著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ魚の筋肉の品質とレスベラトロールなのか

世界の人口増加に伴い、養殖は良質な動物性たんぱく質の供給源として重要性を増しています。著者らは、魚の筋肉が家畜や家禽の肉と構造や成分の面で大きく異なる点に注目しています。魚の筋肉のたんぱく質は死後に分解・変性しやすいとされます。さらに、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のように酸化しやすい長鎖の多価不飽和脂肪酸を多く含みます。そのため、細胞を傷つける活性酸素が体の防御力を上回る「酸化ストレス」によって、栄養価や風味、身の保水性や食感が損なわれやすいといいます。高密度飼育や栄養バランスの偏り、環境ストレスといった養殖の条件も、魚の体内の酸化と抗酸化のバランスを乱す要因になります。

レスベラトロールは、ブドウの皮やピーナッツ、ベリー類に含まれるポリフェノールの一種です。活性酸素を消去する働きに加え、抗酸化や代謝に関わる体内の信号伝達に作用することが知られています。これまで養殖飼料では、成長や免疫、環境ストレスへの抵抗性を高める目的で検討されてきました。しかし、食用部分である筋肉の品質に焦点を当てて知見を整理した研究は限られていました。そこで著者らは、水揚げ前の飼料にレスベラトロールを加えた場合に、水揚げ時や死後まもない魚の筋肉の栄養、風味に関わる成分、物理化学的な性質がどう変わるかについて、既存の研究を評価しました。著者らは、データがまだ少なく魚種ごとに異なり、間接的な証拠も多いことから、この論文を効果を確定させる評価ではなく「現れつつある証拠」と「考えられる仕組み」を示す総説として位置づけています。

論文では、レスベラトロールの性質にも触れています。この物質は水に溶けにくく、光やアルカリ性の条件に弱いため、飼料の加工や与え方によって安定性が左右される可能性があります。また人の研究では、口から摂ったレスベラトロールは腸や肝臓で速やかに代謝され、変化しないまま全身に届く割合は1%未満と見積もられることが多いと紹介されています。

魚の飼育試験で報告された主な変化

著者らが整理した研究では、多くの場合、純度の高いレスベラトロールを配合飼料に混ぜ、稚魚や成長期の魚に4〜12週間ほど与えていました。

サザンフラウンダー(ヒラメの仲間)の稚魚に、飼料1キログラムあたり600ミリグラムを16週間与えた研究があります。この研究では、背側の白い筋肉で、たんぱく質の酸化の目印となる物質や、脂質が酸化してできる物質が有意に減少していました。著者らはこれを、筋肉で抗酸化反応が起きたことを直接示す証拠と評価しています。ただし、この研究では身の成分や食感、味は調べられていません。シベリアチョウザメの研究では、飼料1キログラムあたり0.16ミリグラムを45日間与えました。体重の増え方に有意な差はありませんでしたが、筋線維の直径が大きくなりました。また、筋肉中のアミノ酸であるセリンが約11.9%、ヒスチジンが約17.0%増え、脂質酸化の指標であるマロンジアルデヒド(MDA)は減少しました。

ソウギョ(グラスカープ)の成魚に、0〜320ミリグラム/kgの5段階の飼料を9週間与えた研究では、より多くの項目が測定されています。筋肉の粗たんぱく質は、レスベラトロールを与えなかった群の18.02%から、80ミリグラム/kgの群で19.35%に増えました。MDAは320ミリグラム/kgの群で1グラムあたり3.31ナノモルから1.53ナノモルに下がりました。加熱したときに失われる水分の割合(加熱損失)は、22.84%から160ミリグラム/kgの群で17.12%に減りました。著者らはこの結果を、適切な量であれば保水性が改善する可能性を示すものとしています。身の硬さの指標である剪断力は、320ミリグラム/kgの群で約14.6%高くなりました。さらに、直径20マイクロメートル未満の細い筋線維が増え、筋線維の数が増える方向の変化も報告されています。最適と推定される添加量は、何を指標にするかによって約178〜227ミリグラム/kgの範囲で異なりました。著者らは、この点から最適量は評価項目によって変わると指摘しています。

