この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Innovative Food Science & Emerging Technologies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

大豆の「豆くささ」と酵素の関係

大豆から取り出したたんぱく質(分離大豆たんぱく質)は、パン・菓子、飲料、乳児向け食品、植物由来の肉や乳製品の代替品などに広く使われています。一方で、原料の大豆粉にはリポキシゲナーゼとリパーゼという酵素が残っています。リパーゼは脂質を分解して脂肪酸を切り出し、リポキシゲナーゼはその脂肪酸を酸化します。この連鎖でできる物質がさらに分解されると、ヘキサナールなどのアルデヒド類が生じます。これらは青臭さや「豆くささ」の原因になります。論文は、こうした酸化反応がたんぱく質の構造も変え、泡立ちや乳化といった食品素材としての働きに影響しうると説明しています。

米国アーカンソー大学の研究チームは、たんぱく質を取り出す前の脱脂大豆粉をコールドプラズマで処理し、これらの酵素の働きを抑えられるかを調べました。コールドプラズマとは、加熱せずに空気などの気体に電気エネルギーを与えて作る状態のことです。反応性の高い酸素や窒素の化学種(活性種)が生じます。研究チームは、粉に直接プラズマを当てる「乾式」と、プラズマで処理した水を使う「湿式」を比べました。そして、酵素の働き、香り成分、たんぱく質の構造、素材としての性質への影響を評価しました。

乾式と湿式の二つの前処理を比較

乾式処理では、針状の電極と平板の間で放電させる装置を使い、脱脂大豆粉に空気中で30分間プラズマを当てました(論文での略称はPP30)。湿式処理では、水中で30分間プラズマを発生させて「プラズマ活性水」を作りました(略称PAW30)。そこに大豆粉を1時間浸してかき混ぜています。プラズマ活性水には、過酸化水素など比較的長く残る酸化性の物質が含まれます。その後、どちらの粉からも、アルカリ性で溶かし出して酸性で沈殿させる一般的な方法でたんぱく質を取り出しました。

処理時間の決め方も報告されています。市販の酵素を溶かした水溶液と大豆粉にプラズマを最大60分当て、5分ごとに酵素の働きを測りました。大豆粉では、酵素活性の低下の大部分が処理の初期に起こり、その後は頭打ちになりました。この結果をふまえ、以降の実験では30分処理を採用しています。取り出したたんぱく質については、主に次の項目を調べました。残っている酵素の働き、においに関わる35種類の揮発性成分の量、分子の大きさの分布、たんぱく質の立体構造、溶けやすさ、泡立ちや乳化、加熱で作ったゲルの保水性です。

乾式処理で酵素活性と豆くささ関連成分が低下

取り出したたんぱく質に残っていた酵素の働きは、処理なしの場合を100%として次のとおりでした。リポキシゲナーゼは乾式処理で54.70%、湿式処理で81.10%。リパーゼは乾式処理で57.89%、湿式処理で65.67%です。どちらの酵素も、乾式処理のほうが大きく低下しました。なお研究チームは、たんぱく質を取り出す際のアルカリ条件によって、粉の中に閉じ込められていた酵素が放出されるなどして、測定される活性が高まる可能性も指摘しています。

においに関わる成分にも違いが出ました。乾式処理のたんぱく質では、ヘキサナールなど青臭さや豆くささに関わるアルデヒド類が、処理なしより少なくなりました。湿式処理では、果実やバターのような香りに関わるケトン類やアルコール類が多くなりました。ただし、土っぽさや金属的な香りに関わる成分の増加も報告されています。研究チームはこの理由について、酵素の働きは一部しか抑えられず、プラズマ活性水に含まれる長く残る活性種が別の酸化反応を進めたためではないかと考察しています。なお、これらは機器で測定した揮発性成分の量の比較です。

たんぱく質の構造と食品素材としての性質

分子の大きさを調べると、どちらの処理でも、100キロダルトンを超える大きな集合体の割合が増えていました。処理なしでは約69%でしたが、乾式処理で約84%、湿式処理で約86%に上がりました。同時に、5キロダルトン未満の小さな成分の割合も増えていました。一方、赤外分光法で調べたたんぱく質の立体構造(らせん構造やシート構造の比率)は、乾式処理でのみ変化しました。また、乾式処理のたんぱく質は、反応しやすい状態の硫黄を含む基(遊離スルフヒドリル基)とアミノ基が、湿式処理のものより多いと報告されています。

食品素材としての性質では、水への溶けやすさに有意な変化はありませんでした。一方、泡立ちの量は乾式処理で16%、湿式処理で10%増えました。泡の持ちはどちらも約3倍になりました。乾式処理では、油と水を混ぜ合わせる乳化の能力とその安定性も約3倍に高まり、加熱して作ったゲルの保水性も向上しました。ただし、乾式処理で得られたたんぱく質の純度は約80%で、処理なしの約84%より有意に低くなりました。

研究チームは総合して、湿式処理と比べて乾式処理のほうが脂質を分解・酸化する酵素の働きを大きく抑えたと結論づけています。あわせて、豆くささに関わる成分を減らし、泡立ちや乳化などの性質を高めたとしています。プラズマの当て方によって、大豆たんぱく質の香り成分や性質の変わり方が大きく異なることを示した研究といえます。

著者:Nikitha Modupalli(Department of Food Science, University of Arkansas, Fayetteville, AR 72704, United States of America)、Sukanya Poddar(Department of Food Science, University of Arkansas, Fayetteville, AR 72704, United States of America)、Scott Lafotaine(Department of Food Science, University of Arkansas, Fayetteville, AR 72704, United States of America)、Md Mahfuzur Rahman(Department of Food Science, University of Arkansas, Fayetteville, AR 72704, United States of America)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nikitha Modupalli, Sukanya Poddar, Scott Lafotaine, et al. Cold plasma-induced lipoxygenase and lipase inactivation for flavor enhancement: Implications on structural and functional properties of soy protein isolate. Innovative Food Science & Emerging Technologies 2026-09-30. DOI: 10.1016/j.ifset.2026.104826. 原著ライセンス:CC BY.