「ビタミンDをちゃんと食べているつもりなのに、検査値が思ったより低かった」——そんな経験はありませんか?食事から摂るビタミンDの量と、実際に体内で測定される量との間にズレが生じる理由を探る研究が、米国国立標準技術研究所(NIST)を中心とした研究グループによって進められています。農業と食品化学誌に発表されたその知見は、食品中のビタミンDの「形」に注目したものです。

研究でわかってきたこと

ビタミンDには、食品に含まれる「ビタミンD」そのものの形と、体内で代謝された後の形である「25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)」があります。この25(OH)Dは、通常のビタミンDより体内で利用されやすい(バイオアベイラビリティが高い)可能性が示唆されており、食品中に含まれていれば、ビタミンDの摂取状況をより正確に評価するうえで重要な指標になると考えられています。

ところが従来、食品中の25(OH)D含量は十分に調べられてきませんでした。今回の研究では、同位体希釈液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析法(ID LC-MS/MS)という高精度な分析技術を用いて、標準試料(SRM)中のビタミンDおよび25(OH)Dの含量を正確に値付けすることに成功したと報告されています。これは食品分析の「ものさし」となる標準物質の整備を意味し、将来的に各食品のより正確なビタミンD評価につながる可能性があると、研究では示唆されています。

つまりこの研究は「何を食べれば良いか」を直接示すものではなく、食品に含まれるビタミンDをより正確に把握するための計測基盤を整えるという、地道ながら重要な一歩を記録したものです。食品の表示や成分データの精度を底上げしていく、いわば「計量の科学」の進歩といえます。

なぜ計測基盤の整備が重要なのか

食品成分データベースに収録される栄養値は、分析方法の精度に直接依存します。標準試料(SRM)の値付けが高精度になることで、各研究機関や食品メーカーが用いる分析法の妥当性検証(バリデーション)が可能になり、結果として食品成分表に記載される数値の信頼性が向上します。ビタミンDのように、摂取量と体内測定値の間にしばしばズレが観察される栄養素においては、この「計量の土台」を整えることが、栄養疫学研究や食事指導の精度改善にもつながると期待されています。

日々の食事に取り入れるヒント

ビタミンDを食事から意識的に摂るうえでポイントになるのは、食品中の「どの形のビタミンDがどれだけ含まれているか」という情報の精度です。今回の研究が示すように、食品データの計測精度を高める取り組みは現在も進行中であり、今後の食品成分データの更新に注目することも、食の知識をアップデートするひとつの方法です。

一般的にビタミンDを比較的多く含む食品として知られるのは、さけさんまかつおなどの魚類や、きのこ類です。最新の日本人の食事摂取基準(厚生労働省)では、ビタミンDの目安量は成人男女ともに8.5 µg/日と設定されており、日照による皮膚合成も考慮されることから、食事と生活習慣の両面から考えることが大切とされています。

また、食品中のビタミンDと25(OH)Dをどう摂るかという議論は、今まさに科学が精緻化しつつある段階です。特定の食品を「これさえ食べれば」と考えるより、魚・きのこ乳製品などを日替わりでバランスよく食卓に並べる習慣が、長い目で見た食事の底力になるでしょう。

多様な食品に関するデータは食品群一覧からもご覧いただけます。食材の栄養を「数字で見る」習慣が、食選びの楽しさをひとつ増やしてくれるかもしれません。

食事から摂る栄養素の量と体内での利用のされ方は、まだ解明途上の部分も多い分野です。研究の最前線と日常の食卓をつなぐ視点を持ちながら、バランスのとれた食生活を楽しんでいきましょう。食品の多様性を大切にしながら、「なぜこの食品には○○が多いのか」と興味を持って食べることが、長く続く食習慣の土台になります。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:Value Assignment of Vitamin D and 25-Hydroxyvitamin D in Food-Matrix Standard Reference Materials (SRMs) Using Isotope Dilution Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry (ID LC-MS/MS)(農業と食品化学誌(2026-05-13))