著者の所属・活動拠点の国は、セルビアです。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
花は観賞用だけでなく、ジャムやデザート、飲み物など食品の材料としても使われてきました。なかでもバラは色や香りが魅力ですが、食品としての栄養や機能の面はまだ十分に評価されていないと著者らは指摘しています。
研究チームは、セルビアの育種会社が従来の交配によって開発し、化学的な防除を使わずに栽培した新しい園芸バラ(Rosa × hybrida)5品種に注目しました。香りの官能評価で有望とされた「マジック・アロマ」「インテンス・アロマ」「ジェントル・アロマ」「ナチュラル・アロマ」「ユニーク・アロマ」です。論文は、これらの花びらを食品素材として使える可能性を探るため、成分と生物学的な働きを初めて調べたと報告しています。
何を調べたか
研究チームは、セルビア北部の屋外圃場で2021年8月下旬に各品種の花を採取しました。まず株や花の形態と、パネリストによる香りの評価を行いました。そのうえで、花びらの抽出物について成分を分析しました。対象は、植物に広く含まれる抗酸化成分であるポリフェノールの総量、その一群のフラボノイドの総量、ピンクや赤の色素であるアントシアニンの量、ビタミンCの量です。さらに、質量分析を使う方法で、選んだ45種類の化合物を個別に定量しました。
働きの評価は、すべて試験管内(in vitro)の実験です。抗酸化作用を2種類の方法で調べました。さらに、神経の情報伝達物質を分解する酵素アセチルコリンエステラーゼを抑える作用を、神経保護の指標として測りました。血糖に関わる指標としては、でんぷんなどの糖質を分解する酵素α-アミラーゼとα-グルコシダーゼを抑える作用を測定しました。
主な結果
形態の調査では、側枝に花をつけるのは「ジェントル・アロマ」だけでした。著者らは、この性質が花の収量を高める可能性があると述べています。「マジック・アロマ」は花びらの長さと幅が最も大きく、花1輪あたりに使える花びらが多い可能性が示されました。どの品種も八重咲きの淡い色の花で、香りは5段階で4〜5と高く評価されました。香りの印象は品種ごとに異なりました。
成分分析では、ポリフェノールの総量が乾燥抽出物1グラムあたり没食子酸換算で122〜240ミリグラムでした。フラボノイドの総量は、同じく乾燥抽出物1グラムあたりケルセチン換算で18.1〜42.7ミリグラムでした。ポリフェノールが最も多かったのは「マジック・アロマ」です。著者らは、他の食用花と比べて同程度かそれ以上だと報告しています。アントシアニンはピンク色の2品種で検出されましたが、黄色系の3品種では測定法の定量限界を下回りました。ビタミンCは生の花びら1グラムあたり0.24〜0.31ミリグラムで、こちらも「マジック・アロマ」が最も多い結果でした。個別の成分では、キナ酸や、ケンフェロールやケルセチンに糖が結合したフラボノイド類が多く含まれていました。成分の組み合わせから見ると、「マジック・アロマ」は他の4品種と区別されました。
働きの試験では、抽出物は強い抗酸化作用と中程度のアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を示しました。糖質分解酵素については、α-アミラーゼを抑える作用は弱いものでした。一方、α-グルコシダーゼは強く抑えられ、1ミリリットルあたり2.50マイクログラムの濃度で23.7〜81.6%の阻害が見られました。多くの試験で最も高い活性を示したのは「マジック・アロマ」でした。著者らは、この強いα-グルコシダーゼ阻害の一因として、花びらに多く含まれるフラボノイドを挙げています。
研究が示すこと
論文は、新しいバラ5品種の花びらがポリフェノールやビタミンCを豊富に含み、試験管内で抗酸化作用やα-グルコシダーゼ阻害作用を示すことを報告しました。これらの結果は試験管内の実験によるもので、著者ら自身も血糖管理への応用はさらに調べる価値があるものとして位置づけています。著者らは、なかでも「マジック・アロマ」を食品素材として最も有望な品種と結論づけています。見た目や香りだけでなく、食材としてのバラの可能性を成分と働きの面から示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Nemanja Živanovic(Department of Chemistry, Biochemistry and Environmental Protection, Faculty of Sciences, University of Novi Sad, Trg Dositeja Obradovića 3, 21000 Novi Sad, Serbia)、Marija Lesjak(Department of Chemistry, Biochemistry and Environmental Protection, Faculty of Sciences, University of Novi Sad, Trg Dositeja Obradovića 3, 21000 Novi Sad, Serbia)、Dejan Orčić(Department of Chemistry, Biochemistry and Environmental Protection, Faculty of Sciences, University of Novi Sad, Trg Dositeja Obradovića 3, 21000 Novi Sad, Serbia)、Biljana Božanic Tanjga(Breeding Company ‘Pheno Geno Roses’, Maršala Tita 75, 23326 Ostojićevo, Serbia)、Mirjana Ljubojević(Department of Fruit Growing, Viticulture, Horticulture and Landscape Architecture, Faculty of Agriculture, University of Novi Sad, Trg Dositeja Obradovića 8, 21000 Novi Sad, Serbia)、Jelena Čukanović(Department of Fruit Growing, Viticulture, Horticulture and Landscape Architecture, Faculty of Agriculture, University of Novi Sad, Trg Dositeja Obradovića 8, 21000 Novi Sad, Serbia)、Nataša Simin(Department of Chemistry, Biochemistry and Environmental Protection, Faculty of Sciences, University of Novi Sad, Trg Dositeja Obradovića 3, 21000 Novi Sad, Serbia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nemanja Živanovic, Marija Lesjak, Dejan Orčić, et al. More than Beauty—Edible Flowers of New Rosa × hybrida Genotypes Grown in Vojvodina (Serbia) as a Novel Source of Bioactive Compounds. Plants 2026-10-10. DOI: 10.3390/plants15203099. 原著ライセンス:CC BY.