著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Indonesian Journal of Life Sciences
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
テムラワクとクルクミンをめぐる課題
テムラワク(学名クルクマ・キサントリザ)は、インドネシア原産のショウガ科の植物です。料理の香辛料として使われるほか、インドネシアの伝統的な生薬飲料「ジャムウ」の主な材料にもなってきました。その働きの中心とされるのが、根茎に含まれる黄色の色素成分クルクミンと、その仲間であるクルクミノイドです。
クルクミンについては、酸化を抑える抗酸化作用、炎症を抑える抗炎症作用、微生物の増殖を抑える抗菌作用などが数多く研究されてきました。一方で、水に溶けにくく、体内ですぐに代謝されてしまうため、口から取っても吸収されにくいことが知られています。体に取り込まれて利用される度合いを「生体利用率」と呼びますが、クルクミンはこれが低いのです。
インドネシアの研究チームによるこの論文は、新たな実験の報告ではなく、これまでの研究をまとめた総説です。著者らは、テムラワク由来のクルクミンについて、成分の性質、報告されている健康上の働き、安全性、そして食品や医薬品に生かすための技術開発の現状を整理することを目的としています。
成分の特徴と不安定さ
総説では、テムラワクに含まれるクルクミンの総量は約2.3%と紹介されています。含有量は、混合物から個々の成分を分離して量を測る高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という分析法で調べられます。
クルクミンは扱いにくい性質も持っています。水に溶けにくく、とくに酸性の条件では溶けにくくなります。また、アルカリ性では不安定になり、酸性では結晶として析出します。光にさらされると構造が変わって分解します。熱には比較的強く80〜85℃程度には耐えるとされますが、180℃で70分焙煎するような条件では分解し、バニリンなどのより小さな化合物に変わって本来の働きが弱まると紹介されています。
報告されている健康上の働きと安全性
著者らは既存研究をもとに、クルクミンの働きを分野ごとに整理しています。抗酸化作用では、活性酸素を取り除く働きや、細胞を酸化ストレスから守る酵素を増やす働きが報告されています。炎症については、炎症に関わる遺伝子のスイッチ役であるNF-κBを抑え、炎症を促す物質(サイトカイン)を減らすことが、関節リウマチやぜんそくの研究で示されているとされます。ぜんそくを対象とした無作為化比較試験では、1日3000mgのクルクミンを数週間取ることで、ぜんそくのコントロールや肺機能が改善したという報告も紹介されています。
このほか、がん細胞の増殖や腫瘍に栄養を送る血管の形成を抑える働き、アルツハイマー病のモデルマウスで脳内のアミロイドβの生成が減ったという報告、黄色ブドウ球菌や大腸菌、カンジダなどの細菌・真菌に対する作用も取り上げられています。ただし、これらの多くは細胞や動物を使った研究であり、人での効果は吸収の悪さのために結果がばらつく点が課題として示されています。
安全性については、米国食品医薬品局(FDA)がクルクミンを一般に安全と認められる物質(GRAS)に分類していること、臨床研究では1日8gまでを数か月取っても重い毒性は見られなかったことが紹介されています。一方で、胃腸の不快感や吐き気、下痢などの軽い副作用が出る場合があり、高用量を長期間取った場合の影響はまだはっきりしていません。鉄の吸収や肝臓の酵素、血液を固まりにくくする薬への影響の可能性もあり、注意が必要だとされています。インドネシアでは、食品医薬品監督庁(BPOM)の規則のもとでジャムウや健康食品の原料として使用が認められていることも整理されています。
吸収と安定性を高める技術
総説の後半では、クルクミンを産業的に活用するための技術開発が紹介されています。抽出では、従来の高温・大量の溶媒を使う方法に代わり、超音波を使った抽出法が注目されています。紹介された研究では、約30℃の低温で処理するため熱による分解を防ぎつつ、従来法と比べて52分という短い時間で8.4倍のクルクミノイドが得られたと報告されています。
加工面では、クルクミンを別の素材の膜で包み込む「マイクロカプセル化」が取り上げられています。マルトデキストリンやアラビアガムなど1種類の膜材だけで包むと粒子の形が不ぞろいで表面も粗くなりましたが、β-シクロデキストリンを加えた複合的な膜材では粒子がなめらかになり、保存中の温度やpHに対する安定性が高まったという研究が紹介されています。さらに、クルクミンを炭水化物の一種である多糖類のコンドロイチン硫酸と組み合わせて微小な粒子(ナノフィトソーム)にし、薬が効きにくいマラリアの治療に用いたという研究にも触れています。
著者らは、クルクミンには幅広い活用の可能性がある一方、溶けやすさの改善、体内での放出を制御する仕組み、食品・医薬品の規制への適合といった点で、産業利用の最適化はまだ課題が残るとまとめています。伝統的に親しまれてきたテムラワクの成分を現代の製品に生かすには、成分そのものの働きだけでなく、それを体に届ける工夫が鍵になることを示す総説といえます。
原著論文の著者・所属:Ellyn Patricia(i3L University, Jakarta, Indonesia)、Janice Clarisa Tissadharma(i3L University, Jakarta, Indonesia)、Kimberly Alecia Theo(i3L University, Jakarta, Indonesia)、Natasya Nobelta(i3L University, Jakarta, Indonesia)、Livia Janica(i3L University, Jakarta, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ellyn Patricia, Janice Clarisa Tissadharma, Kimberly Alecia Theo, Natasya Nobelta, Livia Janica Curcumin in Temulawak: Bioavailability, Health Benefits, and Potential Application. Indonesian Journal of Life Sciences 2026-09-30. DOI: 10.54250/ijls.v8i02.247. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。