日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
カンキツ黄龍病(HLB、カンキツグリーニング病とも呼ばれる)は、世界のカンキツ生産に深刻な被害を与える病気です。この病気には、植物の養分の通り道である師部に住む細菌が関わっています。その一つが「カンジダトゥス・リベリバクター・アジアティカス(CLas)」です。CLasはゲノムが非常に小さく、多くの代謝機能を欠いています。そのため、宿主の植物や周囲に共存する微生物に頼りながら増殖していると考えられています。
感染したカンキツでは、植物ホルモンのバランスが崩れることが知られています。植物ホルモンの一つであるアブシシン酸(ABA)は、乾燥などのストレスへの対応を担います。研究チームは以前、CLasに関連する微生物群集でフラボバクテリウム科の細菌が増えていることを報告しました。さらに最近、別の研究で、感染樹からフラボバクテリウム属の新しい菌株CGRL1とCGRL2が分離されています。
一方、細菌がABAを分解する仕組みはほとんど分かっていません。ABAを「デヒドロボミフォリオール」という別の化合物に変える細菌は、これまでロドコッカス属の1株でしか報告されていませんでした。そこで著者らは、黄龍病のカンキツで起きるホルモンの乱れに、病原細菌とその関連細菌によるABAの変換が関わっているのかを調べました。
何を調べたか
研究チームは、CLasのIshi-1株を接ぎ木で感染させたラフレモンの樹を使いました。健全な葉、感染していても症状が出ていない葉、症状が出ている葉、そして根を比べました。各組織に含まれるCLasの量はDNAを増幅して測る方法で調べ、ABAとデヒドロボミフォリオールの量は高感度の質量分析で測定しました。
次に、Ishi-1株とフラボバクテリウム属のCGRL1株・CGRL2株を、ABAを加えた培養液で育てました。この実験では、培養液中のABAが減るか、デヒドロボミフォリオールができるか、ABAが細菌の増殖に影響するかを確かめました。ABAには立体構造の異なる2つの型(Z型とE型)があり、両方を試しています。
主な結果
症状のある葉と症状のない葉では、CLasの量に統計的に意味のある差はありませんでした。一方、ホルモン量には大きな違いが見られました。症状のある組織では、健全な組織に比べてABAが有意に少なくなっていました。組織1グラム当たりで見ると、葉では健全な組織の約64ナノグラムに対して約13ナノグラム、根では約13ナノグラムに対して約5ナノグラムでした。反対にデヒドロボミフォリオールは有意に多く、葉では約3.5ナノグラムに対して約13ナノグラム、根では約24ナノグラムに対して約64ナノグラムでした。症状のない葉にも同じ方向の傾向がありましたが、統計的に有意な差ではありませんでした。
培養実験では、3つの菌株すべてが培養液中のABAを有意に減らしました。Ishi-1株では、残ったABAの割合がZ型で約11%、E型で約41%でした。CGRL1株はABAを約75〜83%減らし、CGRL2株は約22〜23%減らしました。細菌を入れなかった培養液では、ABAに有意な変化はありませんでした。
細菌を入れた培養液ではデヒドロボミフォリオールがはっきり蓄積しましたが、細菌を入れなかった培養液では検出されませんでした。著者らはこの結果から、これらの菌株が培養条件下でABAをデヒドロボミフォリオールに変換できると報告しています。
さらに、ABAを加えるとIshi-1株の増殖が有意に高まりました。CGRL1株も、培養6日目に一時的に増殖が上回りました。論文は、ABAが細菌にとって栄養源や増殖を促す要因になっている可能性を示唆しています。
研究が示すこと
この研究で確かめられたのは、症状のある組織でABAが少なくデヒドロボミフォリオールが多いことと、3つの菌株が培養条件下でABAをデヒドロボミフォリオールに変換できることです。これらを合わせて著者らは、黄龍病で見られるホルモンの乱れには、植物自身の反応だけでなく、病原細菌とそれに伴う細菌によるABAの変換も少なくとも一部寄与している可能性があると示唆しています。ただし、植物体内でのABAの減少が実際に細菌の働きによって生じたかどうかは、この研究では直接検証されていません。
著者らはこの結果を、植物ホルモンが微生物の代謝に取り込まれ、別の化合物として植物の環境に戻されうることを示す一例として位置づけています。一方で、変換の具体的な代謝経路はまだ解明されていません。また、蓄積したデヒドロボミフォリオールが病気の進行に積極的に関わるのか、それとも感染の結果として現れているだけなのかも、まだ分かっていません。
原著論文の著者・所属:Kosuke Yamada(Graduate School of Agriculture, Meijo University)、Azusa Fukushima(Graduate School of Agriculture, Meijo University)、Takashi Fujikawa(Institute for Plant Protection, National Agriculture and Food Research Organization (NARO))、Hiroyuki Nakagawa(Research Center for Advanced Analysis, Core Technology Research Headquarters, National Agriculture and Food Research Organization (NARO))、Kosuke Namba(Department of Chemistry, Graduate School of Science, The University of Osaka)、Kazuki Fujiwara(Graduate School of Agriculture, Meijo University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kosuke Yamada, Azusa Fukushima, Takashi Fujikawa, et al. Abscisic acid metabolism to dehydrovomifoliol by Candidatus Liberibacter asiaticus and CLas-associated Flavobacterium strains CGRL1 and CGRL2. Frontiers in Microbiology 2026-09-15. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1940325. 原著ライセンス:CC BY.