著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

五味子(学名:Schisandra chinensis)は「五味の実」という名の通り、酸味・甘味・辛味・苦味・塩味を同時に感じさせる果実として、長い利用の歴史を持つ機能性ベリーです。ただしその味は強烈で、そのまま食べるのは一般的に受け入れられにくく、お茶のように水に浸して飲まれることが多いとされています。一方で肝臓保護作用や抗酸化作用、鎮静作用などが報告されており、機能性食品としての注目度は高いものの、味や香りの成分がどこに由来するのかという基礎的な研究は十分ではありませんでした。特に、果実を構成する「果肉」と「種子」でどのような風味成分がどう分布しているのかは、これまではっきり分かっていませんでした。この研究は、その分布を明らかにすることで、果肉と種子を分けて活用する食品開発につなげることを目的としています。

研究チームは、遼寧省フーシュン(撫順)産の五味子18バッチを用い、食品用手袋を着けた研究者が果肉と種子を手作業で分離しました。分析には、人の感覚で評価する官能評価、機械的に味を数値化する電子舌、化合物を特定するLC-QTOF-MS/MS(液体クロマトグラフィー四重極飛行時間型タンデム質量分析)、化合物の味を計算機上で予測するVirtualTaste、香り成分を分析するHS-GC-IMS(ヘッドスペース-ガスクロマトグラフィー-イオン移動度分析)という5つの手法を組み合わせています。単独の手法では味の主観性や検出範囲の限界があるため、これらを補い合う形で統合したという説明がなされています。

官能評価と電子舌が示した果肉と種子の違い

官能評価には19〜26歳の76名(女性56名、男性20名)が参加し、事前に山椒の実で「山椒様の香り」を、レモンで「酸味・レモン様の香り」を識別する訓練を受けた上で、0〜5点のスケールで各項目を評価しました。その結果、果肉は酸味とレモン様の香りが際立って高く評価され、種子は苦味・辛味・山椒様の香りが顕著という、対照的な結果が得られました。統計的検定では、酸味・苦味・辛味・山椒様の香り・レモン様の香り・舌のしびれ感・総合的な食感と味において、果肉と種子の間に非常に強い差が確認されています。塩味は両方から感じられたものの強度は弱く、甘味はかすかに果肉から感じられる程度で種子からはほとんど感じられなかったとのことです。

電子舌による測定でも、この傾向が裏付けられました。18バッチの果肉では酸味の検出値が平均11.26(範囲8.44〜12.64)と高く、18バッチの種子では苦味の検出値が平均8.54(範囲6.66〜9.64)と高い値を示しています。統計モデル(OPLS-DA)による解析でも、果肉と種子のサンプルは明確に分離され、酸味と苦味がこの2つを区別する主要な指標として抽出されました。なお、電子舌ではどちらの部位からも塩味は検出されず、これは塩味成分の濃度が低く、電子舌の感度が人の舌ほど高くないためではないかと論文中で推測されています。

味と香りの正体——化合物レベルでの特定

LC-QTOF-MS/MSによる分析では、果肉と種子を合わせて57種類の化合物が特定されました。内訳はリグナン類37種、テルペノイド12種、有機酸6種、フラボノイド1種、配糖体1種です。果肉にはリグナン20種・テルペノイド8種・有機酸6種・フラボノイド1種・配糖体1種が、種子にはリグナン34種・テルペノイド5種・有機酸5種が含まれており、種子の方がリグナン類に富んでいることが分かります。さらにVirtualTasteという計算モデルで各化合物の味の傾向を予測したところ、クエン酸とリンゴ酸が酸味を生じさせる可能性が高いと判定され、この2つの酸が果肉の酸味の主な要因である可能性が示唆されています。実際、果肉に含まれるクエン酸とリンゴ酸の量は種子よりも多かったとのことです。

一方、種子の苦味についてはリグナン類が高い確率で苦味に寄与すると予測され、シザンテリンA、シザンドリンA、シザンドリンBといったリグナン化合物が種子の苦味に部分的に関わっている可能性が指摘されています。これらの化合物はある種の生理活性を持つことも知られており、18バッチの種子での含有量はシザンテリンAが2.24〜3.61mg/g、シザンドリンAが2.91〜4.06mg/g、シザンドリンBが3.23〜4.33mg/gの範囲だったと報告されています。

香りについては、HS-GC-IMSにより76種類の揮発性化合物が特定されました。このうちγ-テルピネン、3-カレン、β-ピネンなどは種子で果肉より多く検出されており、これらが種子で感じられる辛味や山椒様の香りの主な要因である可能性が高いとされています。

この研究をどう読むか

この研究は、五味子という一つの果実の中でも果肉と種子とで、酸味・苦味・香りを担う成分がはっきり異なる場所に偏って存在することを、複数の分析手法を重ねて示したものです。ただし、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。VirtualTasteによる味の予測は、学習に使われたデータの質や、甘味・苦味・酸味という基本的な3種類の味に限定される点、濃度による感じ方の違いを考慮していない点など、著者ら自身がその限界を挙げています。また、対象となったのは中国遼寧省フーシュン産の18バッチの五味子であり、産地や品種、収穫時期が異なる場合に同じ傾向が見られるかどうかは、この研究だけでは分かりません。特定の健康効果を保証するものでもなく、あくまで風味成分の分布を明らかにした基礎的なデータという位置づけです。

なお、この論文にはさまざまな研究機関に所属する著者が名を連ねていますが、いずれも中国国内の大学・研究機関であり、日本の研究機関や日本の食習慣についての言及は本文中に見当たりませんでした。

まとめ

五味子の果肉は酸味とレモン様の香りが強く、クエン酸やリンゴ酸が関わっている可能性が示され、種子は苦味・辛味・山椒様の香りが強く、リグナン類やγ-テルピネンなどのテルペン類が関わっている可能性が示されました。この違いを踏まえ、著者らは果肉と種子を分けて活用することで、五味子を使った食品開発の幅が広がる可能性があると位置づけています。

著者:Tian-Qi Zhang(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Lichao Wang(Department of Integration of Chinese and Western Medicine, School of Basic Medical Sciences, Peking University)、Fang-Tong Liu(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Gui-Zhong Xin(State Key Laboratory of Natural Medicines, China Pharmaceutical University)、Hong-Juan Hou(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Jinxiu Liang(Institute of Genetics, International School of Medicine, Zhejiang University)、Hui Zhang(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Tianmin Wang(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Deqiang Dou(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Xiaowei Zhang(Academy of Chinese Medical Sciences, Henan University of Chinese Medicine)、Da-Chuan Zhang(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Cheng Qian(Department of Pathology, School of Basic Medical Sciences, Nanjing Medical University)、Long-Jiao Cong(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Ting-Guo Kang(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Gui-Rong Chen(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Yue-Hua Chen(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Hui‐Peng Song(Key Laboratory for Identification and Quality Evaluation of TCM of Liaoning Province, Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Tian-Qi Zhang, Lichao Wang, Fang-Tong Liu, et al. Taste and odor metabolomics of Schisandra chinensis flesh and seeds: integration of sensory evaluation, electronic tongue, LC-QTOF-MS/MS, VirtualTaste, and HS-GC-IMS. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1881293. 原著ライセンス: cc-by.