著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

エンドウ豆は食用として広く利用されていますが、その加工過程では「豆殻(まめがら)」と呼ばれる副産物が大量に発生します。豆殻は食物繊維を豊富に含んでおり、その健康面での可能性から食品への再利用が注目されていますが、実際に半固形・低粘度の食品に混ぜ込もうとすると、繊維の機能性の低さ、特に水に溶けにくいという性質がネックになることが知られています。今回紹介する研究では、この課題に対して、機械的な処理と酵素による処理を組み合わせることで、粘度が低く、物理的に安定していて、オリゴ糖を多く含む食物繊維懸濁液を作り出せるかどうかが調べられました。

研究でわかったこと

研究グループはまず、対象となるエンドウ豆殻の主成分を分析しました。その結果、豆殻は主にセルロースからなり、そのほかに(グルクロノ)キシラン、ペクチン性多糖(特に直鎖状のアラビナンや脱エステル化されたホモガラクツロナン)、キシログルカンといった多糖類で構成されていることが確認されました。

次に、この豆殻に対して2種類の処理が行われました。一つは「マイクロフルイダイゼーション」と呼ばれる機械的処理で、1,750バールという高圧のもとで3回または5回通過させる方法です。もう一つは、市販のアラビナナーゼとセルラーゼという酵素を用いて、50℃で30分間反応させる酵素処理です。これらを組み合わせて処理した豆殻について、化学構造や機能性に関わるさまざまな性質が調べられました。

その結果、機械的・酵素的処理を行った豆殻は、いずれも73〜75%という同程度の食物繊維含有量を示し、多糖の組成や構造も互いに似通っていることがわかりました。また両方の処理により粒子サイズが小さくなりましたが、その粒子径の分布のしかたには違いが見られ、懸濁液としての機能特性も改善したと報告されています。特に、懸濁液が物理的に安定した状態を保つには機械的処理の強度が重要であり、酵素は多糖類を部分的に分解する役割を果たしていたとされています。

研究チームが当初予想していたのとは異なり、こうした処理を行っても、水に溶けない細胞壁の多糖類が大きく可溶化する(溶けやすくなる)ことはなかったとされ、これは豆殻に結晶性セルロースの割合が高いことが一因である可能性が指摘されています。それでも、処理された豆殻は保水性(水を抱え込む能力)が向上しており、さらに、プレバイオティクスとして働く可能性のある二糖・オリゴ糖もわずかながら生成されたことが報告されています。全体として、この処理によって得られた高繊維素材は、粒子径がD90で94〜121マイクロメートルという小さなサイズにまで抑えられ、保水性や沈降特性(水中での沈みにくさ)が改善し、プレバイオティクスとなりうる糖の量もやや高くなったとされ、半固形・固形の食品への応用に適した素材である可能性が示されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、エンドウ豆殻という食品副産物を、機械的処理と酵素処理の組み合わせによってどのように機能性の高い食品素材へと変えられるかを検討した基礎的な研究です。懸濁液の物理的な性質や化学構造の変化について詳しく調べられていますが、これらの素材を実際に食品に配合した場合の風味や食感、あるいは摂取した際の健康への影響については、この要旨からはわかりません。また、プレバイオティクスとして働く可能性のある糖が生成されたとされていますが、その量は「限定的」と表現されており、実際の健康効果を裏付けるものではない点にも注意が必要です。一つの研究であり、今後さらなる検証が必要と考えられます。

まとめ

この研究では、食品副産物であるエンドウ豆殻に対して、高圧のマイクロフルイダイゼーションとアラビナナーゼ・セルラーゼによる酵素処理を組み合わせることで、粒子径が小さく、保水性や沈降安定性に優れた高食物繊維の懸濁液を作り出せることが示されました。溶けない多糖の可溶化は期待したほど進まなかったものの、プレバイオティクス候補となる糖もわずかに生成されており、食品副産物を有効活用する一つのアプローチとして、半固形・固形食品への応用可能性が示唆されています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):食品副産物であるエンドウ豆殻の機械的・酵素的処理懸濁液の製造と特性評価(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)

著者:Rebekka Elke Schmidt(Department of Food Chemistry and Phytochemistry, Institute of Applied Biosciences, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Karlsruhe, Germany)、Veronika Kurz(Department of Food Chemistry and Phytochemistry, Institute of Applied Biosciences, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Karlsruhe, Germany)、Verena Haitz(Department of Food Chemistry and Phytochemistry, Institute of Applied Biosciences, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Karlsruhe, Germany)、Rocío Morales-Medina(Department of Food Technology and Food Material Science, Institute of Food Technology and Food Chemistry, Technische Universität Berlin (TUB), Berlin, Germany)、Jan Steffan(Department of Food Chemistry and Phytochemistry, Institute of Applied Biosciences, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Karlsruhe, Germany)、Judith Keller(Department of Food Chemistry and Phytochemistry, Institute of Applied Biosciences, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Karlsruhe, Germany)、Stephan Drusch(Department of Food Technology and Food Material Science, Institute of Food Technology and Food Chemistry, Technische Universität Berlin (TUB), Berlin, Germany)、Mirko Bunzel(Department of Food Chemistry and Phytochemistry, Institute of Applied Biosciences, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Karlsruhe, Germany)