著者の所属・活動拠点の国は、チリです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

魚を加工する過程で出る皮や骨、うろこには、コラーゲンというタンパク質が豊富に含まれています。これらは廃棄されることも多い一方、コラーゲンを分解して得られる小さなペプチド(アミノ酸がいくつかつながった断片)の中には、体内で酸化ストレスの原因となる活性酸素を消去する働きを持つものが報告されてきました。ただし、これまでの研究の多くは複雑な分解物や画分をまとめて調べたもので、どの配列がどのように効いているのかを特定しづらいという課題があったといいます。今回、チリのバルパライソ・カトリカ大学の研究グループが、サケ(Salmo salar)のコラーゲンからコンピューター解析で有望なペプチド配列を絞り込み、実際に合成して抗酸化活性を確かめた研究を報告しました。

コンピューターで候補を絞り込んでから実験する二段構えの方法

研究チームはまず、NCBIのデータベースからサケのコラーゲンタンパク質の配列(1000アミノ酸を超える長い配列)を集め、実際の実験ではなくコンピューター上で「in silico(イン・シリコ)」酵素分解を行いました。使われた酵素はサブチリシンという、食品由来タンパク質の加工に広く使われるタンパク質分解酵素です。この分解によって約14000個のペプチド断片が生成され、5アミノ酸以上で重複のないものに絞ると597個のユニークなペプチドが残りました。

次に、過去の論文から集めた23個の既知の抗酸化ペプチド(参照用パネル)と合わせて、疎水性や電荷、分子量など15種類の物理化学的な指標を計算し、主成分分析とクラスタリングという統計手法で、既知の抗酸化ペプチドと性質が近いサケ由来の候補を探しました。この段階はあくまで「実験の的を絞るためのスクリーニング」であり、著者らは、既知ペプチドと同じグループに分類されたことが抗酸化活性そのものを証明するわけではないと明記しています。最終的に、配列の重複が少なく合成しやすい候補が選ばれ、固相ペプチド合成という手法で実際に化学合成されました。

DPPH法・ABTS法・細胞を使った実験で何がわかったか

合成したペプチドは、0.2mMと0.4mMという2つの濃度で、DPPH法とABTS法という2種類の化学的な抗酸化力測定(ラジオカル消去能を調べる代表的な手法)、さらに魚由来の培養細胞(RTgill-W1細胞)を用いた細胞内抗酸化活性(CAA)試験にかけられました。比較対照にはビタミンCが使われています。

DPPH法では、「AS-5390」と名付けられたペプチド(配列DGCERCF)が最も高い活性を示し、0.2mMではビタミンCに匹敵する値だったと報告されています。この配列にはシステインという硫黄を含むアミノ酸が含まれており、その働きが電子や水素を渡す反応に関与している可能性が考察されています。一方ABTS法では、AS-5390を含む複数のペプチドが両方の濃度である程度の活性を示したものの、ビタミンCほど強い活性には及ばなかったとされています。興味深いことに、多くのペプチドで0.4mMより0.2mMの方が高い活性を示すという、単純に「濃度が高いほど効果が強い」とはならない結果が、DPPH法・ABTS法の両方で見られました。著者らは、この現象の正確な原因は今回のデータだけでは特定できず、ペプチド同士の凝集や反応速度の違いなど複数の可能性が考えられるとしつつ、今後さらに検証が必要な点として位置づけています。

細胞を使ったCAA試験では、別のペプチド「AS-5394」(配列PGDIG)が0.4mMで約40%の活性に達し、化学的な試験結果とは異なる顔ぶれが上位に来たことが報告されています。このペプチドはグリシンやプロリン、イソロイシン、アスパラギン酸といったアミノ酸から成り、細胞膜との相互作用や金属イオンの捕捉などを通じて働いている可能性があるとされていますが、統計的な多重比較の調整後には他のペプチドとの差が有意ではなくなったため、著者らはこの結果を「参考的な傾向」として慎重に扱うよう述べています。さらに、最も有望とされたAS-5390とAS-5394について、WST-1法という細胞毒性試験も行われ、いずれも高い細胞生存率(AS-5390で75%超、AS-5394で90%超)が保たれていたと報告されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

著者らは、化学的な試験(DPPH・ABTS)と細胞を使った試験とで、活性が高いとされたペプチドの顔ぶれが異なった点を強調しています。これは、単純な溶液中でのラジカル消去能と、生きた細胞の中での働きが必ずしも一致しないことを示しており、一つの試験だけで抗酸化能力を判断することの限界を示す結果だといえます。また、コンピューター解析で使われた分解酵素はサブチリシン1種類のみであり、実際の胃腸での消化や別の酵素を使った場合には異なるペプチドが生成される可能性がある点、濃度も0.2mMと0.4mMの2点のみで一般的な濃度反応曲線を描いたものではない点も、著者ら自身が挙げている制約です。今回生成されたペプチドは、あくまでコンピューター上でサケコラーゲンの配列から予測されたものであり、実際に製造されたサケコラーゲン分解物の中から直接同定されたものではないことにも留意が必要です。

今回の研究は、サケの加工副産物という身近な資源から、機能性食品やサプリメントの原料となりうる成分を効率よく探す方法の一例を示したものであり、特定の健康効果を保証するものではありません。今後、より広い濃度範囲での検証や、活性の仕組みそのものを直接確かめる実験が必要になると考えられます。

原著論文の著者・所属:Suleivys M. Nuñez(Escuela de Ingeniería Química, Pontificia Universidad Católica de Valparaíso, Valparaíso 2340025, Chile)、Camila B. Barrera(Escuela de Ingeniería Química, Pontificia Universidad Católica de Valparaíso, Valparaíso 2340025, Chile)、Ignacio S. del Río(Escuela de Ingeniería Química, Pontificia Universidad Católica de Valparaíso, Valparaíso 2340025, Chile)、Jaime Gómez(Escuela de Ingeniería Química, Pontificia Universidad Católica de Valparaíso, Valparaíso 2340025, Chile)、Tanya Román(Programa de Doctorado en Biotecnología, Pontificia Universidad Católica de Valparaíso/Universidad Técnica Federico Santa María, Valparaíso 2340025, Chile)、Fanny Guzmán(Núcleo de Biotecnología Curauma (NBC), Pontificia Universidad Católica de Valparaíso, Valparaíso 2373223, Chile)、Constanza Cárdenas(Centro de Investigación Interdisciplinaria en Biomedicina, Biotecnología y Bienestar (CID3B), Pontificia Universidad Católica de Valparaíso, Valparaíso 2340000, Chile)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Suleivys M. Nuñez, Camila B. Barrera, Ignacio S. del Río, et al. Bioinformatic Identification and Experimental Validation of Novel Antioxidant Peptides Derived from Salmon Collagen. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15162882. 原著ライセンス: cc-by.