この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Applied Biological Chemistry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「産地ごとの成分」を問い直したのか
プロポリスは、ミツバチなどの社会性のハチが植物の樹脂や新芽の分泌物を集め、ろうや唾液の分泌物と混ぜてつくる粘着性の高い物質です。ハチは巣のすき間をふさぎ、構造を補強し、細菌や寄生虫、真菌から巣を守る役割に使っています。著者らによれば、その色は黄色から赤、濃い褐色まで幅があり、硬さもろう分や温度で変わります。こうした見た目の違いは、もとになった植物の種類の違いを反映しているといいます。
著者らは、プロポリスの化学と生物活性についてはすでに多くの総説があるものの、成分の多様性か、まとめられた生物学的作用かのどちらか一方に焦点が当たりがちだったと指摘しています。地域や「ケモタイプ」(成分パターンによる分類)の違いが、人での再現性のある結果にまで結びついているかを批判的に検討した研究は少ない、というのが出発点です。そこで本レビューは、植物由来、報告されたケモタイプ、指標成分、抽出物の標準化、対象となる患者像、評価した指標の種類、研究の方法論的な質を一つにつないで見る枠組み(成分から臨床への翻訳の枠組み)を用い、現在の臨床的根拠が成分と人での結果の結びつきを支持しているかどうかを評価したと述べています。
ポプラ型と熱帯型 — 成分の地図
著者らは、プロポリスを大まかに「ポプラ型」と「熱帯型」に整理して紹介しています。ポプラ型は温帯地域に多く、ハチが主にポプラ属の樹脂を集めたもので、イタリア、カナダ、中国、韓国、イラン、ニュージーランドなどの試料がここに含まれます。共通してフラボノイド類(ピノセンブリン、クリシン、ガランギンなど)やヒドロキシケイ皮酸類(カフェ酸、p-クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸フェネチルエステル=CAPE)が豊富だといいます。ただし同じポプラ型の中にも地域差があり、たとえばイタリア産ではガランギンとCAPEが目立ち、カナダ産にはバニリンやプレニル化フェノール酸誘導体、イラン産にはトリテルペノイドのゲルマニコールが含まれるなど、地域ごとの特徴が報告されています。
熱帯型として挙げられるのはブラジルの二つのタイプです。ブラジル南東部の「グリーンプロポリス」は主にバッカリス・ドラクンクリフォリアという低木に由来し、アルテピリンC、バッカリン、ドルパニンといったプレニル化桂皮酸誘導体を多く含むのが特徴だとされています。ブラジル北東部の沿岸・マングローブ地域でつくられる「レッドプロポリス」はダルベルギア属などが主な由来で、ホルモノネチン、ダイゼイン、ビオカニンA、ベスチトールなどイソフラボノイドに富む profile を示すと報告されています。
一方で著者らは、地理的な産地は文脈情報としては有用でも、ケモタイプの同定や化学分析の代わりにはならないと繰り返し強調しています。プロポリスの組成は、植物由来の樹脂源、地域の植生、現地の環境条件に左右されるためです。
人を対象とした14件の試験が示したこと
著者らはPubMed、Scopus、Web of Scienceを用いて、経口摂取したプロポリスを調べた臨床試験を検索し、14件の無作為化臨床試験を取り上げました。研究の質はコクランのRisk of Bias 2という道具で評価され、11件はバイアスのリスクが低い、2件は懸念あり、1件は高いと判定されています。
報告された結果は、代謝・内分泌、自己免疫、腎臓・透析、呼吸器と感染症、生殖、運動時の反応など多岐にわたります。2型糖尿病の成人では、イラン産プロポリスを1日900〜1000mg、12週間摂取した試験で、食後血糖や空腹時インスリン、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRなど一部の項目が改善したと報告されています。メタボリックシンドロームでは1日500mg・12週間でウエスト周囲径が減少した一方、他の構成要素には有意な変化がみられませんでした。体脂肪の多い閉経後女性では、ブラジル産グリーンプロポリス1日454mg・12週間で体脂肪量が減り、アディポネクチンが増え、酸化ストレスの指標であるd-ROMsが低下したとされています。
このほか、喘息では1秒量(FEV1)の上昇と呼気中一酸化窒素・好酸球数の低下、慢性腎臓病ではタンパク尿と尿中MCP-1の減少(ただし推算糸球体濾過量は不変)、精子無力症では精子数と運動率の増加、多嚢胞性卵巣症候群では空腹時インスリン・HOMA-IR・総テストステロンの低下などが報告されています。入院中の新型コロナウイルス感染症患者を対象とした二つのブラジルの試験では、在院日数の短縮や二次感染率の低下が報告された一方、死亡率には有意差がありませんでした。若い男性アスリートでは炎症・酸化の指標が変化したものの、最大酸素摂取量や体組成には差が出ていません。
著者らは、これらの変化が調べられた病態像と方向性として整合してはいるものの、すべての指標や試験で一貫して観察されたわけではないと注意を促しています。
「有望な候補」と「まだ言えないこと」の線引き
レビュー全体を通じて著者らが強調するのは、成分の多様性がよく記録されているのに対し、それを人での結果へ翻訳する部分に大きな隔たりがあるという点です。臨床的な根拠はイラン産のポプラ型とブラジル産グリーンプロポリスに偏っており、多くの試験は抽出方法、指標成分の濃度、完全な組成プロファイル、ロット単位の標準化についての情報が乏しいままでした。そのため、観察された変化を特定のケモタイプや個々の成分に帰することは、現時点では難しいといいます。さらに、イラン産は代謝・内分泌の患者群、ブラジル産は腎臓や感染症の患者群で主に調べられており、産地による違いと対象患者による違いを切り分けにくいことも指摘されています。
安全性の報告にも限界があるとされます。短期の試験では概して忍容性が良好と記述されている一方、有害事象や中止例、検査値の安全性指標は一貫して評価・報告されていませんでした。もっともはっきり認識されている懸念はアレルギー反応で、接触皮膚炎や口唇炎、口腔粘膜の炎症などが起こりうるため、プロポリスへのアレルギーや過敏症が分かっている人では摂取の禁忌と考えるべきだと著者らは述べています。
結論として著者らは、現在の人での根拠は、試験に用いられた特定の製品と対象集団に限って成り立つ「病態像に沿った生物学的なシグナル」であって、ケモタイプごとの臨床効果が確立されたことを意味しないと位置づけています。プロポリスは、効果が確立された介入というよりも、さらに検討に値する生理活性素材の候補だ、というのがこのレビューの見立てです。産地の名前だけでは中身は保証されない — 成分を測り、それを人での結果と同じ土俵で語れるようにすることが、この素材を理解するうえでの課題として示されています。
著者:Kwanyong Choi(Department of Food Science and Biotechnology, Seoul National University of Science and Technology, 232, Gongneung-ro, Nowon-gu, Seoul, 01811, Republic of Korea)、Ji Yeon Kim(Department of Food Science and Biotechnology, Seoul National University of Science and Technology, 232, Gongneung-ro, Nowon-gu, Seoul, 01811, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kwanyong Choi, Ji Yeon Kim. Botanical origin and compositional variability of bee-derived propolis in relation to current clinical evidence and nutraceutical applications. Applied Biological Chemistry 2026-08-28. DOI: 10.1186/s13765-026-01132-y. 原著ライセンス:CC BY.