著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、スペインです。

掲載誌:ASM Food Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

カキは価値の高い水産物ですが、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)という細菌に汚染されたカキを生や加熱不十分な状態で食べると、食中毒を起こすことがあります。この細菌はカキの消化盲嚢(中腸腺とも呼ばれる消化器官)に集まりやすいため、加熱調理ではこの部位で菌をどれだけ減らせるかが重要になります。

加熱調理は感染リスクを下げる主な手段です。しかし著者らによると、これまでの加熱による死滅のデータは、主に温度を一定に保った実験から得られていました。実際の調理では、食材の温度は時間とともに変化します。そこで研究チームは、調理に近い「温度が変化していく加熱条件」で、カキの消化盲嚢の中の腸炎ビブリオがどのように死滅するかを調べました。著者らは、この条件で死滅の速さを詳しく調べた最初の研究だと述べています。

何を調べたか

研究チームは、病原性をもつ腸炎ビブリオ2株を使いました。患者由来の株(FDA-R2)と環境由来の株(TX-2103)です。カキの消化盲嚢の中でこれらの菌を、63℃、74℃、98℃(沸騰に近い温度)を目標とする温度変化のある加熱条件にさらしました。そのうえで、菌数の減り方を数理モデルで表しました。

まず2株の熱への強さを比べました。63℃では、FDA-R2の菌数がTX-2103より1グラムあたり0.39 log(対数単位)多い結果でした(95%信頼区間0.10〜0.69)。ただし、この差は時間とともに変わり、ほかの加熱条件では一貫していませんでした。著者らは、株による一貫した違いは見られないと判断し、2株のデータをまとめて解析しました。

主な結果

温度が変化する条件での死滅の様子は、Peleg-Weibullモデルという数式で最もよく説明できました。このモデルから、温度を一定に保った場合に菌数が最初に10分の1になるまでの時間が推定されています。その値は、63℃で4.32分(95%信用区間3.37〜5.62分)、74℃で1.56分(1.22〜2.43分)、98℃で0.34分(0.19〜0.69分)でした。温度が高いほど、死滅がかなり速く進むと予測されたことになります。

また、死滅曲線の形を表す「形状パラメータ」は1.0より小さいと推定されました。これは、加熱の初めに菌が急速に減り、その後は減り方が鈍くなって一部が残りやすい「テーリング」と呼ばれる経過をたどることを示しています。

研究が示すこと

この研究は、実際の調理に近い温度変化のもとで、カキの消化盲嚢にいる腸炎ビブリオの死滅を数値で表す手がかりを示しました。著者らは、調理中の温度と時間の変化全体を考えることが重要だとしています。そして今回の結果は、カキの調理方法を科学的に評価することや、微生物によるリスク評価を支えるデータになると述べています。

原著論文の著者・所属:Weifan Wu(Food Science and Human Nutrition Department, University of Florida)、Mohammad Hojjati(Food Science and Human Nutrition Department, University of Florida)、Kelani J. Saez Montoya(Food Science and Human Nutrition Department, University of Florida)、Samantha L. Dicker(Food Science and Human Nutrition Department, University of Florida)、Alberto Garre Pérez(Departamento de Ingeniería Agronómica, Instituto de Biotecnología Vegetal, Universidad Politécnica de Cartagena (ETSIA))、Arie H. Havelaar(Department of Animal Sciences and Global Food Systems Institute, University of Florida; Havelaar Food Risk Analytics)、Naim Montazeri(Food Science and Human Nutrition Department, University of Florida; Research and Development Center, Reckitt Benckiser LLC)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Weifan Wu, Mohammad Hojjati, Kelani J. Saez Montoya, et al. Modeling the dynamic heat inactivation of Vibrio parahaemolyticus in oyster digestive diverticula. ASM Food Microbiology 2026-09-10. DOI: 10.1128/asmfm.00008-26. 原著ライセンス:CC BY.