著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

肉の主要なたんぱく質であるミオシンは、筋原線維たんぱく質の50〜55%を占めます。加熱するとゲル(ゼリー状の構造)をつくる性質があり、食肉製品の品質に深く関わります。ミオシンの構造は、溶液のpHやイオン強度(溶けている塩類の濃さ)によって変わることが知られています。

重曹として知られる炭酸水素ナトリウムは、食肉製品でリン酸塩の代わりに使われることがあり、肉のジューシーさや柔らかさを高めると報告されています。ただし、豚の筋原線維たんぱく質全体への影響は調べられてきた一方、ミオシンそのものに絞った研究は少ないと著者らは指摘しています。そこで研究チームは、豚肉ミオシンの溶液に濃度を変えて炭酸水素ナトリウムを加え、ミオシン分子どうしに働く力や、流れやすさ・弾力といった性質がどう変わるかを調べました。

何を調べたか

研究チームは豚のロース部分の筋肉からミオシンを取り出し、1 mL当たり20 mgの溶液を用意しました。そこへ炭酸水素ナトリウムを0、10、20、30、40、50 mMの6段階で加え、比較しました。

生の溶液については、pH、濁り具合(濁度)、ミオシンの粒子の大きさ、たんぱく質表面の「疎水性」(水になじみにくい部分がどれだけ表に出ているか)、チオール基(硫黄を含み、たんぱく質どうしを結びつける結合をつくり得る部分)の量、見かけの粘度、弾性の指標である貯蔵弾性率などを測定しました。さらに、溶液を80℃で15分加熱してゲルにし、その白さと、ゲルを支える分子間の結合(イオン結合、水素結合、疎水性相互作用、ジスルフィド結合)の寄与を調べました。

主な結果

炭酸水素ナトリウムの濃度が高くなるほど溶液のpHは有意に上がりましたが、30 mMを超えると上がり方は緩やかになりました。同時に、溶液の濁りとミオシン粒子の平均の大きさは小さくなりました。著者らは、pHが上がってミオシンが等電点(電荷が打ち消し合って凝集しやすいpH)から離れ、分子どうしが反発し合うことで、固まりがほどけたためと考察しています。

表面の疎水性と、反応しやすい状態のチオール基の量は濃度とともに増え、いずれも40 mMと50 mMの間には有意な差がありませんでした。一方、チオール基の総量は30〜50 mMの範囲で減少しました。著者らは、ミオシンの立体構造が部分的にほどけて内部に隠れていた部分が表に出たことや、一部のチオール基がジスルフィド結合に変わったことが背景にあると解釈しています。

生の溶液はどれも、速くかき混ぜるほど粘度が下がる性質を示しました。そのうえで、同じせん断速度(溶液をずらすように動かす速さ)で比べると、見かけの粘度は炭酸水素ナトリウムの濃度が0 mMから50 mMへ高くなるにつれて大きくなりました。貯蔵弾性率は50 mMで最も高くなりました。加熱してできたゲルでは、炭酸水素ナトリウムが多いほどイオン結合と水素結合の寄与が減り、疎水性相互作用とジスルフィド結合の寄与が増えました。著者らは、後者の二つがゲルの構造を主に支えていると述べています。また、ゲルの白さは濃度が高くなるにつれて低下しました。

研究が示すこと

著者らは、炭酸水素ナトリウムがpHを上げることでミオシン分子が部分的にほどけ、分子どうしを結びつける力の種類とバランスが変わると、豚肉ミオシンに絞った実験から解釈しています。とくに40 mMと50 mMの添加で分子間の力が強まり、流動特性が改善したと結論づけています。一方で、ゲルの白さが下がるという変化も同時に報告されており、重曹が肉のたんぱく質に与える影響を、分子の振る舞いと見た目の両面から理解する手がかりとなる研究です。

原著論文の著者・所属:Yu Zheng(Key Laboratory of Chinese Cuisine Intangible Cultural Heritage Technology Inheritance, School of Tourism and Cuisine, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Zhan-Peng Zhu(Key Laboratory of Chinese Cuisine Intangible Cultural Heritage Technology Inheritance, School of Tourism and Cuisine, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Qin Hou(Key Laboratory of Chinese Cuisine Intangible Cultural Heritage Technology Inheritance, School of Tourism and Cuisine, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Wang-Li Cheng(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China)、Xue-Hua Zhang(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China)、Zhuang-Li Kang(Key Laboratory of Chinese Cuisine Intangible Cultural Heritage Technology Inheritance, School of Tourism and Cuisine, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yu Zheng, Zhan-Peng Zhu, Qin Hou, et al. Changes in the Molecular Forces and Rheological Properties of Pork Myosin with Sodium Bicarbonate. Foods 2026-10-04. DOI: 10.3390/foods15193539. 原著ライセンス:CC BY.