同じチャノキ(Camellia sinensis L.)から作られるお茶でも、産地によって味わいや香りが異なることは、お茶を飲む人であれば経験的に感じたことがあるかもしれません。こうした「産地ごとの個性」がどのような化学物質の違いによって生まれているのかを、大規模な成分分析と機械学習を組み合わせて調べた研究が、エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フードに2026年9月に掲載予定です。
研究チームは、中国の四大茶区(江北・江南・華南・西南)にまたがる8つの代表的な産地から採取した生の茶葉を対象にしました。まず基本的な成分組成を調べたうえで、UPLC-Q-TOF-MS(超高速液体クロマトグラフィー・四重極飛行時間型質量分析)とHS-SPME-GC-MS(ヘッドスペース固相マイクロ抽出・ガスクロマトグラフィー質量分析)という2種類の分析手法を用いて、香りや味に関わる化学物質を網羅的に検出しています。
産地ごとに異なる化学成分のプロファイル
分析の結果、16種類の化学指標、171種類の代謝物、275種類の揮発性有機化合物(香り成分に相当)が同定されました。さらに統計的な基準を用いて絞り込むと、産地による差が特に大きい成分として、6つの化学指標、8つのグループにまたがる24種類の代謝物、そして10のグループにまたがる24種類の揮発性有機化合物が特定されました。これらの結果は、中国の主要な茶産地の間で茶葉の分子レベルの特徴に違いがあることを示しており、産地の環境要因が茶の風味の土台を形作るうえで重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。また、KEGG(遺伝子や代謝経路のデータベース)を用いた経路解析により、これらの成分の違いに関わる4つの主要な代謝経路が明らかにされました。
機械学習で見つかった3つの指標成分
研究チームは、5種類の機械学習モデルと「drop-column importance(DCI)」という手法を組み合わせて、産地を判別するうえで特に重要な役割を果たす成分を絞り込みました。その結果、ゲラニオール、11-メトキシノルヤンゴニン、没食子酸メチルの3つが、産地を特徴づける風味マーカーの候補として挙げられています。これらは、茶の香りや味の形成に関わる分子的な基盤を理解し、将来的な産地判別や品質管理に応用できる可能性がある指標として位置づけられています。
この研究の位置づけ
この研究は、中国国内の特定の茶産地から採取した茶葉サンプルを用いた分析に基づくものであり、得られた知見がすべての茶や他地域の茶葉にそのまま当てはまるかどうかは、この論文だけからは判断できません。また、今回同定された成分や機械学習モデルによる判別の精度についても、一つの研究成果として示されたものであり、今後さらなる検証が必要と考えられます。研究テーマや対象地域に、日本の研究機関や日本の食品・生産に関する言及は含まれていません。
まとめ
この研究は、産地の異なる中国茶の茶葉を対象に、成分分析と機械学習を組み合わせることで、風味の違いを生み出す分子レベルの手がかりを探ったものです。ゲラニオールなど3つの成分が産地判別に役立つ可能性が示された一方、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今後、こうした知見が茶の産地表示や品質管理の技術にどうつながっていくのか、続報が注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Chenyang Ma, Fang Dong, Zhitong Zhu, et al. Flavor quality evaluation and discrimination of regional tea (Camellia sinensis L.) based on metabolomics, volatileomics, and machine learning. エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01139-1. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.