この研究は、インド、アメリカ、マレーシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ「捨てられる部分」に注目したのか

トウモロコシは世界165か国で栽培され、生産量も増え続けている主要穀物です。しかし、粒を取り出したあとに残るひげ(コーンシルク)、芯(コーンコブ)、皮(コーンハスク)は、栄養や機能性についての知識が広まっていないために、大量に廃棄されたり、飼料や堆肥として使われるにとどまっているのが現状です。著者らは、トウモロコシの収穫で生じるバイオマスのうちおよそ15%が皮、35%が葉、50%が芯を占めるとする報告を紹介し、これらが未活用の資源であることを指摘しています。

この論文は新たな実験を行ったものではなく、これまでに発表された研究を整理した総説(レビュー)です。著者らは、これら3種類の残渣について、成分組成・栄養面・健康に関わる報告・食品および非食品分野での用途を一つの枠組みで比較整理した点に、この総説の新しさがあると述べています。個別の副産物を扱った文献はあっても、3者を横断的にまとめた評価はまだ限られている、というのが出発点です。

三つの残渣は何からできているか

コーンシルクは、雌花から伸びる「めしべ(柱頭)」にあたる部分で、受粉して1粒の実を結ぶ役割を持ちます。長さは10〜20cmほどの糸状で、収穫は受粉前に行われ、生のままでも乾燥させても使えます。論文が引用する分析値によれば、加工されたコーンシルクにはタンパク質や炭水化物、食物繊維が含まれ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅といったミネラルの供給源にもなります。数値は研究や試料の状態によって幅があり、たとえば未熟なコーンシルクと成熟したコーンシルクでは水分や食物繊維の割合が異なることが報告されています。

コーンコブ(芯)は、セルロース・ヘミセルロース・リグニンを主体とする木質性の素材です。他のバイオマスと比べてヘミセルロースが多く、リグニンや灰分が少ないという組成上の特徴があり、かさ密度が高いため回収や輸送がしやすい点も指摘されています。スイートコーンの芯には食物繊維に加えてフェルラ酸などのフィトケミカルが含まれ、必須アミノ酸・非必須アミノ酸の含量が、ライ麦全粒や小麦ふすま、オーツふすまといった他の穀物製品より高いとする報告も紹介されています。

コーンハスク(皮)も同じくセルロース、ヘミセルロース、リグニンからなるリグノセルロース素材です。生の皮繊維ではセルロースが60〜65%を占めるといった分析値が挙げられています。皮に含まれるフェノール酸の中心はフェルラ酸で、著者らはこの成分が強い抗酸化性を持ち、細胞の酸化を調整してDNAやタンパク質などの生体高分子を酸化的な損傷から守る働きがあると説明しています。

健康への働きは、どこまで確かめられているか

コーンシルクは、中国の伝統医学やネイティブアメリカンの医療で、前立腺の不調や尿路感染症などに用いられてきた歴史があります。利尿作用や血糖を下げる働きなどが伝統的に結びつけられ、現在も泌尿器系向けのお茶やサプリメントに配合されています。フラボノイド、フェノール酸、カロテノイド、ステロール、多糖類など多様な生理活性成分を含むことが、こうした期待の背景にあります。

ただし著者らは、証拠の種類を混同しないよう繰り返し注意を促しています。動物を用いた研究では、コーンシルク由来の多糖類が糖尿病モデルラットで抗うつ様の作用を示したとする報告や、抽出物が採卵鶏の産卵成績や卵のコレステロール量、酸化還元状態に影響したとする報告があります。しかし動物実験の結果をそのまま人間の健康効果に当てはめることはできない、と明記されています。人を対象とした臨床的な証拠は高血圧患者におけるコーンシルク茶の検討など限られており、用途ごとの有効性と安全性を確かめるには、設計の整った人間での研究がさらに必要だという立場です。

コーンコブでは、スイートコーンの芯がフェノール類を多く含み、DPPHやFRAPなどの試験で高い抗酸化活性を示したこと、紫トウモロコシの芯がアントシアニンを豊富に含むことが紹介されています。一方で、人を対象とした証拠は比較的少ないとされます。コーンハスクについても、健康に関わる可能性は主に成分組成と実験室レベルで報告された抗酸化性に基づくもので、具体的な治療効果を主張するには動物・ヒトでの研究がさらに必要だと述べられています。

食品から工業材料まで広がる用途

食品分野では、コーンシルクの利用研究が多く紹介されています。パン生地にコーンシルク粉末を2%加えると、食物繊維・タンパク質・灰分が増え、食感が改善しつつ官能的な受容性も保たれたという報告や、コーンシルク抽出物を用いたパンが総フェノール・総フラボノイド含量で最も高い値を示したという報告があります。飲料でもコーンシルク茶やハーブティー、ワイン、酢などへの利用が検討されており、ただし改善の度合いは配合や加工方法に左右されると整理されています。このほか、ミートボールやビーフパティ、クラッカーなど幅広い食品への配合が調べられています。

非食品分野では、組成の違いが用途の違いにつながります。リグノセルロースを主体とするコーンコブは、バイオエタノールの原料、水や排水の処理に使う吸着材、バイオ炭、成型炭、バイオコンポジット、生分解性材料などに向くとされます。コーンハスクも、フィルムや複合材、繊維製品、セルロース系製品といった用途が挙げられ、メチレンブルー色素の除去に使う安価な吸着材としての評価や、揚げ油の寿命を延ばす用途の報告が紹介されています。紫トウモロコシの皮の抽出物を、高脂肪食品の天然抗酸化剤として化学合成品の代わりに使う検討もあります。

この総説が示すこと

著者らがまとめた像は、三つの残渣がそれぞれ異なる方向に価値を持つ、というものです。食物繊維やフェノール類、フラボノイドに富むコーンシルクは機能性食品や栄養補助の方向に、セルロースとヘミセルロースが主体のコーンコブとコーンハスクはバイオ燃料や生分解性材料、包装材の原料としての方向に適性があります。ただしリグニン含量など構造上の違いは加工効率に影響するため、有効に使うには適切な前処理が求められると指摘されています。

同時に、実験室での成果を事業として成り立つ技術に変えることが大きな課題として挙げられています。原料を安定して継続的に確保できること、経済的に見合う加工方法、回収・輸送・保管や前処理のコスト、製品品質の一貫性、そして最終製品の需要——これらが実用化の可否を左右する要因です。著者らは今後の研究として、技術経済評価やプロセスの最適化、パイロット規模での実証、供給網の整備を重視すべきだとしています。

廃棄物として扱われてきた部分に何が含まれ、どこまでが確かめられ、どこからが未解明なのかを分けて示したことが、この総説の役割です。農産加工の現場で生まれる残渣を循環型のバイオエコノミーに組み込んでいくための、現在地の見取り図と言えます。

著者:Ishana Khan(Department of Bioengineering, Faculty of Engineering and IT, Integral University)、Gazia Nasir(Department of Bioengineering, Faculty of Engineering and IT, Integral University)、Asfaq(Department of Agriculture, Integral Institute of Agricultural Science and Technology (IIAST), Integral University)、Mohammad Ishfaq Bhat(Department of Food, Nutrition and Packaging Sciences, Clemson University)、Narashans Alok Sagar(Department of Biotechnology, University Institute of Biotechnology)、Nitu Rani(Department of Biotechnology, University Institute of Biotechnology)、Eng Keng Seow(Food Science Research Group, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ishana Khan, Gazia Nasir, Asfaq, et al. Nutritional, therapeutic, and industrial valorization of corn silk, cob, and husk: a review. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-09-15. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1947300. 原著ライセンス:CC BY.