掲載誌:Legume Research - An International Journal
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
韓国では、種皮が黒く中身(子葉)が緑色の黒大豆「ソリテ(Seoritae)」を、米と一緒に炊いて食べる習慣があります。豆の味わいには、甘みのもとになる糖、うま味などに関わる遊離アミノ酸(たんぱく質に組み込まれず単独で存在するアミノ酸)、そして香りのもとになる揮発性成分が関わっています。
米と一緒に炊く際には、水に浸してから高温で加熱するため、豆の成分は大きく変化すると考えられます。しかし、ご飯と炊いた黒大豆でこうした成分がどう変わるかは、これまでほとんど調べられていませんでした。そこで研究チームは、12品種の黒大豆について、炊く前と炊いた後で糖、遊離アミノ酸、揮発性成分を比較しました。
何をどのように調べたか
研究チームは、韓国の国立研究機関から入手し栽培した12品種の黒大豆を使いました。各品種約24グラムを洗って2時間水に浸し、洗った白米160グラムと合わせて、家庭用の自動炊飯器で約100℃、35分間炊きました。
炊き上がった豆は米の影響をできるだけ避けるために丁寧に取り分け、生の豆と比べました。糖は液体クロマトグラフィーという分離装置で、遊離アミノ酸14種類と香り成分はガスクロマトグラフィー質量分析という手法で測定しています。糖とアミノ酸は水分を除いた重さ当たりで比べました。香り成分については、炊いたご飯だけも別に分析し、米に由来する成分を除外しています。また香り成分の量は、同じ成分を生と加熱後で比べるための相対的な値として扱われています。
主な結果
糖では、果糖、ショ糖、ラフィノース、スタキオースの4種類がどの試料からも検出されました。生の豆ではショ糖が最も多く、総糖量の平均55%を占めました。炊いた後は全品種で総糖量が減り、平均21%の減少でした。ショ糖は平均17%、スタキオースは平均24%、ラフィノースは平均9%減りましたが、品種によってはショ糖やラフィノースに目立った減少が見られないものもありました。最も大きく減ったのは果糖で、平均59%減少し、1品種では炊いた後に検出されなくなりました。論文は、浸水中の分解や高温による分解が減少の要因と考えられるとしています。
遊離アミノ酸の総量は、反対に全品種で増え、平均で約42%の増加でした。どのアミノ酸もおおむね同じ割合で増えており、特定のものだけが増えたわけではありませんでした。炊く前も後も、ロイシンが最も多く、アスパラギン酸、リシンが続くという構成はほぼ変わりませんでした。総量の多い上位3品種の顔ぶれも、炊く前後で同じでした。著者らは、加熱によってたんぱく質の分解を妨げる成分が働かなくなり、たんぱく質から遊離アミノ酸が放出されやすくなることが主な理由と考えています。
香り成分は全体で51種類が確認されました。炊いた豆では、確認された成分の合計量が生の豆のおよそ半分となり、特にエーテル類、塩基類、エステル類、アルコール類が減りました。一方、甘くキャラメルのような香りを持つとされるマルトールを含むピラン類は増加しました。マルトールと安息香酸は、この実験条件では炊いた後にだけ検出されました。消えてしまう成分、減る成分、増える成分がある一方で、品種によって増えたり消えたりと変化の向きが一定しない成分もありました。
さらに、多数の成分をまとめて比較する統計手法(PLS-DA)で分析すると、香り成分の構成から、品種にかかわらず炊いた豆と生の豆をはっきり区別できました。区別の目印として特に寄与が大きかったのは、フタル酸ジブチル、安息香酸、ノナン酸などでした。
この研究が示すこと
この研究は、米と一緒に炊くという身近な調理によって、黒大豆の糖は減り、遊離アミノ酸は増え、香り成分の構成は大きく入れ替わることを、複数の品種で示しました。著者らは、こうした変化が豆の栄養成分と風味の両方に関わっていると述べています。
ただし、今回は成分の変化を測ったもので、実際に人が感じる味や好みとの関係は調べていません。また、糖とアミノ酸については炊いたご飯だけの分析を行っていないため、米から移った成分がわずかに影響した可能性は否定できないと著者ら自身が記しています。ご飯と炊いた黒大豆の味わいを化学成分の面から理解するための、基礎的な手がかりとなる報告です。
著者:Kanphassorn Wimonmuang、Seo-Young Kim、Yong-Ho Kim、Namgeol Kim、Young-Sang Lee
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kanphassorn Wimonmuang, Seo-Young Kim, Yong-Ho Kim, et al. Changes in the Sugar, Amino Acid and Volatile Profiles of Black Soybean (Glycine max L.) on Cooking with Rice. Legume Research - An International Journal 2026-09-16. DOI: 10.18805/lrf-963. 原著ライセンス:CC BY.