとされています。
相関解析からは、Clostridia UCG-014やRuminococcusといった菌が、糖代謝・脂質代謝の乱れの改善や、短鎖脂肪酸(SCFA)濃度の上昇、そしてGLP-1/PI3K/AKTという体内のシグナル伝達経路の活性化と関連する主要な因子として挙げられています。GLP-1/PI3K/AKT経路は血糖値の調整やインスリンの働きに関わる仕組みの一つとされ、この経路の活性化が今回観察された血糖・脂質代謝の変化に関わっている可能性が示唆されています。また、全体として、FCMの方がCMよりも改善の度合いが大きかったと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究はラットを用いた動物実験であり、ヒトに対して同様の効果が得られるかどうかは、この要旨の範囲では述べられていません。また、対象は高脂肪食とSTZ投与によって人為的に2型糖尿病を再現したモデル動物であり、実際のヒトの2型糖尿病とは背景や進行の仕方が異なる可能性があります。CMやFCMを摂取すれば血糖値が改善する、あるいは糖尿病が予防できるといったことが確定したわけではなく、あくまで一つの動物実験から得られた知見として捉える必要があります。今後、ヒトを対象とした研究などを通じて、さらに検証が進むことが期待される分野と言えそうです。
まとめ
今回紹介した研究では、ラクダミルクおよび発酵ラクダミルクを2型糖尿病モデルラットに投与したところ、血糖値やインスリン抵抗性、炎症性サイトカインの改善、腸内細菌叢のバランスの変化、GLP-1/PI3K/AKTシグナル経路の活性化などが観察されたと報告されています。特に発酵ラクダミルクではAkkermansiaなど特定の腸内細菌の増加が顕著であり、CMよりも改善効果が大きかったとされています。動物実験の段階の知見ではありますが、ラクダミルクや発酵乳と代謝・腸内環境との関係を考えるうえで興味深い研究といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ラクダミルクおよび発酵ラクダミルクは腸内細菌叢-SCFA-GLP-1/PI3K/AKT軸の調節を介してHFD/STZ誘発2型糖尿病ラットを改善する(ジャーナル・オブ・ファンクショナル・フーズ・2026年10月掲載予定)
著者:Qigeqi Dong(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Inner Mongolia Key Laboratory of Biomanufacturing Technology, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China)、Weisheng Xu(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Inner Mongolia Key Laboratory of Biomanufacturing Technology, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China)、Ruihua Li(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China)、Manzar Abbas(Inner Mongolia Saikexing Institute of Breeding and Reproductive Biotechnology in Domestic Animal, Hohhot 011517, China)、Qingwen Guo(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China)、Lina Ma(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Inner Mongolia Key Laboratory of Biomanufacturing Technology, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China)、Chunlin Zhang(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Inner Mongolia Key Laboratory of Biomanufacturing Technology, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China)、Yixiang Ban(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China)、Wenguang Zhang(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Corresponding authors at: College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China.)、Xujin Yang(College of Food Science and Engineering, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Inner Mongolia Agricultural University Yang Xujin Innovation Studio, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Corresponding author at: College of Food Science and Engineering, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China.)、Guofen Zhao(College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Inner Mongolia Key Laboratory of Biomanufacturing Technology, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China; Corresponding authors at: College of Life Sciences, Inner Mongolia Agricultural University, Hohhot 010018, China.)