著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。

掲載誌:International Journal for Population Data Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

イングランドでは300万人を超える人が糖尿病と診断されており、その割合は着実に増えて医療に大きな負担をかけています。砂糖の摂取は、生活の中で変えることのできる危険因子として知られています。しかし、それが地域全体の健康にどれほど影響しているかを数字で示すのは簡単ではありません。食事の内容を本人に尋ねる調査では、記憶違いや、望ましく見える答えを選んでしまう傾向が入り込みやすいからです。

そこで研究チームが注目したのが、スーパーマーケットのポイントカードなどに記録される購買データです。こうした記録は何百万件もの買い物を、本人の申告に頼らずに長期間にわたってとらえられます。食品の買い方が地域ごとにどう違うかも細かく見えてきます。著者らは、この購買データを使って、砂糖入り飲料の購入が地域の糖尿病の多さに与える因果的な影響を推定することを目指しました。

何をどのように調べたか

研究チームは、英国の大手スーパーマーケットチェーンの2019年から2021年までの3年分の購買記録を使いました。これを、イングランドの統計上の地域単位である約2,606の小地域ごとにまとめ、砂糖摂取の目安となる指標を作りました。この指標を、英国の国民保健サービス(NHS)の診療データに基づく2024年の2型糖尿病の有病率と結び付けています。分析しているのは個人ではなく、地域単位の関係です。

地域の糖尿病の多さには、砂糖入り飲料以外にもさまざまな要因が関わります。そこで著者らは「ダブル機械学習」と呼ばれる手法を使いました。これは、貧困の度合い、人口構成、食料品店へのアクセス、大気の質、都市化の程度といった、結果をゆがめうる地域の条件を、機械学習で柔軟に考慮しながら効果を推定する方法です。さらに、近い地域どうしが似た傾向を示しやすいことや、地域のまとめ方の影響を受けていないかについても、統計的な確認を行っています。

この研究で特に工夫されているのが、結果の確かさを確かめる仕組みです。ひとつは、砂糖の摂取との因果的なつながりがすでに知られている肥満や高血圧を「陽性対照」として調べることです。もうひとつは、てんかんや学習障害のように、砂糖とつながる経路が考えにくい状態を「陰性対照」として調べることです。もし陰性対照でも大きな関連が出れば、考慮しきれていない別の要因や、データの時期のずれが結果をゆがめている疑いが生じます。

主な結果

著者らの報告によると、砂糖入り飲料の購入は、地域の糖尿病有病率に対してかなり大きな正の効果を示しました。つまり、こうした飲料がよく買われている地域ほど、糖尿病の有病率が高くなる方向の効果が推定されたということです。

陽性対照の結果は、体内の代謝の変化として予想される順序とよく合っていました。効果の大きさは肥満がもっとも大きく、次に高血圧、そして糖尿病の順でした。一方、陰性対照で見られた効果は、それより一桁ほど小さいものでした。研究チームはこれを、結果をゆがめる要因がおおむね適切に調整されていることを示すものと解釈しています。

この研究が示すこと

買い物の記録のように、日々の生活の中で自然に残るデータは、これまで主に健康に関わる行動を予測する目的で使われてきました。この研究は、同じ種類のデータも、適切な分析の設計と組み合わせれば、地域全体の食事と健康の因果関係を論じる材料になりうることを示しています。

著者らは、陽性対照と陰性対照の両方を使って結果を検証するという組み合わせが、因果的な解釈を支えると述べています。そのうえで、この組み合わせは、ほかの要因による見かけの関連が心配されるデジタルデータの研究にとって、ひとつの手本になると位置づけています。

原著論文の著者・所属:Raphael Derecki(N/LAB, University of Nottingham, UK)、Brian O'Shea(N/LAB, University of Nottingham, UK)、James Goulding(N/LAB, University of Nottingham, UK)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Raphael Derecki, Brian O'Shea, James Goulding. From Shopping Baskets to Diabetes: Causal Inference Using Retail Transaction Data. International Journal for Population Data Science 2026-08-03. DOI: 10.23889/ijpds.v11i4.3797. 原著ライセンス:CC BY.