この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
魚粉に頼らない養殖魚は、おいしさを保てるか
地中海の養殖では、ヨーロッパヘダイ(学名 Sparus aurata、英名 gilthead sea bream)が経済的に重要な魚種です。従来の養殖用飼料は、天然魚から作る魚粉と魚油に大きく依存してきました。しかし、これらの海洋資源には限りがあります。そのため、配合量を減らす取り組みが続いています。
研究チームによると、同じ飼料を使った先行研究で、魚の成長、健康状態、切り身の脂質の栄養価が保たれることがすでに報告されていました。一方で、消費者が感じる品質、つまり見た目、食感、香り、味わいに違いが出るかは、ほとんど調べられていませんでした。そこで本研究は、持続可能性に配慮した飼料が、ヨーロッパヘダイの物理的・化学的・官能的な品質にどう影響するかを明らかにすることを目的としました。
3種類の飼料と2つのサイズで比較
比較したのは、エネルギー量とたんぱく質量をそろえた3種類の飼料です。1つ目は魚粉を主体とする対照飼料(FM)です。2つ目は鶏肉由来の原料などを使う加工動物性たんぱく質の飼料(PAP)です。3つ目は昆虫ミールと微生物バイオマスを含む代替飼料(ALT)です。
稚魚を2022年5月から2023年9月まで飼育しました。そして、家庭向けに流通する約300グラムと、飲食店などの業務用に向く約800グラムの2つの段階で魚を採取しました。
切り身については、主に次の項目を調べました。機械で測る食感と色、加熱による重量の減り方を測定しました。味に関わる遊離アミノ酸も分析しました。遊離アミノ酸は、たんぱく質に組み込まれずに単独で存在するアミノ酸で、甘味・うま味・苦味に関わります。また、香りのもとになる揮発性成分も分析しました。
さらに、訓練を受けた10人の評価者が、加熱した身の外観、風味、食感の強さを採点しました。週に1回以上魚を食べる消費者81人には、好ましさを評価してもらいました。
食感はおおむね変わらず、味や香りの成分には違い
機械による測定では、食感と加熱時の重量減少は、飼料の違いにほとんど影響されませんでした。色については、800グラムの魚で測定しています。生の切り身では、魚粉飼料の魚のほうが黄色みと色の鮮やかさが高くなりました。一方、加熱後はPAPとALTの魚のほうが高くなりました。
遊離アミノ酸では、PAPの魚で、甘味に関わるアミノ酸と遊離アミノ酸の総量が最も多くなりました。800グラムの魚では、PAPの総量は魚粉飼料より約66%多かったと報告されています。うま味に関わる遊離アミノ酸の量は、どちらのサイズでも飼料による有意な差はありませんでした。
香りの成分では、800グラムの魚から55種類の揮発性成分が見つかりました。最も多かったのは、柑橘や樹脂、ハーブのような香りと結びつくテルペン類で、全体の約49〜54%を占めました。テルペン類の割合は、PAPとALTの魚で魚粉飼料より高くなりました。著者らは、飼料に含まれる植物由来原料などが関係している可能性を挙げています。脂質の酸化の目安とされるアルデヒド類には、飼料による差がみられませんでした。
消費者の評価はいずれの飼料でも良好
訓練された評価者による試験では、ALTの魚は加熱後の噛みごたえと硬さが高く評価されました。また、うま味は、PAPとALTの両方で強く感じられたと報告されています。
消費者試験では、好ましさを0〜10の11段階で評価しました。その結果、3種類の飼料すべてで「どちらでもない」にあたる5を上回る評価が得られました。PAPの魚は、油の風味、口の中での油っぽさ、後味の項目で高い評価を受けました。著者らは、この違いについて、脂肪の総量ではなく脂肪酸の組成と関係している可能性を指摘しています。
なお著者らは、各飼料の魚が2つの水槽で飼育されていたことを挙げています。そのため、水槽ごとの影響を完全には除外できないと述べています。
研究チームは全体として、魚粉をPAPやALTに置き換えても、切り身の品質と消費者にとっての魅力は保たれると結論づけています。この結果は、魚粉や魚油への依存を減らした飼料でも、食べる人が求めるおいしさを維持できる可能性を、食感・色・味・香りの面から示したものといえます。
著者:Marta García Rodríguez(Instituto de Investigación e Innovación Agroalimentaria y Agroambiental (CIAGRO-UMH), Universidad Miguel Hernández, Carretera de Beniel, km 3.2, 03312 Orihuela, Alicante, Spain)、Luis Noguera‐Artiaga(Instituto de Investigación e Innovación Agroalimentaria y Agroambiental (CIAGRO-UMH), Universidad Miguel Hernández, Carretera de Beniel, km 3.2, 03312 Orihuela, Alicante, Spain)、Josep À. Calduch-Giner(Fish Nutrigenomics and Integrative Biology, Institute of Aquaculture Torre de la Sal (IATS, CSIC), 12595 Ribera de Cabanes, Castellón, Spain)、Francisca Hernández(Instituto de Investigación e Innovación Agroalimentaria y Agroambiental (CIAGRO-UMH), Universidad Miguel Hernández, Carretera de Beniel, km 3.2, 03312 Orihuela, Alicante, Spain)、Ángel Antonio Carbonell-Barrachina(Instituto de Investigación e Innovación Agroalimentaria y Agroambiental (CIAGRO-UMH), Universidad Miguel Hernández, Carretera de Beniel, km 3.2, 03312 Orihuela, Alicante, Spain)、Ana M. Solivella-Poveda(Instituto de Investigación e Innovación Agroalimentaria y Agroambiental (CIAGRO-UMH), Universidad Miguel Hernández, Carretera de Beniel, km 3.2, 03312 Orihuela, Alicante, Spain)、Álvaro Belenguer(Fish Nutrigenomics and Integrative Biology, Institute of Aquaculture Torre de la Sal (IATS, CSIC), 12595 Ribera de Cabanes, Castellón, Spain)、Jaume Pérez‐Sánchez(Fish Nutrigenomics and Integrative Biology, Institute of Aquaculture Torre de la Sal (IATS, CSIC), 12595 Ribera de Cabanes, Castellón, Spain)、Esther Sendra(Instituto de Investigación e Innovación Agroalimentaria y Agroambiental (CIAGRO-UMH), Universidad Miguel Hernández, Carretera de Beniel, km 3.2, 03312 Orihuela, Alicante, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marta García Rodríguez, Luis Noguera‐Artiaga, Josep À. Calduch-Giner, et al. Evaluating the Sensory Profile and Quality Traits of Sparus aurata Fed Sustainable Diets. Foods 2026-10-10. DOI: 10.3390/foods15203590. 原著ライセンス:CC BY.