フナの一種である芙蓉鯽(フーロンフナ)に、150ミリグラム/kgまたは300ミリグラム/kgを56日間与えた研究では、成長や生存率に有意な影響はありませんでした。一方で、肝臓や全身の脂質量は減少しました。筋肉では、150ミリグラム/kgの群で噛みごたえの指標が約39%高まり、総抗酸化能はどちらの群でも60%以上高まりました。

まだ確かめられていないこと

著者らは、風味については重要な空白があると強調しています。ソウギョでは、うま味に関わるグルタミン酸の増加や脂肪酸の組成の変化が報告されています。しかし、これらは成分を機器で測った間接的な指標です。実際に人が食べて評価する官能評価や、消費者の受け入れを調べた研究はまだ行われていません。そのため、食べたときにおいしくなるかどうかは、現時点では推測の域を出ないとしています。うま味成分であるイノシン酸への影響を魚で調べた研究も、まだありません。

身の色についても、魚で直接調べた証拠はほとんどありません。豚や牛での報告は、魚に当てはまるかどうかを検証すべき仮説にとどまると位置づけられています。また、加工品の保存中にレスベラトロールを加えた研究では、腐敗の指標の上昇が遅れたという報告があります。ただし著者らは、これは生きた魚に飼料として与えた効果とは区別すべきだと述べています。

効果の仕組みとしては、抗酸化防御、筋線維の成長と再構築、脂質代謝などが挙げられています。しかし著者らは、これらを魚の筋肉で十分に検証された仕組みではなく、「考えられるつながり」として扱っています。脂質代謝に関するデータの多くは魚の肝臓や哺乳類、培養細胞から得られたものです。筋線維に関する直接の証拠も、主にソウギョの1件の研究に基づいています。

この総説が示すこと

この総説は、飼料に加えたレスベラトロールが一部の魚種で、筋肉の酸化を抑え、特定のアミノ酸や保水性、食感に関わる指標を変化させたという報告があることを整理しています。同時に、その証拠が魚種や添加量、評価項目によってばらつき、人が感じる味や品質の向上まではまだ確かめられていないことも示しています。期待される可能性と、まだ分かっていない点を区別して捉えることの大切さを伝える内容です。

原著論文の著者・所属:Xiao-Zheng Yu(Zhejiang International Joint Laboratory on Low-Carbon Pollution Control and Resource Utilization, College of Biological and Environmental Engineering, Zhejiang Shuren University, Hangzhou 310015, China)、Yang Yu(State Key Laboratory of Biocontrol, Guangdong Province Key Laboratory for Aquatic Economic Animals, Guangdong Provincial Engineering Technology Research Center for Healthy Breeding of Important Economic Fish, School of Life Sciences, Sun Yat-Sen University, Guangzhou 510275, China)、Jian-Wei Lin(Zhejiang International Joint Laboratory on Low-Carbon Pollution Control and Resource Utilization, College of Biological and Environmental Engineering, Zhejiang Shuren University, Hangzhou 310015, China)、Jian-Chang Jin(Zhejiang International Joint Laboratory on Low-Carbon Pollution Control and Resource Utilization, College of Biological and Environmental Engineering, Zhejiang Shuren University, Hangzhou 310015, China)、Zi-Yan Liu(State Key Laboratory of Biocontrol, Guangdong Province Key Laboratory for Aquatic Economic Animals, Guangdong Provincial Engineering Technology Research Center for Healthy Breeding of Important Economic Fish, School of Life Sciences, Sun Yat-Sen University, Guangzhou 510275, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiao-Zheng Yu, Yang Yu, Jian-Wei Lin, et al. Resveratrol as a Bioactive Compound for Edible Fish Muscle Quality: Emerging Evidence, Putative Mechanisms, and Future Perspectives. Foods 2026-08-11. DOI: 10.3390/foods15162804. 原著ライセンス:CC BY.