掲載誌:Vegetation History and Archaeobotany

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

考古学の一分野に、遺跡から出土した植物の遺存体を調べる考古植物学があります。従来この分野では、種子や果実、木炭、脱穀のときに出る殻や茎といった、形がはっきり残っている材料が主に研究されてきました。しかし論文によると、実際の試料にはそれ以外に、炭になった有機物(ときには無機物を含む)の破片が含まれており、形がさまざまで、多くの場合はっきりした構造をもたない状態になっています。こうした資料を、著者らは「非定形炭化物(amorphous charred objects、ACO)」と呼んでいます。

著者らは、このACOが植物大型遺体研究の中で新しい手がかりとして浮かび上がってきたと述べています。近年の研究では、ACOから過去の人びとの暮らしに関わる重要な情報が得られることが示されてきたといいます。具体的には、食生活や調理のやり方、根や塊茎のように証拠が残りにくく「見えなくなっている」食料資源の利用、さらにパンやビールのように広く食べられ飲まれてきた食品の起源といった主題です。

一方で、ACO研究は比較的新しい分野であるため、方法論上の大きな課題が残っていると論文は指摘します。著者らが最大の問題として挙げているのは、誰もが受け入れている分析手順がなく、用語も分類のしくみも共有されていないことです。この状況を改善することが、本論文の出発点になっています。

取り組みの内容

著者らは、この課題に対応するため、各国の専門家を集めて共同で作業を行いました。その成果として作成されたのが、考古学における非定形炭化物の研究に関する初めての国際的な手順書「International Protocol for the Study of Amorphous Charred Objects」(略してIPSACO 1.0)です。論文は、これが最初の版であると位置づけています。

この手順書が目指しているのは、ACOの分析・記載・解釈を標準化することだと著者らは説明しています。対象となる資料がどの区分に属するか、どの時代のものか、どの地域から出土したかにかかわらず使えるように設計されており、この分野の専門家だけでなく、ACO研究にこれから触れようとする研究者にも必要な道具立てを提供することが意図されています。

著者らが示す意義

著者らは、IPSACO 1.0を、考古学研究におけるACO分析のしっかりした方法論的枠組みをつくるうえでの重要な一歩と捉えています。同時に、この第一版は「生きた文書」として想定されているとも述べています。つまり、今後の改訂や拡充を通じて、新しい分析手順や道具を取り込んでいくことが前提になっているということです。

こうした継続的な更新によって、ACO研究から生まれるデータが標準化され、手続きが見えるかたちで示され、他の研究者が再び利用できるようになることを著者らは期待しています。その範囲は考古植物学の研究者コミュニティにとどまらず、さらに広がる可能性があるとされています。共通の手順と言葉をもつことは、これまで扱いの定まらなかった資料を、比較したり積み重ねたりできる証拠へと変えていく作業だと言えます。

著者:Amaia Arranz‐Otaegui、Carolyne Strömberg、Lara González Carretero、Marc Cardenas、Monica N. Ramsey、Hugo Rafael Oliveira、Amanda G. Henry、Shinya Shoda、J.L. Bates、Leilani Lucas、Carmen Chulvi-Escribà、Meriel McClatchie、Jose Garay-Vazquez、Marian Berihuete‐Azorín、Yu-chun Kan、Dorian Q. Fuller、María Gabriela Musaubach、Pierre-Antoine Vivier、Josu Aranbarri、Yolanda Carrión Marco、Adam Cordes、Kim H. Hebelstrup、Manon Cabanis、Marie Lelièvre、Carlota Pintado-Laguna、Eneko Iriarte

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Amaia Arranz‐Otaegui, Carolyne Strömberg, Lara González Carretero, et al. International Protocol for the Study of Amorphous Charred Objects in Archaeology (IPSACO 1.0). Vegetation History and Archaeobotany 2026-09-16. DOI: 10.1007/s00334-026-01130-6. 原著ライセンス:CC BY.