著者の所属・活動拠点の国は、中国、イギリスです。

掲載誌:Journal of Health Population and Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

妊娠中に血糖値が上がりやすくなる妊娠糖尿病は、世界で多くの妊婦にみられます。妊娠初期の空腹時血糖は、その後の妊娠糖尿病を予測する手がかりになるとされています。空腹時血糖が基準よりやや高い状態は「空腹時血糖異常」と呼ばれ、リスクの高い人を早く見つけるための重要な指標です。

研究チームが注目したのは「内受容感覚」です。空腹や満腹、心臓の鼓動など、体の内側から届く信号に気づき、受け止める働きを指します。著者らは、この感覚に敏感な人ほど、空腹や満腹のサインに従って食べる量や内容を調整しやすいのではないかと考えました。一方、妊娠初期はホルモンの変化によって、つわりや特定の食べ物への強い欲求・嫌悪が起こり、食事が偏りやすい時期です。

そこで研究チームは、妊娠初期の内受容感覚の敏感さが空腹時血糖異常と関連するのか、またその関係に食事の質が介在しているのかを調べることを目的としました。

何をどのように調べたか

研究は、ある時点の状態をまとめて調べる横断研究として行われました。2024年12月から2025年6月にかけて、2つの病院で妊婦健診を受けていた妊娠初期の女性215人のデータが分析されました。

内受容感覚の敏感さは、体の感覚への気づきを多面的に尋ねる自己記入式の質問票で評価しました。この質問票には、感情と体の感覚のつながりへの気づき、体の感覚を使って気持ちを落ち着かせる力、体の声に耳を傾ける姿勢、自分の体を信頼する感覚などの項目が含まれます。

食事は、参加者が平日2日と休日1日の計3日間に食べたものを記録する食事日記で調べました。その記録を、中国の妊婦向けに作られた食事バランスの指標で採点しました。指標のひとつ「食事の質の距離」は、推奨量に対する不足と過剰の度合いを合計したもので、値が大きいほど食事の偏りが大きいことを示します。もうひとつの「食品の多様さ」は、穀類、野菜、果物、乳製品、大豆・ナッツ類、肉、卵、魚介など12の食品群をどれだけ十分に食べていたかを表します。

空腹時血糖は、一晩絶食した後に採血して測りました。5.6mmol/L以上を空腹時血糖異常としています。分析では、両グループで差のみられた妊娠前の体格指数(BMI)と学歴の影響を考慮しました。

主な結果

215人のうち37人(17.2%)が空腹時血糖異常に当てはまりました。このグループは血糖値が正常なグループに比べ、内受容感覚の総合点が低く、特に感情への気づき、自己調整、体の声を聴く姿勢、体への信頼の各項目で点数が低いと報告されています。

BMIと学歴の影響を考慮した分析でも、内受容感覚の点数が高いほど空腹時血糖異常にあてはまりにくいという関連が統計的に有意に残りました。オッズ比は0.491でした。

食事については、空腹時血糖異常のグループの方が食事の偏りが大きく、食品の多様さが乏しい傾向がみられました。偏りの中心は食べ過ぎではなく不足の側にあり、特に乳製品と大豆・ナッツ類の摂取不足が目立ったといいます。

さらに研究チームは、統計的な媒介分析を行いました。これは、内受容感覚と血糖の関係のうち、どの程度が食事の質を経由した形で説明できるかを推定する方法です。その結果、食事の偏りと食品の多様さはいずれも関係の一部を媒介していると推定されました。全体の関連のうち、食事の偏りを経由する部分は約20%、食品の多様さを経由する部分は約15%でした。一方で、食事を経由しない直接の関連も残っていました。

この研究が示すこと

著者らは、体の内側の信号に気づきにくいことが食事の偏りや多様さの不足につながり、それが空腹時血糖に影響する、という経路の可能性を示しています。ただし、この研究は一時点の状態を調べた横断研究です。示されたのは関連であり、原因と結果の順序が確かめられたわけではありません。

それでも、妊娠初期の血糖を考えるうえで、食事の内容だけでなく「自分の体のサインをどう感じ取っているか」という視点を加えた点に、この研究の新しさがあります。著者らは、体への気づきに着目した取り組みが、妊婦の食事の選び方や血糖管理を考える新たな切り口になりうると述べています。

原著論文の著者・所属:Xiaohan Tan(Division of Endocrinology, the First Affiliated Hospital of Soochow University, Suzhou, 215006, China)、Qianqian Tian(School of Nursing, Medical College, Soochow University, Suzhou, 215006, China)、Bin Liu(School of Nursing, Medical College, Soochow University, Suzhou, 215006, China)、Wei Zhang(Obstetric Department, Affiliated Women’s Hospital of Jiangnan University, Wuxi, 214000, China)、Jun Liu(Obstetric Department, Affiliated Women’s Hospital of Jiangnan University, Wuxi, 214000, China)、Xiaohua Wang(Cardiology Division, the First Affiliated Hospital of Soochow University, Suzhou, 215006, China)、Omorogieva Ojo(School of Health Sciences, Faculty of Education, Health and Human Sciences, University of Greenwich, London, SE9 2UG, UK)、Qing Jiang(Division of Endocrinology, the First Affiliated Hospital of Soochow University, Suzhou, 215006, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaohan Tan, Qianqian Tian, Bin Liu, et al. Association between interoceptive sensitivity and impaired fasting glucose in early pregnancy: the mediating effect of dietary quality distance and food variety. Journal of Health Population and Nutrition 2026-08-11. DOI: 10.1186/s41043-026-01418-3. 原著ライセンス:CC BY.