この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:European Food Research and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食後に血糖値が急に上がる状態や、糖とタンパク質が酵素によらずに結びついてできる「終末糖化産物(AGEs)」の生成は、互いに関係しながら体に負担をかける現象として知られています。研究チームは、こうした過程に関わる二つの消化酵素に着目しました。α-アミラーゼはデンプンの分解を始める酵素、α-グルコシダーゼは小腸で糖を最終的にブドウ糖まで分解する酵素です。これらの働きを抑えることは、食後の血糖上昇やAGEsの生成を抑えるうえで合理的な方向だと位置づけられています。
植物由来の成分のうち、ベタレインとポリフェノールはこの二つの過程に対して可能性が示されてきた成分群です。ベタレインは、ビート類やサボテン類などナデシコ目の植物だけがもつ窒素を含む色素で、赤紫系のベタシアニンと黄橙系のベタキサンチンに分けられます。ポリフェノールは、複数のフェノール性水酸基をもつ成分の総称です。ただし著者らによれば、ポリフェノールについての研究は数多くある一方、ベタレインに関する知見は比較的限られており、両者を同じ条件でじかに比べた研究もほとんどありません。そこで本研究は、ベタレインを豊富に含む植物どうしで成分組成がどう違い、その違いが抗酸化能・抗糖化活性・消化酵素阻害とどう関連するのかを明らかにすることを目的としました。
何をどう調べたか
研究チームは、日常的に食べられているベタレイン豊富な6種類の植物材料を選びました。赤ビート、赤いスイスチャード(フダンソウ)、黄色と赤のウチワサボテンの果実、そして黄色とピンクのドラゴンフルーツ(ピタヤ)です。ポーランドのオルシュティンの市場で購入した材料を薄く切って凍結乾燥し、粉末にして分析に用いました。抽出には80%メタノールを使い、超音波を併用した方法で成分を取り出しています。
成分の分析には、高速液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた装置を用いて、ベタレインとポリフェノールを個別に同定・定量しました。あわせて、発色反応にもとづく総ポリフェノール量と総フラボノイド量も測定しています。生物活性については、二種類の人工ラジカル(DPPHとABTS)を消す力として抗酸化能を、ウシ血清アルブミンにブドウ糖またはメチルグリオキサールを加えた試験管内のモデルでAGEs生成の抑制を、そしてα-アミラーゼとα-グルコシダーゼそれぞれに対する阻害率を調べました。なお著者らは、各植物材料は市販品1ロットずつであり、報告されている繰り返し測定は分析上の反復であって独立した生物学的な反復ではないと明記しています。また相関分析や主成分分析は、6種類の平均値にもとづく探索的な手法として行われ、慎重に解釈すべきものだと断っています。
報告された主な結果
ベタレインについては、全体で42種類の化合物が同定されました。内訳は前駆体が2種類(ベタラミン酸とシクロDOPA)、ベタシアニンとその誘導体が27種類、ベタキサンチンが13種類です。検出された化合物数がもっとも多かったのは赤ビートの25種類で、前駆体が見つかったのも赤ビートだけでした。総ベタシアニン量は赤ビートが最も高く16.63 mg/g乾物、次いで赤ウチワサボテン、黄ウチワサボテンと続きました。一方、総ベタキサンチン量は赤ウチワサボテンが最も高く、黄色系の色素であるインディカキサンチンは二種類のウチワサボテンからのみ検出されました。ベタレイン全体の量では赤ウチワサボテンが33.30 mg/g乾物で最も高く、二種類のピタヤが最も低い値でした。
ポリフェノールの組成は植物ごとに大きく異なりました。クロマトグラフィーで求めた総ポリフェノール指標が最も高かったのはピンクピタヤで、最も低かったのは赤ビートでした。赤ビートからはサリチル酸しか検出されていません。著者らによれば、m-クマル酸が黄色とピンクのピタヤ果実の抽出物から同定されたのは、知る限り今回が初めてです。
ただし、発色反応による総ポリフェノール量はクロマトグラフィーの結果と必ずしも一致しませんでした。赤ビートは検出されたフェノール化合物がわずかなのに総ポリフェノール量は高い部類に入り、赤ウチワサボテンとピンクピタヤでも両手法で順位が逆転しています。著者らはこの点について、用いた発色法はフェノール化合物に特異的ではなく抽出物全体の還元力を反映するため、アスコルビン酸やアミノ酸、果糖などフェノール以外の還元性成分にも反応しうると説明し、これらの値はあくまで操作上の指標であって、同定されたフェノール化合物の量を正確に表すものではないと注意を促しています。
抗酸化能は赤ビートと赤スイスチャードで最も高く、黄ピタヤで最も低い値でした。ウチワサボテンどうしでは赤のほうが黄より一貫して高く、色素の濃さと抗酸化能の間に関連がうかがえます。相関分析では、総ポリフェノール量とラジカル消去活性の間に強い正の相関が見られ、ベタニンやイソベタニンといったベタシアニンもABTS法の活性と強く相関していました。なお著者らは、DPPHとABTSは人工のラジカルを使う試験であるため、結果は化学的な抗酸化能を示すものであり、生体内での抗酸化効果を直接示すものではないと述べています。
消化酵素の阻害については、α-アミラーゼ阻害率が1.41%から39.27%の範囲に分布し、ピンクピタヤが最も強い阻害を示しました。α-グルコシダーゼでも同様の傾向で、ピンクピタヤが最上位でした。著者らはこの結果を、ピンクピタヤがクロロゲン酸やクマル酸類、カテキンやルチンなど豊富なフェノール成分を含むこととの関連として述べていますが、本研究では酵素と成分の結合の仕組みを直接調べていないため、これらの相互作用はあくまで寄与しうる可能性にとどまると明記しています。
この研究が示すこと
同じ「ベタレインが豊富な植物」とひとくくりにされる食材でも、含まれる色素やポリフェノールの顔ぶれと量は大きく異なり、それに応じて試験管内で示す活性の強さも違っていました。抗酸化能が高い材料と、消化酵素を強く阻害した材料が一致しなかった点は、成分組成の違いが活性の種類ごとに異なるかたちで現れうることを示しています。
同一条件で6種類を横並びに比較したこの研究は、色素と生物活性の関係を整理するための土台を提供するものです。同時に著者ら自身が、試料が各1ロットであること、統計解析が探索的であること、用いた試験が試験管内の化学系であることを限界として挙げており、報告された関連は因果関係を示すものではない点に留意して読む必要があります。
著者:Monika Jabłońska(Department of Human Nutrition, Faculty of Food Sciences, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Słoneczna 45F, 10-719, Olsztyn, Poland)、Wioletta Błaszczak(InLife Institute of Animal Reproduction and Food Research, Polish Academy of Sciences, Trylińskiego 18, 10-748, Olsztyn, Poland)、Tomasz Sawicki(Department of Human Nutrition, Faculty of Food Sciences, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Słoneczna 45F, 10-719, Olsztyn, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Monika Jabłońska, Wioletta Błaszczak, Tomasz Sawicki. Relationships between betalains, phenolic compounds and bioactivity in selected plant matrices. European Food Research and Technology 2026-09-27. DOI: 10.1007/s00217-026-05322-2. 原著ライセンス:CC BY.