日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Functional Foods in Health and Disease
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
私たちの体には、ウイルスや細菌が入り込んだときに即座に働く「自然免疫」という仕組みがあります。その中で重要な役割を担うのが、異物を取り込んで情報を他の免疫細胞へ伝える「抗原提示細胞」です。血液中を巡る単球(たんきゅう)や、樹状細胞と呼ばれる細胞がこれに当たります。
研究チームはこれまでに、米から得られるグルコシルセラミド(GlcCer、糖とつながった脂質の一種)を口から摂ると、血液中の樹状細胞で抗原提示に関わるHLA-DRという分子の発現が高まる一方、T細胞を活性化するのに必要なCD86という分子の発現は下がることを報告していました。この一見相反する結果の理由を探るため、著者らは、血液中の単球と樹状細胞を成熟段階ごとに細かく分けて調べることを本研究の目的としました。
何をどのように調べたか
著者らは、健康な日本人を対象に、ランダム割り付け・プラセボ対照・二重盲検という形式の独立した二つの試験を実施しました。二重盲検とは、参加者も評価する側も、どちらの群に割り当てられたかを試験終了まで知らない方法で、思い込みによる偏りを避けるための設計です。試験計画は倫理委員会の承認を受け、臨床試験登録(UMIN000060140)が行われています。
一つめは単球を調べる試験で、22名を摂取群11名とプラセボ群11名に分け、GlcCer 1.8 mgを含むカプセルまたはプラセボを1日1回8週間摂ってもらいました。単球はCD14とCD16という表面の目印の組み合わせでクラシカル型・中間型・ノンクラシカル型の3種類に分けられ、それぞれでHLA-DR、CD86、CD80の発現と細胞数が測定されました。
二つめは樹状細胞を調べる試験で、20名のうち摂取群5名とプラセボ群5名について、錠剤を1日3錠、4週間摂取する形で行われました。ここではCD62LとCD103という、成熟に伴って逆方向に変化する目印を使い、前駆段階の細胞(pre-cDC)、初期の未成熟な細胞、後期の未成熟な細胞といった段階を区別しながら、HLA-DRとCD86の発現を評価しています。両試験では副次的な項目として、鼻水・鼻づまり・くしゃみ・喉の痛み・発熱など13項目の風邪症状が出た日数を積み上げるスコアも記録されました。なお、いずれの試験でも途中で脱落した参加者はいませんでした。
報告された主な結果
単球の試験では、最も数の多いクラシカル型と中間型では、三つの活性化指標のいずれにも群間の有意な差は認められませんでした。これに対し、血管の内側を見回る役割をもつノンクラシカル型単球では、8週間の摂取によってCD86の発現が高まったと報告されています。CD80とHLA-DRの発現、および3種類の単球の細胞数には影響がみられませんでした。
樹状細胞の試験では、血液中では後期未成熟型が少なく初期未成熟型が優勢であることが確認され、摂取群ではこの初期未成熟な樹状細胞でCD86の発現が上がったと報告されています。さらに細かく分けた解析では、前駆段階の細胞でもCD86の発現が高まり、4週間の摂取によってCD86を中〜高程度に出す初期未成熟な細胞と前駆細胞の数が増えていました。一方で、HLA-DRを強く出す成熟段階の樹状細胞では、CD86の発現は下がったと述べられています。風邪症状についても、8週間の試験では合計スコアと鼻水・鼻づまり・くしゃみ・吐き気・発熱の各スコアが摂取群で低く、4週間の試験でも合計スコアが摂取群で低い値が報告されました。
この報告が示すこと
著者らは、米由来グルコシルセラミドの摂取が、血液中を巡る抗原提示細胞のうち特定の段階のもの——ノンクラシカル型単球、前駆段階および初期未成熟な樹状細胞——に働きかけ、それらの数を増やしたと結論づけています。成熟した樹状細胞ではCD86が下がるのに対し、より早い段階の細胞では上がるという段階ごとの違いが示されたことで、以前の報告で見えていた相反する現象を細胞の成熟段階という視点から整理できた点が、本研究の意義として述べられています。市販されている米由来グルコシルセラミドの摂取が血中の抗原提示細胞を活性化することを初めて明らかにした研究である、と著者らは位置づけています。
ただし今回の試験は、参加者が少人数で、いずれも製品を扱う企業の従業員であり、風邪症状の評価はあくまで副次的な項目として、日数を積み上げる方式で記録されたものです。著者ら自身、この症状スコアは正式に検証された臨床尺度ではないと記しています。報告された内容は、こうした条件のもとで観察された結果として読む必要があります。
著者:Eiji Uchimura(Research and Development Division , Oryza Oil and Fat Chemical Co., Ltd. , 1 Numata , Kitagata-cho , Ichinomiya , Aichi 493- 8001 , Japan;)、Shogo Takeda(Research and Development Division , Oryza Oil and Fat Chemical Co., Ltd. , 1 Numata , Kitagata-cho , Ichinomiya , Aichi 493- 8001 , Japan;)、Mizuna Tanaka(Research and Development Division , Oryza Oil and Fat Chemical Co., Ltd. , 1 Numata , Kitagata-cho , Ichinomiya , Aichi 493- 8001 , Japan;)、Mizuki Kubo(Research & Development Division , Oryza Oil & Fat Chemical Co., Ltd. , 1 Numata , Kitagata-cho , Ichinomiya , Aichi 493-8001 , Japan)、Hiroshi Shimoda(Research and Development Division , Oryza Oil and Fat Chemical Co., Ltd. , 1 Numata , Kitagata-cho , Ichinomiya , Aichi 493- 8001 , Japan;)、Yasuyuki Igarashi(Hokkaido University , Kita21 Nishi11 , Kita-ku , Sapporo , Hokkaido , 001-0021 , Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eiji Uchimura, Shogo Takeda, Mizuna Tanaka, et al. Immune responses of circulating monocytes and conventional dendritic cells to rice-derived glucosylceramides (Oryza Ceramide®) in healthy Japanese subjects: Randomized, placebo-controlled, double-blind trials. Functional Foods in Health and Disease 2026-09-28. DOI: 10.31989/ffhd.v16i9.2103. 原著ライセンス:CC BY.