著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Kiryoku: Jurnal Studi Kejepangan

ライセンス: CC BY-SA 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

「理想的な給食」の現在を問い直す

日本の学校給食は、栄養を満たすだけでなく、食に関する教育や子どもの健康、学校での人との関わりを支える仕組みとして、海外からも成功例と見なされてきました。主に小中学校で実施され、人件費や設備などの運営費は行政が負担し、食材費は保護者が負担するのが基本です。国(文部科学省)が基準や方針を定め、都道府県や市の教育委員会など地方自治体が実際の運営を担っています。

研究チームは、こうした「理想的」とされる給食制度が、現代日本の社会や経済の変化のなかでどのような課題に直面しているかを分析しました。著者らによれば、これまでの研究は制度の成功や食育、文化的な価値に重点を置く傾向があり、物価上昇や自治体財政への圧力といった現在の問題を深く掘り下げたものは少なかったといいます。目的は、理想的とされる制度でも改善と行政による適切な対応が必要であることを、給食制度の導入や拡大を考える国々に示すことにあります。

文献と報道を手がかりにした分析

この研究は、現地調査や聞き取りではなく、既存の資料を読み解く質的な文献研究です。日本政府の政策文書、公的な調査報告、書籍、公式ウェブサイト、最近の日本の報道、関連する学術論文などを幅広く集め、複数の情報源を突き合わせることで偏りを抑えるよう努めたとしています。

分析には「テーマ分析」と呼ばれる手法が用いられました。資料を読み込んで内容に印を付け、繰り返し現れる意味のまとまり(テーマ)を見つけて整理する方法です。その結果、課題は経済、政策、食の安全、人口動態の四つのテーマに分類されました。

浮かび上がった四つの課題

一つ目は食料価格の上昇という経済的な課題です。論文は、2026年初めの時点でも米の価格が5キロあたり平均4000円を上回り、品薄になる前のほぼ2倍の水準にあるという報道を紹介しています。文部科学省のデータでは、2023年の月額の給食費(保護者の実際の支払額ではない平均額)は小学校で4688円、中学校で5367円で、5年前より約8%、10年前より約12%上昇していました。福岡では給食費の予算が約10年間据え置かれるなか、給食の質の低下が報じられて批判を集めたことや、広島の給食業者が費用の増加を吸収できず経営破綻し、約150校で給食が止まった事例も取り上げられています。著者らは、給食の持続性が教育政策だけでなく、食料経済の安定や自治体の財政力、給食関連産業の存続とも深く結びついていると指摘しています。

二つ目は地域間の格差です。国は栄養基準や大枠の方針を定めますが、運営は自治体に大きく任されており、無償化のルールも自治体ごとに異なります。2023年の調査では、月額の給食費は小学校で3933円から5314円、中学校で4493円から6282円と都道府県によって幅があり、差はおよそ1.4倍でした。無償化や地元産・有機食材の活用ができる地域がある一方、予算の制約で同じ水準を保つのが難しい地域もあると論文は述べています。

三つ目は食の安全で、食中毒とアレルギーが挙げられました。2026年3月には大阪で600人を超える児童生徒が食中毒になり、患者の一部と、給食用のパンを納める会社の従業員から同じノロウイルスが見つかったと報じられています。アレルギーについては、重いアレルギーのため給食を食べられず弁当を持参する子どもがいることや、消費者庁の2024年の報告で原因として卵が26.7%、クルミなどのナッツ類が24.6%、牛乳が13.4%を占めたことが紹介されています。

四つ目は少子化による児童生徒数と学校数の減少です。2025年の小学生は約581万人と過去最少で、中学生も約310万人に減りました。子どもが減ると給食室や配送の効率を保つのが難しくなり、学校の統合や、複数校分をまとめて調理する共同調理場への集約が進められています。論文では、6000食ずつ調理する2つの調理場の計画を、1万2000食を調理できる1か所にまとめた例が示されています。ただし、配送費の増加や物流への依存、栄養士や調理員などの人手不足という新たな課題も生じていると著者らは述べています。一方で、2023年9月時点で全自治体の約3割にあたる547自治体が公立小中学校の給食を無償化しており、2017年の調査から約7倍に増えました。保護者の負担軽減と子育て支援を理由に挙げる自治体が最も多かったものの、物価上昇を受けて継続するかどうかは自治体の間で判断が分かれているといいます。

国の支援と残る負担、そして研究の示すもの

論文は国の対応にも触れています。2026年までに国は子ども1人あたり月5200円の補助を全国で行うようになりましたが、鹿児島県の43市町村では月額の給食費が平均約5820円で、38市町村が補助額を上回っていたという報道が紹介されています。補助で賄えない分は自治体の負担となり、離島の自治体などから地域事情に応じた支援を求める声が上がっているといいます。

著者らは、給食がもはや単なる学校の食事ではなく、食料の安定確保、公衆衛生、社会福祉、地域の持続性と結びついた公共政策になっていると結論づけています。その持続には、状況に応じて柔軟に変えられる政策、安定した財政運営、国・自治体・学校・食品関連分野の連携の強化が欠かせないとしています。なお、本研究は文献や報道に基づく分析で、現場での観察や関係者への聞き取りは行っていないことを著者ら自身が限界として挙げています。

成功例とされてきた日本の給食も、物価、地域差、安全、人口減少という変化の波から自由ではない。この研究は、優れた制度であっても社会の変化に合わせて点検と見直しを続ける必要があることを、具体的な事例とともに示しています。

著者:Althaf Gauhar Auliawan(Universitas Diponegoro, Indonesia)、Ichlasul Ayyub(Universitas Diponegoro, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Althaf Gauhar Auliawan, Ichlasul Ayyub Challenges of Implementing the Kyushoku Program in Contemporary Japan: An Analysis of Policy, Media, and Social Reality. Kiryoku: Jurnal Studi Kejepangan 2026-10-01. DOI: 10.14710/kiryoku.v10i2.505-517. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。