この研究は、スロベニアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Agronomy
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「捨てられる芽」を調べたのか
ビールの原料として知られるホップ(Humulus lupulus L.)は、通常、雌花の集まりである「毬花(きゅうか)」を収穫するために栽培されます。しかし栽培の現場では、毬花にたどり着く前の段階で大量の芽が取り除かれています。春になるとホップの株からは15〜40本の芽が出てきますが、3〜4月の剪定作業では前年の古い枝ごと余分な芽が機械的に切り落とされます。このとき除かれるのが、まだ土の中にあって光を受けていない「白い芽」です。その後あらためて伸びてきた芽は地表に出ると緑色になり、長さ50〜70cmほどになった時点で支柱のひもに誘引されます。このとき1株あたり6〜10本だけが選ばれて残され、残りは手作業で切り捨てられます。これが「緑の芽」です。
著者らは、こうした剪定・誘引作業で毎年必ず生じる芽を、活用されていないバイオマス(植物資源)としてとらえました。ホップの毬花にポリフェノールが豊富に含まれることは以前から知られており、また農業の副産物を有用成分の供給源として見直す動きが広がっています。ただし論文によれば、白い芽については総ポリフェノール量や抗酸化活性の報告はあったものの、個々のポリフェノール成分を特定した研究はこれまでなく、栽培品種の緑の芽についての成分プロファイルも報告されていませんでした。そこで研究チームは、白い芽と緑の芽に含まれるポリフェノールの種類と量を明らかにし、あわせて誘引時に除去される緑の芽がどれだけの量になるのかを測ることを目的としました。
何を、どのように調べたか
調査地はスロベニアのホップ産地、下サヴィニャ谷のジャレツ地域にある実際に生産されているホップ畑です。対象としたのは、いずれも同国のホップ研究・醸造研究所で育成された3品種——スロベニアの作付面積の約4割ずつを占めるアウロラ(Aurora)とツェレイア(Celeia)、そして作付面積3%の新しい品種スティリアン・ウルフ(Styrian Wolf)です。
試料採取は2021年に白い芽と緑の芽の両方、2023年には緑の芽のみについて行われました。白い芽は剪定の直前(2021年4月)に土を手で取り除いて株から切り取り、緑の芽は通常の誘引作業の時期(2021年5月と2023年5月)に集めています。いずれも品種ごとに同じ畑の3か所で、連続する40株から採取し、40株分をまとめて1つの分析試料としました。2023年には化学分析に回す前に、1株あたりの新鮮な芽の重さと長さ、水分含量も測定しています。
成分の測定には2つの方法が使われました。ひとつはフォリン・チオカルトー法で、これは試料に含まれるポリフェノール全体の量をまとめて捉える手法です。結果はクロロゲン酸という物質の量に換算して(クロロゲン酸当量、CAE)、乾物1gあたりの重さで表されています。もうひとつは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、こちらは混ざり合った成分を分離して、カテキンやキサントフモールといった個々の物質の量を別々に数えることができます。得られたデータは、品種と年を要因とする分散分析で統計的に検討されました。
報告された主な結果
まず、誘引時に捨てられる緑の芽の量は品種によって有意に異なりました。スティリアン・ウルフが最も多く1株あたり67g(新鮮重)で、栽植密度から換算すると1ヘクタールあたり188kgに相当します。最も少なかったアウロラは1株23g、1ヘクタールあたり76kgでした。ただし同じ品種内でもばらつきは非常に大きく、変動係数は61〜69%、たとえばスティリアン・ウルフでは1株5gから211gまで幅がありました。著者らはこれを、株の勢い、芽の太さ、株上での位置、出てくる芽の数、土壌条件、除去時の生育段階の違いを反映したものだと述べています。芽の長さについては、ツェレイアが最も長く(54.5cm)、アウロラが最も短い(23.0cm)という結果でした。
緑の芽の総ポリフェノール量は乾物1gあたり2.22〜3.47mg CAEの範囲で、スティリアン・ウルフが最も高く、アウロラとツェレイア(2.22〜2.42mg CAE/g)とは有意な差がありました。一方、2021年と2023年の年次間では統計的な有意差は認められませんでした(2.95対2.45mg CAE/g)。著者らは、2〜4月の気温は両年でほぼ同じだったのに対し降水量は2021年が251mm、2023年が177mmと大きく違っていた点に触れつつ、調査した生育期が2季だけであるため、この関係は記述的なものにとどまり因果関係として扱うことはできないと明記しています。
