この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Animal Bioscience
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ヤギ肉はたんぱく質が豊富で脂肪の少ない肉として注目されていますが、肉質が比較的かたいことが消費の妨げになりやすいと指摘されています。研究チームは、この食感の課題を加工の工夫で和らげられないかを調べました。
着目したのは「湿式熟成」と「マリネ(漬け込み処理)」の組み合わせです。湿式熟成とは、肉を真空包装して低温で一定期間置く熟成方法のことで、包装せずに空気にさらす乾式熟成に比べて水分の減少や切り落としの無駄が少なく、時間や設備の負担も小さいため、食肉業界で広く使われていると論文は説明しています。一方マリネには、肉を漬け汁に浸す「浸漬(soaking)」と、注入器で漬け汁を直接肉に打ち込む「注入(injection)」という二つのやり方があります。論文によれば、湿式熟成したヤギ肉にマリネ方法の違いがどう影響するかを調べた研究はほとんどありませんでした。そこで著者らは、韓国在来黒ヤギ(Capra hircus coreanae)の肉を対象に、パイナップル粉末液を用いた二つのマリネ方法が熟成中の品質にどう関わるかを評価しました。
何をどう調べたか
研究チームは、同じ飼育条件で育てられた生後16か月・去勢雄の韓国在来黒ヤギ36頭からロース部分の筋肉を採取しました。目に見える結合組織と外側の脂肪を取り除き、およそ200gに切り分けたうえで、無処理の対照群、浸漬群、注入群の三つに分けています。
マリネ液は、市販のパイナップル粉末を蒸留水に1対7の割合で溶かして調製しました。パイナップルにはたんぱく質を分解する酵素と有機酸が含まれており、これが筋肉の構造に働きかけると考えられています。浸漬群は肉1kgあたり300mLの液に3時間浸し、途中で上下を返してむらを減らしました。注入群は同じ量の液を多針式の注入器で肉の内部に打ち込みました。その後すべての試料を真空包装し、4℃で21日間熟成させ、1日目・7日目・14日目・21日目に分析を行っています。
調べた項目は幅広く、水分含量やpH、水分をつなぎとめる力(保水性)、加熱したときに失われる水分の割合(加熱損失)、肉の色、細菌数、脂質の酸化の程度、かたさなどの食感、筋肉のたんぱく質がどれだけ細かく分解されたかを示す指標(筋原線維断片化指数=MFI)、そして脂肪酸の組成です。
報告された主な結果
著者らの報告によると、パイナップル粉末液でマリネした肉は、湿式熟成中にpHが下がりました。これは、熟成でpHが上がるとされる牛肉の報告とは異なる傾向で、パイナップル液の酸性によるものではないかと論文は考察しています。
やわらかさの面では改善がみられました。たんぱく質の分解を示すMFIは対照群より浸漬群・注入群で高く、食感測定でのかたさは熟成が進むにつれて低下しました。とくに1日目から7日目にかけて急に下がり、その後の変化はゆるやかだったと報告されています。かみ応えの指標であるチューイネスやガム性も下がりました。二つのマリネ方法を比べると、注入のほうが浸漬よりやわらかくする効果が大きく、これは液が筋肉内によりむらなく行き渡ったためではないかと著者らは述べています。
一方で、良いことばかりではありませんでした。マリネした肉は保水性が下がり、加熱損失が増えています。著者らはこれを、やわらかさと水分の保持力との間の「トレードオフ(あちらを立てればこちらが立たない関係)」として説明しています。
細菌数については、一般生菌数も大腸菌群数も21日間を通じて比較的低く保たれ、熟成後期にはマリネした区のほうが対照群より少なくなりました。ただし著者らは、これらの数値だけで微生物学的な安全性を判断しきれるわけではないと断っています。脂質の酸化を示すTBARS値も、マリネした区のほうが対照群より低い値が報告されました。
脂肪酸の組成には、マリネ方法による違いが現れました。浸漬群では多価不飽和脂肪酸(PUFA)の割合が高く、飽和脂肪酸であるミリスチン酸やパルミチン酸は熟成14日目までの期間で最も低い水準でした。また、脂肪酸の構成から計算される栄養指標のうち、動脈硬化指数(AI)と血栓形成指数(TI)が浸漬群で低い値を示しています。これらはあくまで脂肪酸組成から算出される計算上の指標です。なお著者らは、脂肪酸を総量に対する相対的な割合として表しているため、パイナップル粉末液処理による水分含量の変化が結果に一部影響した可能性があると注意を促しています。
この研究が示すこと
この研究は、パイナップル粉末液を使ったマリネを湿式熟成と組み合わせたときに、二つのやり方がそれぞれ異なる方向の変化をもたらすことを示しました。著者らの結論では、注入によるマリネは湿式熟成したヤギ肉のやわらかさを高める可能性があり、浸漬は熟成中により好ましい脂肪酸の構成をもたらしました。
同時にこの研究は、食感の改善が水分の保持という別の性質の低下を伴うことも明らかにしています。ヤギ肉の扱い方を考えるうえで、どの性質を重視するかによって適した方法が変わりうる――そうした選択の手がかりを、この報告は具体的な測定値とともに提示しています。
著者:Shine Htet Aung(Department of Animal Science and Technology, Sunchon National University, , Suncheon, Korea)、Rupasinghe Ramesh Nimantha(Department of Animal Science and Technology, Sunchon National University, , Suncheon, Korea)、Phyo Htet Htet Kyaw(Department of Animal Science and Technology, Sunchon National University, , Suncheon, Korea)、Oni Faith Oluwaseyi(Department of Animal Science and Technology, Sunchon National University, , Suncheon, Korea)、Madiththe Gedara Asela Sandaruwan Abeyrathna(Department of Animal Science and Technology, Sunchon National University, , Suncheon, Korea)、Young-Sun Choi(Jeollanmdo Agricultural Research and Extension Services, Gangjin 59213, Korea, Gangjin , Korea)、Ki‐Chang Nam(Department of Animal Science and Technology, Sunchon National University, , Suncheon, Korea. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shine Htet Aung, Rupasinghe Ramesh Nimantha, Phyo Htet Htet Kyaw, et al. Effect of wet ageing with different marination methods on quality characteristics of Korean native black goat meat. Animal Bioscience 2026-09-01. DOI: 10.5713/ab.260362. 原著ライセンス:CC BY.