この研究は、アルゼンチンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Spanish Journal of Agricultural Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:見過ごされてきた作物の歩みをたどる

ソバ(Fagopyrum esculentum Moench)は、イネ科の穀物ではないものの穀物のように利用される「擬穀類(ぎこくるい)」と呼ばれる作物です。論文によれば、ソバの種実は穀類で不足しがちな必須アミノ酸のリシンを多く含み、抗酸化物質や食物繊維、ミネラルも豊富で、さらに天然にグルテンを含まないため、グルテン不耐症やセリアック病のある人にとって価値のある作物とされています。

著者らは、ソバが農業面でも扱いやすい特徴を備えていると整理しています。生育期間が比較的短いため霜の降りない期間が短い地域でも栽培でき、二つの主要な作季のあいだに育てる「サービス作物」としても使えます。また肥料の投入が少ない痩せた土壌でも育つため、多くの作物がうまく育たない条件の悪い土地(限界地)でも栽培が成り立つと、先行研究を引きながら述べています。

そこで研究チームは、こうした特徴をもつソバが実際に世界でどう作られてきたのかを長期の統計から明らかにすることを目的としました。具体的には、生産量・収穫面積・収量、そして収量の安定性の推移を、気候条件の異なる複数の国について比較すること、さらにコムギ・トウモロコシ・ダイズといった主要作物と比べたときのソバの位置づけを評価することを課題に据えています。

何をどう調べたか

著者らはFAO(国際連合食糧農業機関)の統計データベースFAOSTATから、1960年から2021年までのソバの生産量(トン)、収穫面積(ヘクタール)、収量(キログラム/ヘクタール)のデータを取得しました。対象としたのはブラジル、カナダ、中国、アメリカ合衆国、ポーランド、ロシア、日本、フランス、ウクライナ、リトアニア、カザフスタンの11か国で、南北アメリカ・ヨーロッパ・アジアにまたがります。これらの国を選んだ理由として、過去60年間の世界のソバ生産量の平均83%を合わせて占め、同時に環境条件と収量水準の幅を広くカバーできる点を挙げています。同じ11か国について、比較用にコムギ・トウモロコシ・ダイズの収量も取得しています。

解析では、各国の生産量・面積・収量を年に対して回帰し、直線のほか、途中で傾きが1回・2回・3回変わる折れ線型のモデル(二区分・三区分・四区分)を当てはめました。国ごとの実際の推移をもっともよく表すモデルを選び、傾き(増減の速さ)と、傾きが変わった年である「変化点」を読み取っています。収量の安定性については、回帰モデルの予測値と実測値との差(残差)を用い、国ごとに平均収量や増加幅が大きく異なることを踏まえて、残差を予測値に対する百分率で表した「相対残差」で評価しました。

また、ソバの収量をコムギ・トウモロコシ・ダイズそれぞれの収量で割って100を掛けた「相対収量」を計算し、これら主要作物の収量水準を横軸(環境と栽培管理の良さを示す指標)として散らばりを見ています。なお著者らは、FAOSTATの値は国単位の平均であるため、国内の地域差や栽培管理の違いは見えなくなる点を、国間比較の解釈上の限界として明記しています。

報告された主な結果

もっとも大きな変化は栽培面積の縮小でした。世界のソバ収穫面積は1960年以降、年あたり約4万8千ヘクタールのペースで一貫して減り、500万ヘクタール超から現在の約195万ヘクタールへとおよそ60%減少したと報告されています。著者らはこの縮小の背景として、より収益性の高い作物との競合を挙げています。生産量も、1960年から1991年までは年あたり約3万9千トンで増えて約400万トンに達したものの、その後は年あたり約7万4千トン減に転じ、50%以上減って現在は187万トンになったとしています。

ただし推移は国によって大きく異なります。ブラジル、リトアニア、日本のように栽培が拡大した国もあり、著者らはその要因として国内需要と、投入資材の少ない栽培体系への適合性を挙げています。ブラジルは1960年の500トンから現在の6万5,400トンへと100倍以上に増え、リトアニアは過去30年で200トンから5万3,000トンに増加、2010年以降は増加率が4倍になりました。一方、ウクライナは1990年以降ほぼ直線的に減少し、30年でおよそ70%減。中国は1983年まで増加した後に転じ、ピークから約80%減って現在は約50万トンです。ロシアとカザフスタンは1990年代前半に急減したのち、ロシアは1990年の水準(約91万9,000トン)まで回復したのに対し、カザフスタンは30年前の3分の1程度にとどまっていると報告されています。

収量については、世界平均は1979年まで年あたり約28.8キログラム/ヘクタールで伸びたものの、その後は1,000キログラム/ヘクタール前後で横ばい(プラトー)となり、現在まで続いているとされます。この停滞のなかで例外的に高いのがフランスで、1976年以降は年あたり約59.3キログラム/ヘクタールで伸び、60年でおよそ3倍となる平均3,500キログラム/ヘクタールに達しています。ブラジルは2005年以降に伸びて約1,400キログラム/ヘクタールと世界平均を上回り、中国は1998年に1,800キログラム/ヘクタールまで上げたのち下降し、現在は約800キログラム/ヘクタールです。

安定性の解析では国ごとの差が大きく、北米では収量が一定に保たれてきた一方、ブラジルやカザフスタンでは年ごとの変動が大きかったと報告されています。主要作物との比較では、ソバはトウモロコシやダイズのような高収量作物に向かない条件下でも比較的よい成績を示す一方、生産量の最大化を志向する地域ではソバの生産性は相対的に低下する傾向があるとまとめられています。

この研究が示すこと

この研究が描き出すのは、栄養面・農業面で評価されながらも、世界の作付面積を大きく減らし、収量も1トン/ヘクタール付近で足踏みしてきた作物の姿です。同時に、フランスの収量水準や、リトアニア・ブラジル・日本などの面積拡大は、条件や需要の整い方によって別の道筋がありうることも示しています。

著者らは、とくに条件の恵まれない環境でソバが果たす役割を高めるための取り組みが重要だと述べ、品種改良を進めること、栽培技術をさまざまな生育条件に合わせて調整すること、市場での存在感を広げることを、その潜在力を引き出す鍵となる段階として挙げています。国ごとに大きく異なる歩みを一枚の統計から読み解いた点が、この研究の寄与だといえます。

著者:Sandra Antequera(Facultad de Agronomía, Departamento de Producción Vegetal, Cátedra de Cerealicultura, Universidad de Buenos Aires. C1417DSE Buenos Aires, Argentina)、Antonio C. Guglielmini(Facultad de Agronomía, Departamento de Producción Vegetal, Cátedra de Cerealicultura, Universidad de Buenos Aires. C1417DSE Buenos Aires, Argentina)、Daniel Julio Miralles(Facultad de Agronomía, Departamento de Producción Vegetal, Cátedra de Cerealicultura, Universidad de Buenos Aires. C1417DSE Buenos Aires, Argentina / IFEVA, CONICET, Facultad de Agronomía, Universidad de Buenos Aires. C1417DSE Buenos Aires, Argentina)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sandra Antequera, Antonio C. Guglielmini, Daniel Julio Miralles. Global trends of buckwheat production and yield in the last six decades. Spanish Journal of Agricultural Research 2026-09-22. DOI: 10.5424/sjar/2026242-21852. 原著ライセンス:CC BY.