この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

菜種油は不飽和脂肪酸を多く含む食用油として広く使われていますが、搾ったばかりの粗油には、油の主成分であるトリアシルグリセロールのほかに、リン脂質、トコフェロール、植物ステロール、カロテノイドといった微量成分が含まれています。このうちリン脂質は、水と油の両方になじむ性質をもち、精製の工程では「ガム」と呼ばれる沈殿をつくって作業を難しくするため、通常は最初の工程である脱ガムで取り除かれます。

一方で、著者らは、リン脂質を単なる不純物として扱うのは一面的だと指摘しています。リン脂質は生体膜を構成する栄養学的にも重要な脂質であり、なかでもホスファチジルコリン(PC)はコリンを含む成分として関心がもたれてきました。そこで本研究は、脱ガムの方法の違いが、油そのものの品質だけでなく、取り出されたリン脂質画分の量や組成、さらに油に残る有用成分の量にどう影響するのかを、まとめて調べることを目的としています。

比較したのは、水を加える水脱ガム(WDG)、クエン酸を使う酸脱ガム(ADG)、含水エタノールを使うエタノール脱ガム(EDG)の三つです。加えて、実験室で広く使われる溶媒抽出法であるFolch法を、組成を比べるための基準として並べています。著者らは、Folch法はクロロホルムとメタノールを使うため食品用の工程とは言えず、あくまで比較の物差しとして含めたと述べています。

どのように調べ、何が分かったか

著者らは同じ一つのロットの粗菜種油を使い、三つの脱ガム処理とFolch法を実験室規模で行いました。そのうえで、処理後の油とリン脂質画分について、脂肪酸組成、リンの含有量、過酸化物価(PV、すでに生じている一次酸化生成物の量を示す指標)、酸化誘導時間(OIT、加速条件下でどれだけ酸化に耐えるかを示す指標)、色、カロテノイド・トコフェロール・植物ステロールの濃度、リン脂質の収率と純度、リン脂質のクラス組成などを測定しています。

粗油のリン含量は油1グラムあたり0.249ミリグラムでした。水脱ガムと酸脱ガムはリンを検出できない水準まで下げ、エタノール脱ガムは0.022ミリグラム、Folch法は0.185ミリグラムにとどまりました。ただし著者らは、リンの除去率だけでは処理の良し悪しは決まらないとしています。実際、油の回収率が最も高かったのは水脱ガム(98.42%)で、エタノール脱ガム(96.36%)、Folch法(95.59%)、酸脱ガム(95.24%)と続きました。これに対してリン脂質の回収率は酸脱ガムが最も高く(83.22%)、エタノール脱ガム(66.60%)、水脱ガム(48.63%)、Folch法(40.90%)の順でした。つまり、リン脂質を最も多く回収した方法が、油をいちばんよく残した方法ではなかったという、いわばトレードオフが見られました。なお回収されたリン脂質画分の純度は、いずれの方法でも93.38〜95.49%と高い水準でした。

リン脂質の内訳にも方法ごとの違いが現れました。どの試料でもPCとホスファチジルエタノールアミン(PE)が主要な成分でしたが、その割合は処理によって変わりました。水脱ガムはホスファチジルイノシトール(PI)が最も多く(19.32%)、酸脱ガムはPCが減ってPEが増え(それぞれ35.18%、35.92%)、エタノール脱ガムはPCが最も高く(40.59%)、リゾホスファチジルコリン(LPC)も最も高い値(7.89%)を示しました。油そのものの脂肪酸組成は、どの処理でもほとんど変わらず、オレイン酸が約57.5%、リノール酸が約24.4%で推移しています。

酸化に関する指標では、粗油が最も過酸化物価が低くOITが長く、処理後はいずれも過酸化物価が上がりOITが短くなりました。エタノール脱ガムは過酸化物価が最も高かった一方で、脱ガム油のなかではOITが最も長いという結果でした。著者らは、過酸化物価が測定時点の過酸化物量を表すのに対し、OITはその後の酸化への耐性を示す指標であるため、両者を切り離して読むべきではないと説明しています。また、すべての試料で過酸化物価は5 mEq/kgを下回っており、一次酸化の程度自体は低いとしています。

カロテノイドやトコフェロール、植物ステロールは粗油で最も多く、どの処理でも程度の差はあれ減少しました。ただし著者らは、これらは強い疎水性をもつため、減少をそのまま「水やアルコールの側へ移った」と解釈すべきではなく、ガム相への油の巻き込みや加工中の分解など複数の可能性があり、今回のデータではそれらを区別できないと明言しています。さらにエタノール脱ガムと粗油を比べた多変量解析、メタボローム解析、リピドミクス解析では、両者が明確に分かれ、リン脂質の分子種レベルでも組成が組み替わっていたことが報告されています。

この研究が示すこと

著者らの結論は、三つの脱ガム法のどれが優れているかではなく、それぞれが異なる目的に向いているという点にあります。油の損失を抑えつつ純度の高いリン脂質画分を得たい場合は水脱ガム、リン脂質の回収量を最大にしたい場合は酸脱ガム、そして両者の中間的なバランスを取りつつPCとLPCに富む画分を得たい場合はエタノール脱ガムが適する、という整理です。どの方法も、カロテノイド・トコフェロール・植物ステロール・リン脂質のすべてを同時に最大化することはできませんでした。

著者らはまた、今回の比較が同一ロットの粗油を用いた実験室規模のものであり、工業的な性能を直接裏づけるものではないと繰り返し述べています。とくにエタノール脱ガムについては、連続運転や溶媒の回収、安全性、エネルギー消費などをパイロット規模で評価する必要があるとしています。

脱ガムを「不要なものを取り除く工程」としてだけでなく、「油とリン脂質画分の両方の組成を決める工程」として捉え直した点が、この研究の視点です。精製の副産物として扱われてきたガムが、どのような成分構成をもつのかを、方法ごとに並べて示したことに意味があります。

著者:Hongli Huang(College of Food Science and Engineering, Northwest A&F University, Yangling 712100, China)、Fangcheng Shao(College of Food Science and Engineering, Northwest A&F University, Yangling 712100, China)、Xinlei Feng(Shandong Animal Products Quality and Safety Center, Jinan 250100, China)、Jun Jin(State Key Laboratory of Food Science and Resources, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Siyu Zhang(College of Food Science and Engineering, Northwest A&F University, Yangling 712100, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hongli Huang, Fangcheng Shao, Xinlei Feng, et al. Comparative Degumming of Rapeseed Oil: Phospholipid Recovery, Bioactive Lipid Concentrations, and Molecular Remodeling. Molecules 2026-09-04. DOI: 10.3390/molecules31173099. 原著ライセンス:CC BY.