この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Carbohydrate Polymer Technologies and Applications

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

小麦を育てるときに与える窒素肥料は、穀粒の成分に影響することが知られています。しかし、春まき硬質赤小麦(Hard Red Spring wheat、HRS小麦)で、窒素が「非でんぷん性多糖類」の構造や働きにどう関わるかは、まだよく分かっていませんでした。非でんぷん性多糖類とは、でんぷん以外の多糖類のことで、細胞壁を形づくる成分や食物繊維の主な構成要素です。

研究チームは、窒素の量や与える時期によって、これらの多糖類の組成と、でんぷんの消化されやすさがどう変わるかを明らかにすることを目指しました。

何を調べたか

研究は複数の地点と複数の栽培期にわたって行われました。3品種の小麦を、1ヘクタールあたり0、56、112、168キログラムの4段階の窒素量で栽培し、その中には開花期(小麦の花が咲く時期)より後に窒素を与える方法も含まれていました。

穀粒について、水に溶ける食物繊維と溶けない食物繊維の割合、糖類や多糖類の内訳を調べました。また、赤外線の吸収から分子の結合の特徴を読み取るFTIR分析で細胞壁の構造変化を調べ、さらに、でんぷんが分解される度合いを示す加水分解指数と、推定グリセミック指数(食後の血糖の上がりやすさの目安)を求めました。

主な結果

論文によると、窒素を増やすと食物繊維の内訳が変わりました。水溶性食物繊維は3.10%から4.85%に増え、不溶性食物繊維は11.68%から9.98%に減りましたが、食物繊維の総量は安定していました。

開花後に窒素を与えると、多糖類の一種であるアラビノキシランの含量が4.1%から5.38%に増え、それを構成する2種類の糖(アラビノースとキシロース)の比率も0.59から0.78に高まりました。発酵性のオリゴ糖も増えた一方、単糖類や二糖類といった小さな糖は減ったと報告されています。また、β-グルカンは0.37%から0.47%に、消化されにくいでんぷんである難消化性でんぷんは2.58%から3.17%に増えました。

FTIR分析では、窒素が多い条件でエステル化が進み、エステル結合を持つ多糖成分が増えるなど、細胞壁の構造が組み替わっている様子が示されました。

研究チームは、こうした組成と構造の変化によってでんぷんの消化されやすさが低下したと報告しています。加水分解指数は86.70から77.81に、推定グリセミック指数は87.07から79.18に下がり、推定グリセミック指数は難消化性でんぷんの量と負の相関(r=-0.59)を示しました。これは難消化性でんぷんが多いほど推定値が低い傾向があったことを意味します。

研究が示すこと

著者らは、窒素を増やすことで、穀粒の炭水化物が水に溶ける糖から、構造をつくる多糖類や難消化性でんぷんへと比重を移し、でんぷんが消化酵素に分解されにくくなったとまとめています。

そのうえで著者らは、窒素の与え方を適切に管理することで、HRS小麦の炭水化物の性質と栄養的な品質を高められると結論づけています。肥料の量や時期という栽培条件が、穀粒の食物繊維や消化性に関わる成分にまで関係しうることを報告した研究です。

著者:Md Najmol Hoque(Department of Plant Sciences, North Dakota State University, Fargo, ND, 58108-6050, USA; Department of Biochemistry and Molecular Biology, Khulna Agricultural University, Khulna, 9100, Bangladesh)、Clair Keene(Department of Plant Sciences, North Dakota State University, Fargo, ND, 58108-6050, USA)、Shahidul Islam(Department of Plant Sciences, North Dakota State University, Fargo, ND, 58108-6050, USA; Corresponding author.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Md Najmol Hoque, Clair Keene, Shahidul Islam. Pre- and post-anthesis nitrogen modulates non-starch polysaccharides structural characterizations and starch digestibility in hard red spring wheat. Carbohydrate Polymer Technologies and Applications 2026-09-14. DOI: 10.1016/j.carpta.2026.101241. 原著ライセンス:CC BY.