著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Frontiers in Marine Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

研究チームは、波の力で深い場所の海水をくみ上げるポンプが、ケルプと呼ばれる大型海藻の養殖環境を改善し、生産量を増やせるかを調べました。対象としたのはメーン湾です。

ケルプの生産には栄養となる硝酸塩が関わり、生存には適した水温が重要です。暖かい季節に表層と深層の間に水温差ができる海域では、深い場所に低温で硝酸塩の多い水があります。著者らは、この水を養殖場へ送り込む「人工湧昇」の可能性を、数値モデルで検討しました。

何を、どのように調べたか

研究チームは、現地で複数年にわたって得られた水温、硝酸塩濃度、波の観測データを使い、波力ポンプによるくみ上げ量と、養殖場の水温・硝酸塩濃度の変化を計算しました。中心となる比較は、面積1ヘクタールのモデル養殖場にポンプを3台置く場合と、置かない場合です。

続いて、計算した水温と硝酸塩濃度を、シュガーケルプという種の既存の成長モデルに入力しました。海流の速さと光の量には観測データを用い、これらはポンプの有無で同じ条件に保ちました。葉の面積の成長を計算し、それを養殖場全体の乾燥重量に換算して、生産量を比較しました。入力値の不確かさを変えた計算も行っています。

主な報告結果

モデルでは、ポンプ3台によって暖かい季節の養殖場の水温が下がりました。6~10月の平均水温は、ポンプなしでは16.3℃、ポンプありでは15.3℃と推定されました。著者らは、この期間の平均的な冷却幅を1.0±0.15℃と報告しています。

硝酸塩濃度への影響が目立ったのは6~9月でした。同じ深さの養殖場で、ポンプなしの平均濃度が0.2マイクロモル毎リットルだったのに対し、ポンプありでは、計算に使う条件によって0.3~1.3マイクロモル毎リットルになりました。

これらの環境条件を成長モデルに適用すると、年間生産量の中心推定値は、乾燥重量で1ヘクタール当たり9.3トンから10.2トンへ増えました。論文が報告した増収率は約9.5%です。ただし、不確かさを含む増収率の幅は、増収が得られない場合も含んでいました。これらは養殖場でポンプを稼働させて測定した収穫量ではなく、モデルによる推定です。

この報告が示すこと

著者らは、栄養が不足し、季節的に水温が高くなる温帯の海域では、波力による人工湧昇がケルプ養殖を助ける可能性があると結論づけています。その効果を左右するのは、くみ上げ量だけでなく、冷たい海水が養殖場のどこに届き、どの程度混ざるかです。

今回の計算は、くみ上げた水が理想的に混ざることを仮定し、水平方向への海水の移動などを省いた簡略化モデルです。成長モデルも、成長を制限する栄養素を硝酸塩だけとし、ケルプ同士の遮光や付着生物、食害などを含んでいません。また、今回使った改良型ポンプの流量は、実験室や海での試験ではまだ検証されていません。この報告は、こうした条件のもとで成立する、人工湧昇の予備的な可能性を示しています。

原著論文の著者・所属:Chelsea Kimball(Atlantic Marine Energy Center, University of New Hampshire)、Martin Wosnik(Atlantic Marine Energy Center, University of New Hampshire)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chelsea Kimball, Martin Wosnik. Effects of wave-powered water pump upwelling on kelp mariculture: a case study for Gulf of Maine. Frontiers in Marine Science(出版社:Frontiers Media) 2026-09-04. DOI: 10.3389/fmars.2026.1881744. 原著ライセンス:CC BY.