この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜハチミツの種類を見分ける必要があるのか

ハチミツには、クリやラベンダーなど特定の植物の蜜を主とする「単花蜜(モノフローラル)」と、複数の植物の蜜が混ざった「百花蜜(マルチフローラル)」があります。どちらに分類されるかは品質評価や表示、流通の透明性にかかわるため、信頼できる判別方法が求められてきました。

従来広く使われてきたのは、ハチミツに含まれる花粉粒を顕微鏡で調べて蜜源植物を推定する「蜜源花粉分析」です。著者らは、この方法には相当な専門知識が必要で、ろ過されたハチミツや花外蜜(甘露蜜など)に由来するハチミツでは花粉が少なく判別の信頼性が下がる、という限界があることを指摘しています。そこで本研究では、実験室で測れる物理化学的な数値だけで、百花蜜とそれ以外(単花蜜)を区別できるかを検証しました。

292点の試料と、どう調べたか

研究チームは、百花蜜に加えてクリ、ラベンダー、綿、マツ、柑橘、シロクローバー、ヒマワリ、スピノサスモモのハチミツを含む計292点を分析しました。内訳は百花蜜146点、単花蜜146点で、どちらにも偏らない均衡の取れた二択の分類問題として扱っています。

測定項目は、色、水分、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF、加熱や保存で増える指標成分)、ジアスターゼ活性やインベルターゼ活性(ハチミツ中の酵素の働き)、プロリン、酸度、電気伝導度、糖組成、そして炭素の安定同位体比(δ¹³C)など多岐にわたります。δ¹³Cやその差分であるΔδ¹³Cは、トウモロコシやサトウキビなど「C4植物」由来の糖の混入を調べるために使われる標準的な指標です。

次にMRMR(最小冗長性・最大関連性)という手法で、判別に役立つ情報が多く、かつ互いに似通っていない変数を絞り込みました。この選択は、学習データと試験データを混ぜないよう5分割交差検証の各分割の内部で独立に行われています。その結果、電気伝導度は5分割すべてで選ばれ、δ¹³Cタンパク質画分も5分割すべて、Δδ¹³Cは4分割で選ばれました。果糖と葡萄糖の合計(F+G)または葡萄糖も、いずれかの形で全分割に登場しました。著者らはこれらを、分類の中核となる物理化学的な骨格だと述べています。一方で、色や遊離酸度、プロリンはハチミツの種類間で統計的に有意な差を示したものの、百花蜜と単花蜜の二分という目的では一貫して選ばれませんでした。

分類には、サポートベクターマシン、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、ガウス過程回帰といった手法に加え、多層パーセプトロン、1次元畳み込みニューラルネットワーク、TabTransformer、敵対的生成ネットワークといった深層学習モデルも用いられました。さらに著者らは、性質の異なる複数の分類器の「投票の重み」を遺伝的アルゴリズム(生物の進化を模して良い組み合わせを探す最適化手法)で調整する枠組み、HEO-GAを提案しています。

報告された主な結果

5分割の平均で見ると、提案手法HEO-GAは正解率0.8526、F1スコア0.8495、感度0.8485、特異度0.8561でした。ランダムフォレストは正解率0.8594、感度0.8414、特異度0.8768で、ガウス過程回帰が正解率0.8151とこれに続きました。著者らは、HEO-GAが感度と特異度のバランスのとれた分類性能を示したと報告しています。

HEO-GAとランダムフォレストの関係については、分割ごとに優劣が入れ替わり(分割1と3ではHEO-GA、分割2と4ではランダムフォレストが上回り、分割5では同じ正解率)、ネメニの事後検定では正解率に統計的に有意な差は認められなかった(p=1.0000)と述べられています。このため著者らは、HEO-GAをランダムフォレストより明確に優れたものではなく、同等の予測能力をもつバランスのよい代替的な枠組みと位置づけています。

対照的に、深層学習系のモデルは成績が振るいませんでした。1次元CNNの平均正解率は0.5172、TabTransformerは0.6337、GANは0.7015にとどまっています。著者らはこれを、表形式のデータで試料数が限られる場合には木ベースの手法や最適化された枠組みが複雑な深層ネットワークを上回る、という既知の知見と整合する結果だとしています。

なお著者らは、電気伝導度だけでは植物由来を決められないと注意を促しています。百花蜜の群内で電気伝導度のばらつきが大きかったことについては、多様な地域から集められた試料ごとの植物構成の違いを反映したものであり、品質基準への不適合を意味するものではないとの解釈を示しています。同様に、ショ糖がわずかに基準値を超えた少数の試料についても、それだけでは偽和の証拠とはみなさず、安定炭素同位体の指標や所定の公定法の基準とあわせて判断したと説明しています。

この研究が示すもの

この論文が示したのは、花粉の専門的な観察や官能評価に頼らず、電気伝導度・主要な糖・炭素同位体比といった実験室で測れる数値の組み合わせだけでも、百花蜜と単花蜜をある程度の精度で振り分けられるという報告です。選ばれた特徴量の寄与はSHAP値を用いて解釈されています。

著者らは、この枠組みを品質管理のための「補完的な道具」、つまりスクリーニング(ふるい分け)に使える可能性のある手法として位置づけています。分析化学の測定とデータ駆動型の手法を組み合わせることで、ハチミツの分類にどこまで客観的な根拠を与えられるのか——その一つの到達点を示した研究だと言えます。

著者:Hüseyin Şahin(Department of Basic Science, Faculty of Engineering, Giresun University, Giresun, 28200, Türkiye)、Aslı Elif Tanuğur Samanci(SBS Bilimsel Bio Çözümler Inc., Bee&You Propolis R&D Centre, İstanbul, 34775, Türkiye)、Esra BİRİNCİ(SBS Bilimsel Bio Çözümler Inc., Bee&You Propolis R&D Centre, İstanbul, 34775, Türkiye)、Elif Yorulmaz Önder(SBS Bilimsel Bio Çözümler Inc., Bee&You Propolis R&D Centre, İstanbul, 34775, Türkiye)、Eren Baş(Department of Data Science and Analytics, Faculty of Arts and Science, Giresun University, Giresun, 28200, Türkiye)、Erol Eğrioğlu(Department of Data Science and Analytics, Faculty of Arts and Science, Giresun University, Giresun, 28200, Türkiye)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hüseyin Şahin, Aslı Elif Tanuğur Samanci, Esra BİRİNCİ, et al. Binary classification of multifloral honeys using hybrid ensemble optimization via genetic algorithm based on physicochemical parameters. Scientific Reports 2026-09-26. DOI: 10.1038/s41598-026-73278-0. 原著ライセンス:CC BY.