著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Journal of Food Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
塩を減らすとハムの品質が落ちるという課題
ハムなどの食肉加工品では、食塩(塩化ナトリウム)が味付けだけでなく、微生物の増殖を抑える、肉のたんぱく質を溶かし出して肉同士をつなぐ、水分を保つといった重要な役割を担っています。一方で、ナトリウムのとり過ぎは高血圧や心血管疾患などとの関連が指摘されており、加工食品の減塩が求められています。
ただし、塩を減らすと加熱時に水分が抜けやすくなり、食感や色、歩留まり(できあがりの量)が損なわれやすいことが知られています。研究チームは、これまで個別に試されてきた減塩対策を組み合わせることで、ナトリウムを100グラムあたり600ミリグラム未満に抑えつつ、加工上の品質と食べやすさを保った加熱ハムをつくることを目指しました。
三つの素材を組み合わせて試作
研究チームが用いたのは、たんぱく質同士を結びつける酵素であるトランスグルタミナーゼ、食肉用の調味料、そして食塩の代わりとしてよく使われる塩化カリウムの三つです。食塩の添加量を1.0%に下げたうえで、これらの素材の量や組み合わせを変えたハムを試作し、通常の配合のハム(標準品)や、単に塩を減らしただけのハム(減塩対照)と比べました。試作は小規模な加工設備で行われ、各配合は1回ずつ製造されています。
比較した項目は、成分組成、加熱による重量の減り方、薄切りにした際のロス、押したときに出てくる水分(保水性の目安)、色、かたさや弾力などの食感です。さらに、機器による測定結果をもとに選んだ配合について微生物検査を行い、123人の消費者に食べてもらって好ましさや塩味・かたさの感じ方を尋ねました。
機器測定では改善、ただし味の評価は標準品に届かず
論文によると、試作ハムのナトリウム量はおよそ30%減っていました。塩を減らしただけのハムは加熱による重量減少が8.8%と、標準品の5.2%より大きくなりましたが、調味料や酵素を加えた一部の配合では標準品と差のない水準に戻りました。薄切り時のロスも、一部の配合では標準品のおよそ半分に抑えられたと報告されています。
食感では、塩を減らすとかたさやまとまりが弱まる一方、酵素を0.045%加えた配合ではかたさなどが減塩対照より有意に高くなり、標準品と同等かそれ以上になる場合もありました。保水性については、調味料を1%加えた配合や、調味料・塩化カリウム・酵素を組み合わせた配合が効果的で、酵素を半量にした配合では保存中の水分保持の改善が見られませんでした。色は、いくつかの配合で標準品と見た目に区別できない程度の差にとどまりました。官能評価に用いた配合は、検査した病原菌が検出されないなど、法令の基準内でした。
消費者の評価では、最も好まれたのは標準品で、減塩ハムはいずれもそれより低い評価でした。ただし、減塩ハムも9段階の好ましさの尺度で6を上回り、拒否されるような評価ではありませんでした。減塩ハムでは塩味が物足りないと感じる人が多く見られました。食感については、酵素0.045%と調味料1%を加えた配合で約半数(49.6%)が「かたすぎる」と評価した一方、同じ量の酵素に調味料を減らして塩化カリウムを加えた配合では約3割(32.5%)でした。酵素を半量にした配合では、逆にかたさが足りないと感じる人が多くなりました。また、ピンク色が薄い、色が淡いといった印象も評価を下げる要因でした。なお、素材の追加による製造コストの増加は約11%と見積もられています。
技術的な改善と「おいしさ」の両立
著者らは、酵素・塩化カリウム・調味料の組み合わせが減塩ハムの加工上の性質を改善し、減塩策として可能性があると結論づけています。その一方で、塩味の弱さ、ゴムのような食感、淡い色のために、消費者の評価では標準品と同等には至りませんでした。この研究は、減塩食品では加工時の品質を整えるだけでは十分でなく、味・食感・見た目を同時に満たす必要があることを示しています。
原著論文の著者・所属:Simoni Cristina Mendes Cardim(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas Campinas São Paulo Brazil)、Gilmar Freire da Costa(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas Campinas São Paulo Brazil)、Marise Aparecida Rodrigues Pollonio(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas Campinas São Paulo Brazil)、Jorge Herman Behrens(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas Campinas São Paulo Brazil)、Juliano Lemos Bicas(School of Food Engineering Universidade Estadual de Campinas Campinas São Paulo Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Simoni Cristina Mendes Cardim, Gilmar Freire da Costa, Marise Aparecida Rodrigues Pollonio, et al. Development of Reduced‐Sodium Cooked Ham Using NaCl Substitutes: Impact on Instrumental and Sensory Properties. Journal of Food Science 2026-08-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71358. 原著ライセンス:CC BY.