日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:International Agrophysics

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

果樹の栽培管理は、これまで生産者の経験や勘に頼ってきた面が大きい一方、労働力不足や気候の変動が進むなかで、より客観的で数値にもとづいた指標が求められています。とくに温州みかんのような常緑果樹では、葉と果実の状態が何年にもわたって連動しながら変化していくため、状況の把握が難しくなります。従来のように果実を切って成分を測る方法は手間と時間がかかり、園地でその場に判断を下す用途には向きません。

そこで研究チームは、試料に前処理を施さず、こわさずに測れる測定法を果樹園で使える形に整えることを目指しました。対象に選んだのは極早生の温州みかん(Citrus unshiu Marc.)です。5月に果実が着き、10月に収穫を迎えるという生育期間の短さから、生育初期の葉の状態と収穫期の果実の成分との結びつきを、ひとつの栽培シーズンのなかで追いやすいという利点があります。

何をどう調べたか

調査は三重県熊野市の実験園で、2018年から2019年までの2シーズンにわたって行われました。3本の木をそれぞれ主枝ごとに3区画へ分け、計9区画から月に一度、葉と果実を採取しています。2019年には、その年に伸びた新しい葉に加えて前年の古い葉も同じ区画から集め、両者を比べられるようにしました。

測定には3つの手法が組み合わされました。ひとつは中赤外分光(MIR)で、果汁に含まれるブドウ糖・ショ糖・果糖といった糖類と、クエン酸・リンゴ酸といった有機酸を、分子ごとの光の吸収の違いから同時に見分ける方法です。もうひとつは蛍光X線分析(XRF)で、葉や果皮に含まれるカリウム(K)、カルシウム(Ca)、リン(P)といった元素の量を測ります。さらに、果実の断面をデジタルカメラで撮影し、色を色相(H)や彩度(S)といった数値に変換して解析しました。あわせて、糖度の目安となるBrix値や、滴定によって求める酸の量も参照データとして測定されています。

報告された主な結果

2年間を通じて、果汁の成分には一貫した季節変化が見られたと報告されています。総糖濃度は生育初期の約2.8重量%から収穫期には約9.7重量%へと着実に増え、逆に総酸濃度は約3.4重量%から約1.4重量%へと下がっていきました。果肉の色は6月ごろの淡い緑や黄色から10月の濃いオレンジへと移り変わり、色相の値は約29.3から約14.0へと段階的に低下し、彩度は上昇しました。著者らは、この色相の変化を成熟の安定した指標と位置づけています。

この色の情報から果汁の成分を推定する重回帰モデルを組み、区画ごとに検証用データを入れ替える交差検証で確かめたところ、決定係数(R²、1に近いほど推定値が実測値とよく一致することを示す指標)は2018年で0.71〜0.89、2019年で0.75〜0.96の範囲に収まりました。ただし年をまたいだ予測では、酸に関わる項目は比較的よく当てはまった一方、糖に関わる項目は当てはまりが大きく落ち、係数がその年に固有のものであることが示されたと述べられています。

元素の分析では、新しい葉と古い葉ではっきりした違いが確認されました。新しい葉のCa含量は5月の約0.9重量%から10月には約2.3重量%へ増え続け、古い葉は約3.0〜3.5重量%と高いまま推移しました。K含量は逆に、新しい葉で約1.0重量%から約0.65重量%へ減っていき、古い葉では約0.35〜0.45重量%と低いまま安定していました。さらに著者らは、5月の着果期における葉のK/Ca比と、10月の収穫時における果実1個あたりの総糖量とのあいだに正の直線関係を報告しています(R²=0.88、交差検証によるQ²=0.71、観測数は延べ6本・年分)。KとCaを別々に扱った場合には同様の関係は見られず、両者を比として組み合わせたときにはじめて現れたとされています。

この研究が示すこと

著者らは、この結果を植物の物質輸送のしくみから説明しています。カリウムは師管(糖などを運ぶ通路)を通って移動しやすいのに対し、カルシウムは主に蒸散に伴う道管の流れで葉へ運ばれ、細胞壁に固定されて動きにくい性質があります。そのため葉のK/Ca比は、その時点での糖の輸送能力を、それまでに積み上がったカルシウムの蓄積で割った値として読むことができる、という解釈です。これは師管輸送に関する古くからの考え方と整合するものだと位置づけられています。

一方で著者らは、この知見が一つの試験園、一つの品種、2年間の観測にもとづくものであり、得られた回帰式の数値をそのまま他の品種や地域へ当てはめるには、複数の産地・品種での独立した検証が要ると明記しています。研究の主たる意義は、完成した予測モデルを示したことではなく、葉のK/Ca比が収穫期の果実の成分について生理学的に説明のつく情報を持つ指標の候補になりうると、実測によって示した点にあるとされています。果肉の色と葉の養分の比という、いずれも測りやすい手がかりから果実の内部の状態を読み取れる可能性を、この研究は具体的なデータとともに描き出しています。

著者:Takaharu Kameoka(General Affairs Department , ALFAE , General Incorporated Association , 7-15-8-406 Ginza , Chuo-ku , 104-0061 , Tokyo , Japan)、Shinichi Kameoka(General Affairs Department , ALFAE , General Incorporated Association , 7-15-8-406 Ginza , Chuo-ku , 104-0061 , Tokyo , Japan)、Ryoei Ito(Graduate School of Bioresources , Mie University , 1577 Kurimamachiya-cho , 514-8507 , Tsu , Japan)、Atsushi Hashimoto(Graduate School of Bioresources , Mie University , 1577 Kurimamachiya-cho , 514-8507 , Tsu , Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Takaharu Kameoka, Shinichi Kameoka, Ryoei Ito, et al. Multispectral and image measurement for monitoring citrus growth. International Agrophysics 2026-09-03. DOI: 10.31545/intagr/225059. 原著ライセンス:CC BY.