著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Asia Pacific Journal of Sustainable Agriculture Food and Energy

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ロブスタコーヒーの風味を変えられるか

インドネシアのコーヒー生産で最も大きな割合を占めるのはロブスタ種で、スマトラ島南部のランプン州は主要な産地の一つです。ただし、ロブスタの豆はアラビカ種より低い価格で取引されがちです。研究チームは、その一因として、ロブスタの味が苦味中心になりやすく、甘さや酸味が少ないことを挙げています。

過去の研究では、焙煎前の生豆を酢酸や果糖などの溶液に浸すと、焙煎中に香りができる過程が変わり、香りの特徴を改善できることが報告されています。著者らはこの考え方を身近な植物素材に応用しました。シナモン、ショウガ、タマリンド(酸味のある豆科の果実)の煮出し液に生豆を浸し、伝統的な方法で焙煎すると、香りの複雑さや風味、甘さを感じさせる特徴がどう変わるかを調べています。

どのように調べたか

使われたのはランプン州タンガムス県ウルブル地区産の一等級のロブスタ生豆です。シナモンの樹皮、生のショウガ、生のタマリンドをそれぞれ湯で数分煮出し、その液に生豆を約10分間浸しました。比較したのは、浸さない豆、シナモン、タマリンド、ショウガの各処理、そして3種類を組み合わせた処理の計5種類です。豆は乾燥させた後、薪の火にかけた素焼きの鍋で約110分間、手で混ぜながら中深煎り程度まで焙煎しました。数日寝かせてから挽き、紙フィルターを使うハンドドリップ(V60)で抽出しています。

味の評価には、普段から砂糖なしのブラックコーヒーを飲んでいる19〜25歳の一般の参加者32人が加わりました。用いた手法は「CATA(当てはまるものをすべて選ぶ)」と呼ばれる方法です。参加者は、ナッツ、チョコレート、キャラメル、フルーティー、土っぽさ、各種スパイスなど、色・香り・風味・口当たり・後味に関する34の言葉のリストから、感じたものをすべて選びます。参加者は試飲の前に「理想のロブスタコーヒー」に当てはまる特徴も選びました。さらに、各コーヒーの好ましさを「非常に嫌い」から「非常に好き」までの9段階で評価しています。

論文は限界にも触れています。各処理の豆は1回分しか作られていません。また、薪火での手作業の焙煎では焼き具合を完全にはそろえられないため、焙煎の差が結果に影響した可能性があります。参加者は少人数で年齢層も狭く、結果をどこまで一般化できるかには制約があるとしています。

主な結果

統計検定では、34の言葉のどれについても、選ばれた頻度に5種類のコーヒー間で統計的に意味のある差は認められませんでした。そのため著者らは、ここで見られた違いを「選ばれ方の傾向の違い」として記述的に扱っています。

その範囲で見ると、色、口当たり、後味は処理によってあまり変わりませんでした。一方、香りと風味には処理ごとの特徴が表れました。どの処理でも、ロブスタらしいナッツ、チョコレート、土っぽさは保たれていました。シナモン処理ではスパイス系の香りの幅が広がり、ショウガ処理ではショウガやナツメグ、クローブといったスパイスが前面に出ました。3種類を組み合わせた処理では、香りと風味を表す言葉が最も多様になりました。

タマリンド処理では、キャラメルやフルーティーな特徴が比較的強く、焙煎香や温かみのあるスパイスの特徴も併せ持つ複雑な傾向が見られました。参加者が選んだ理想像は、フルーティー、キャラメル、甘い後味、チョコレート、シナモンといった特徴に寄っていました。試料と特徴の関係を図に配置する分析では、5種類のうちタマリンド処理が理想像に最も近い方向に位置しました。ただし、どの試料も理想像には届かず、大きな隔たりが残っていました。なお、タマリンドで期待された酸味の特徴は、試料を区別する言葉として参加者に選ばれませんでした。著者らは、甘さは主にキャラメルや甘い後味として感じ取られていたとみています。

好ましさの評価は全体に中程度で、処理間に統計的な差はありませんでした。点数は1から9まで大きくばらついており、著者らは処理の違いより個人差の影響が大きかった可能性を指摘しています。好ましさと特徴の関係を見ると、甘い後味やナッツの風味などが好ましさの近くに位置していました。好まれるかどうかは一つの目立つ香りで決まるのではなく、複数の特徴のバランスと結びついていることが示唆されました。ショウガの香りのように個性の強いスパイスの特徴は、好ましさとは離れた位置にありました。

この研究が示すこと

この研究では、植物素材の煮出し液に生豆を浸すという簡単な処理によって、ランプン産ロブスタの香りと風味の傾向に違いが表れました。その一方で、ロブスタ本来の特徴は保たれていました。ただし、統計的に確かな差としては確認されておらず、好ましさにも差は出ていません。著者らは、この結果を製品の風味づくりの方向性を探る手がかりとして位置づけ、スパイスを強く効かせるよりも、コーヒー本来の味とのバランスが重要であると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Nurul Asiah(Food Science and Technology Department of Universitas Bakrie)、Rifki Alfarezi(Food Science and Technology Department of Universitas Bakrie)、Wahyudi David(Food Science and Technology Department of Universitas Bakrie)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nurul Asiah, Rifki Alfarezi, Wahyudi David. Sensory Characteristics of Lampung Robusta Coffee Beverage with Botanical Pre-Soaking Treatments. Asia Pacific Journal of Sustainable Agriculture Food and Energy 2026-09-25. DOI: 10.36782/apjsafe.v14i1.723. 原著ライセンス:CC BY.