成分プロファイルでは、白い芽と緑の芽の間に明確で統計的に有意な違いが見られました。白い芽にはカテキン、エピカテキン、ナリンギンが多く含まれ、緑の芽にはケルセチン、フェルラ酸、そしてホップに特有のプレニルフラボノイドであるキサントフモールが多く含まれていました。2021年の測定では、定量された成分のうちエピカテキンが白い芽・緑の芽ともに最も多く、とくに白い芽で高く、アウロラの白い芽では乾物1gあたり21.33μgに達しました。キサントフモールは緑の芽でのみ検出され(乾物1gあたり1.13〜1.73μg)、白い芽からは検出されませんでした。著者らはこれを、光合成を行う組織で生合成されることと整合する結果だとしています。
年ごとの変動は成分によって方向が異なりました。緑の芽全体のプロファイルの傾向は2021年と2023年で概ね保たれていた一方、エピカテキンとフェルラ酸は2023年に低く(エピカテキンは平均で約65%の差、フェルラ酸は平均で約83%低い値)、ナリンギンと4-ヒドロキシ安息香酸は2023年に高いという、成分ごとに固有の変化が報告されています。それでも品種の特徴が年を越えて維持された例もあり、スティリアン・ウルフは両年でフェルラ酸濃度が最も高い品種でした。著者らは、緑の芽のポリフェノール組成には品種(遺伝的要因)と生育期の両方が関わっていると述べています。
この研究が示すこと
論文が強調しているのは、ホップの芽に含まれる個々のポリフェノールの濃度は、日常的に食べられているポリフェノールの豊富な食品に比べると低いという点です。著者らは、エピカテキンはリンゴやベリー類、カカオ、茶などに比べて桁違いに低く、直接食べることによってこの成分の栄養的に意味のある供給源とみなすことはできない、ナリンギンについても白い芽はごくわずかな供給源にすぎない、と率直に記しています。緑茶葉との比較も、抽出方法や検量に用いる標準物質が異なるため直接の数量比較として解釈すべきではないと注意を添えたうえで示されています。
その一方で著者らが指摘するのは、この材料が置かれている立場の違いです。緑茶葉は収穫を目的とした高付加価値の作物ですが、ホップの芽は生産工程で必ず発生し、通常は廃棄されるか使われずに残る副産物です。毎年決まって大量に生じるという性質そのものが、特定の成分——とりわけホップ特有のキサントフモール——を選択的に取り出す原料として魅力的になりうる、というのが著者らの見立てです。濃度が低くても、除去される芽の量が多いことが、目的を絞った抽出の可能性につながるという考え方です。
この研究は、栽培ホップの白い芽について個々のポリフェノール成分を、また栽培品種の緑の芽について成分プロファイルを明らかにし、あわせて誘引時に除かれる芽の量を数値として示したものです。白い芽と緑の芽では含まれる成分の顔ぶれが違い、どちらを使うかは何を取り出したいかによって変わってくること、そして品種選択が得られる量と成分の両方に関わってくることが、データとして示されました。畑で当たり前に捨てられてきたものを測ってみることが、資源の循環的な利用を考える出発点になる——著者らはこの研究を、そうした循環型経済の実践に寄与するものとして位置づけています。
著者:Barbara Ceh(Slovenian Institute of Hop Research and Brewing, 3310 Žalec, Slovenia)、Ana Karničnik Klančnik(Slovenian Institute of Hop Research and Brewing, 3310 Žalec, Slovenia)、Nataša Poklar Ulrih(Biotechnical Faculty, University of Ljubljana, 1000 Ljubljana, Slovenia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Barbara Ceh, Ana Karničnik Klančnik, Nataša Poklar Ulrih. Polyphenols in White and Green Shoots of Cultivated Hop (Humulus lupulus L.). Agronomy 2026-09-02. DOI: 10.3390/agronomy16171685. 原著ライセンス:CC BY.