日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Chemical Engineering Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

羊肉(マトン)は良質なタンパク質を含む一方で傷みやすく、冷蔵保存中にも酵素の働きや微生物の増殖によって品質が落ちていきます。傷みが進むとアルカリ性の揮発性アミンが生じ、pH(酸性・アルカリ性の度合い)が上がって異臭の原因になります。そこで、包装材そのものが鮮度の変化を知らせてくれる「スマートフィルム」への関心が高まっています。

ただし著者らは、冷蔵中のマトンのpHは弱酸性から中性のおよそ5〜7という狭い範囲で動くことが多く、色の変化だけに頼る指示薬では初期段階の読み取りが難しいと指摘しています。この課題に対して研究チームは、色の変化(呈色)と紫外線を当てたときの蛍光という二つの読み取り方を一枚に組み込んだフィルムを設計し、冷蔵マトンの鮮度をリアルタイムで見分けられるかを確かめることを目的としました。

何を使い、どう調べたか

フィルムの土台には、牛乳由来のタンパク質であるカゼインが使われました。食べられる素材で、生分解性があり、膜を作りやすいという性質が理由です。色を担うのは、黒大豆の種皮(黒大豆の皮、農産加工の副産物)から取り出したアントシアニンという天然色素です。アントシアニンはpHに応じて色が変わる性質を持ちますが、光や湿度に弱く信号が安定しにくいという弱点があります。そこで著者らは、この色素にピリジンという化合物を反応させて化学的に手を加え(論文ではmBSSCと呼ばれています)、pHに応じて蛍光を発する性質を持たせました。

さらに、ZIF-67という金属有機構造体(金属イオンと有機分子が規則正しく組み合わさった多孔質の材料)を加えました。ZIF-67はコバルトとイミダゾールからなる骨格を持ち、フィルムの構造を補強し、抗菌性をもたらすとともに、色素を固定する足場としても期待されました。

研究チームは、ZIF-67の配合量を変えた複数のフィルムを作り、質量分析や吸収・蛍光スペクトルで色素の変化を確認したうえで、膜の断面構造、引張強さ、水蒸気の通しにくさ、抗酸化能、大腸菌と黄色ブドウ球菌に対する抗菌性などを比べました。そのうえで、4 °Cで16日間保存したマトンにフィルムを(肉に触れないよう3 mm以上離して)取り付け、2日ごとに別の包装を開けて、フィルムの見た目の色と365 nmの紫外線を当てたときの蛍光、そして肉側の指標である揮発性塩基窒素(TVB-N、傷みとともに増える窒素化合物の量)や生菌数を測定しました。土に埋めた場合と海水に浸した場合の分解のようすも調べています。

主な報告結果

著者らによれば、色素とZIF-67の複合体はカゼインの中に均一に分散し、まとまりのよい緻密な構造と十分な機械的性能を示しました。複数の配合のうち、機能と材料コストのバランスが最もよかったのはCAS/mBSSC/Z2と名づけられたフィルムだったと報告されています。カゼインだけのフィルムと比べると、水蒸気の透過しやすさは12.4×10⁻¹¹から6.2×10⁻¹¹(g·m⁻¹s⁻¹m⁻²·Pa⁻¹)へ下がり、あわせて耐水性、抗酸化能、抗菌性も向上したとされています。

冷蔵保存の実験では、このフィルムが二つの読み取り方で鮮度の進行を示しました。通常の明るさの下では目に見える色の移り変わりが観察され、365 nmの紫外線を当てると蛍光が立ち上がり、その「点灯」はおよそ6日目に起きたと報告されています。著者らは、色による表示は日常的な確認に便利で、コントラストの高い蛍光は暗い場所での確認や、携帯型の紫外線ランプを使った素早い確認に向くと位置づけています。

このフィルムはマトンの傷みそのものも遅らせました。TVB-Nが15 mg/100 gに達するまでの時間はおよそ10日目まで延び、保存終了時の菌数は8.8 log CFU/gで、Z1群の12.6 log CFU/gより低く抑えられたと報告されています。また、試験した土壌埋設と海水の条件では、フィルムは大きく崩れて質量を失ったことが示されました。

この研究が示すこと

著者らはこのフィルムを、水分などを防ぐバリア性能の向上、傷みの抑制、そして色と蛍光という互いを補い合う二つのセンシングを一つにまとめた多機能な材料として位置づけています。牛乳由来のタンパク質と農産副産物の色素という身近な素材から、鮮度の変化を「見える形」にする包装材を組み立てられることを、実際の冷蔵マトンでの測定とあわせて示した報告といえます。

著者:Xirui Yan(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Fanze Meng(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Jiao Zeng(Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Zhangbin Liu(Laboratory of Marine Environmental Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, Fukuoka, 812-8581, Japan)、Anqi Liu(Laboratory of Marine Environmental Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, Fukuoka, 812-8581, Japan)、Xinrui Mao(Laboratory for Animal Nutrition and Animal Product Quality, Department of Animal Sciences and Aquatic Ecology, Ghent University, Coupure Links 653, B-9000, Ghent, Belgium)、Reshaka Kavindi Malawara Arachchige(Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Francis Ngwane Nkede(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Mohammad Hamayoon Wardak(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Amna Bibi(Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Tran Thi Van(NTT Hi-tech Institute, Nguyen Tat Thanh University, 300A Nguyen Tat Thanh, Xom Chieu Ward, Ho Chi Minh City, 700000, Viet Nam)、Fumina Tanaka(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Fumina Tanaka(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Fumihiko Tanaka(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)、Fumihiko Tanaka(Laboratory of Postharvest Science, Faculty of Agriculture, Kyushu University, W5-874, 744, Motooka, Nishi-Ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xirui Yan, Fanze Meng, Jiao Zeng, et al. A casein-based dual-mode smart film enabled by pyridine-modified anthocyanins and ZIF-67 for real-time mutton freshness monitoring. Chemical Engineering Journal 2026-08-29. DOI: 10.1016/j.cej.2026.181346. 原著ライセンス:CC BY.