台風や病虫害、気候変動の影響で立ち枯れたり倒れたりした木、いわゆる「枯死木」は、これまで見た目の悪さや管理の手間から、森林の中では取り除くべき対象として扱われがちでした。しかし枯死木は分解されるまでの間、内部に炭素を蓄え続けており、大気中の二酸化炭素を減らすうえで一定の役割を果たしていると考えられています。気候変動により樹木が大量に枯れるリスクが高まる中、この枯死木の機能を人々がどう捉え、どれくらいの価値があると感じているのかを、金額という分かりやすい指標で明らかにしようとしたのが今回の研究です。

研究を行ったのは京都大学大学院農学研究科のOmori氏で、日本森林学会誌に発表されました。

どのように調査したのか

この研究では、日本全国を対象にウェブアンケート調査を実施し、1,258件の有効な回答をもとに分析が行われました。調査では「仮想評価法」と呼ばれる手法が使われています。これは、実在しない仮想的な政策やサービスに対して、人々が支払ってもよいと考える金額(支払意思額、WTP)を尋ねることで、市場で直接取引されない自然の機能に金銭的な価値を与える手法です。今回はさらに「ダブルバウンド方式」という、最初に提示した金額への回答に応じて追加で別の金額を尋ね、より精度の高い推定を行う方法が採用されました。

具体的には、枯死木を残す人工林の面積について、2025年時点で全体の1%程度である状況から、2050年までに(A)5%、(B)10%まで増やす森林管理を行った場合、炭素を貯蔵する機能がどれだけ向上するかという2つのシナリオを回答者に提示し、それぞれに対する支払意思額を尋ねました。得られた回答は「ランダム効用モデル」という統計手法で分析されています。

何がわかったのか

分析の結果、支払意思額の中央値は、シナリオ(A)で1世帯あたり年間2,182円、シナリオ(B)で年間2,521円と推定されました。この金額を社会全体に当てはめると、シナリオ(A)の場合、枯死木による炭素貯蔵の便益は年間およそ1,200億円にのぼると試算されています。

支払意思額には回答者の属性による違いも見られました。年齢が高い人、世帯収入が600万円以上の人、学士以上の学歴を持つ人ほど、支払意思額が高くなる傾向が示されています。また、枯死木が持つ機能として炭素貯蔵だけでなく、土壌への栄養素供給、動植物の生息場所の提供、新たな樹木が育つ場としての役割を重視している人ほど、そして人間の経済活動が生態系に影響を与えていると認識している人ほど、支払意思額が高くなる傾向も示唆されました。これらの結果から、著者は「枯死木は価値が低い」と単純には言い切れないと指摘しています。

この研究を読むうえで

今回の結果は、あくまで日本全国を対象としたウェブアンケート調査という一つの手法に基づく推定であり、実際に人々が森林管理にその金額を支払うかどうかを直接確かめたものではありません。仮想評価法自体、回答者が仮想的な状況を想像して答えるという性質上、実際の行動とは異なる可能性がある点にも留意が必要です。また、今回示された金額や傾向は特定の調査時点・条件のもとで得られたものであり、この一つの研究をもって枯死木の価値が確定的に定まったわけではありません。

とはいえ、目に見えにくい森林の機能を具体的な金額という形で示したこと自体は、今後の森林管理のあり方を考えるうえでの一つの材料になりそうです。

まとめ

この研究では、気候変動により増加が懸念される枯死木について、その炭素貯蔵機能に対する社会の評価を、全国規模のアンケート調査と仮想評価法を用いて金額換算する試みが行われました。人工林で枯死木を残す取り組みに対し、1世帯あたり年間2,000円台の支払意思額が示され、年齢や収入、学歴、生態系への関心の高さなどによって評価に差が見られたことが報告されています。枯死木を一律に「価値が低いもの」とみなすのではなく、その多面的な機能に目を向ける視点を提供する研究といえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yui Omori. 枯死木の生態系サービス価値はどのように評価されるのか?. 日本森林学会誌 (2026). DOI: 10.4005/jjfs.108.186. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.